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違世界ダイジェスト  作者: ながずぼん
第二部 二つの塔のようなもの 第1章 チベット~ネパール・北インド編
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第22話 ねえ、蓮華の宝珠ってどうおもう?

 ラサを出発したら高地をそのまま西へ向かう。

 インドは南西にあるが南はブ厚い山脈越えになるため、西の山脈の薄いところを越えていく必要がある、と緑川の弁。ネパールの西側からインドに入るそうだ。

 川沿いの平坦な道をヤクの背に揺られて進む。

 先代ラマの話はセンセーショナルではあったけれど、旅の目的も行動もパーティの関係もなんら変わりがない。できることなら他の召喚者とも合流しつつ『大陸の先』へ進んでドラゴンを討伐し元の世界へ還るだけ。


 昼時になったが街もないので道端で休憩。ラサではバター茶を作るための火熾しを教えてもらったが、火打石なんか使ったことないし風が吹きすさぶこんな場所では無理で、火の精霊も不在。そうなると昨日までと同じように干し肉を齧り革袋の水を口に含んでふやかしながら食べる。

 午後は山の上の城?要塞?を横目に見ながら進むと街が見え始める。

 ギャンツェという街。今夜はここに泊まる。アカサカさんの情報はなかった。

 翌朝出発し、ゆるやかな上り坂を進む。麦畑の道を行って昼休憩。平和だ。

 昼を食べたシガツェという街は大きな寺の金ぴかの屋根が眩しかった。寺なのに。

 午後もほぼ平らで日が高いうちに目的地ラツェに到着する。ここでもアカサカさんの情報はなし。夕食時、明日もゆるい登りで気負う必要はないと緑川に説明を受けた。


 翌日は高地からさらに高地へ進んでいるから、途中で植物を見なくなった。赤茶けた岩ばかり。そして昨日から左手に見えていた壁。あの壁から離れていく。この高山から見ても壁にしか見えないアレは「チョモランマですよ」と緑川が教えてくれた。

 昼の休憩はディンリという村。とても風が強いので建物はおしなべて半地下に埋めたような造り。食堂も半地下で、トゥルパというこの地方の名物料理だという、うどんのようなものを食べた。山椒が効いていて身体が温まる。

 午後もゆるやかな上り坂。斜面の勾配は朝からずっと一緒な感じ。

 急激な高低差を乗り越えないので、三人とも呼吸は楽ではなかったが高山病の気は出していなかった。そしてこの日も早めに宿泊地に着く。ニヤラムという街。


 街の中を流れる小川にくるくる回る筒があった。白井は街の人にあれは何かと尋ねると「ルを鎮めている」と言う。「ル」とは水の精霊であり『ナーガ』という蛇なのだそうだ。

 水を汚すと精霊が怒って祟りが起きるとされているようで、それを鎮めるお経がくるくる回る筒であり、回転することで読経”していること”になっているそうだ。

 「ここにも川の中の蛇がいて水の精霊なんだそうです」白井が聞いた話を二人に聞かせると「伝承というのはたいがい生活の知恵だったり禁忌を物語化したものが多いですからね。水を汚すなとか夜に爪を切るなとか」と緑川は怖がらなかった。

 「ナーガ…蛟みたいな魔物なんですかね…大人しくしてて欲しいなあ」と青山は怖がっていた。―――先代ラマはナーガのこと言ってなかったけど、火の精霊の同列の水の精霊とは違うのかな?


 宿屋で一泊して翌朝出発する前、装備の確認をしつつ緑川から行程説明がある。


「ここから3日かけて4500m降ります。この時代のチベットは中国よりネパールの方が近しいので、きっと岩壁には例のスロープがあるでしょう。でも一気に降りると体調を崩すので一日1500mを限度としましょう」


「崖の途中で野宿するんですか?」


「いえ。おそらく道中にはキャラバンサライという岩をくり抜いた宿か、洞窟寺院の類があると思われるので、スロープで野宿ということはないでしょう」


 さすがの緑川も断言はできなかったが、それでもスロープや宿があると期待して良さそうだった。


 街を出て南に向かう。道の向こうには山がなく崖であることを示している。

 その崖に向かう道の脇に、ソフトクリームのような形の白い石がずらずらっと並んでいる。

 石の足元に刻まれた文字が白井の目に飛び込んでくる。


『オン・マニ・ペメ・フム』


 言葉の意味はわからないが読めた。文字は街で見かけたこの地方のものだ。

 意味がわからないのはどうしてだろう。先代ラマに言われた「馴染んでいない」からなのだろうか。もしかして意味がない言葉だったりするのか。白井はそんなことをぼんやりと考えながらヤクの背に揺られていた。

 やがて4500mを一気に駆け下りる九十九折の青黒いスロープの入口に差し掛かる。

 三人はヤクを急がせないようにのんびり下る。

 体感で一時間置きに体調を確認し合って高度を下げていく。昼食は干し肉。

 まだ明るいうちに緑川の予想していた崖のちょっとした平坦に岩を掘った宿が現れる。それがキャラバンサライだった。

 夕食はバター茶だけもらい、投擲武器としての役目でしかなかった漬物石のようなパンを砕いて、茶に浸して食べた。三人とも「うん」としか感想を言わなかった。

 ―――明日の夜もこれだろうけど、残ったら武器として使おう。


 翌日も九十九折のスロープを降りる。

 そして現れたキャラバンサライに泊まる。

 その夜に三体目の魔獣と遭遇する。

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