第20話 ねえ、人類の叡智ってどうおもう?
高慢ちきなボス坊主との会話で少々苛立ったのが顔に出ていたのか、青山が白井に心配そうな目を向ける。それに気付いた白井は小さく頷き「ふぅっ」と息を吐く。
「では精霊についてお尋ねします。あなたは精霊の居場所が見えると聞いてここまで来ました。精霊の加護を持った召喚者があと3人いるはずなのですが、どこにいるかおわかりになりますか?」
白井が一気にまくし立てるように問い掛けると、ボス坊主は顎をさすりながら「どの精霊か」と質問に質問で返す最高にイラっとするやり口で尋ねてくる。
「算術と科学、それから肉体です」
「ほう、三人か。で、お布施はいくら出せる?」
思ってもみなかった返事に白井は言葉を失う。
情報料を払えと言っている、一番偉い坊主が。―――ブッフォンの糞よりクソだ!
「えーと、ちなみに相場は?一人当たりいかほどで?」堪えて尋ねる。
「あまり少ないと見えぬかもしれぬのう」
白井は足が震えているのを感じた。「精霊の居場所が知りたきゃ金寄越せって言っています。どうします?払います?僕は嫌ですけど」と声を震わせながら緑川に確認すると「やめましょう。旅をしていれば会えますよ、きっと」と言って立ち上がる。
「僕たちの世界のラマの爪の垢でも煎じて飲んだほうがいいよおたく」
緑川は吐き捨てるように言って部屋を出ていく。
「わたし、何を言っているのかわからないけど、感じ悪いのだけ伝わりました」
青山も罵倒して部屋を出ていく。
「まず金の話からする人間は信用するなって親からきつく言われているんで精霊探索は結構です。では失礼します」
と白井は伝わる言葉で言って部屋を出る。
砦の入口のところで「あれだけ苦労してここまで来たのに、こんな仕打ち酷いですよ」と白井が項垂れて二人に愚痴ると「三人でもいいじゃないですか。わたしこの旅楽しいですよ」と青山が慰める。
すると最初に声を掛けた若い僧侶が慌てて駆け寄ってきて「すみません!皆さまに是非お会いしたいという者がおりますので、少しだけで構わないのでお時間頂けませんか!」と懇願してきた。
三人で相談して「金の話が出た瞬間に帰るから」と告げると、若い僧侶は大仰に感謝して「こちらです」と一旦砦の外に出て脇に回り、あの青黒い石張りのドーム状の建物に案内する。―――これ、あの歩きやすい道のやつだ。
建物に入ると正面と右にドアが2つあり、右のドアを開けてもらい中に入る。
そこは品の良い応接室だった。大きな窓があり窓の向こうに花が咲く庭が見える。
窓から庭を眺めていた老人が振り向きよく通る声で「よくぞ参られた、マヒノルからの旅人たちよ。この爺に少しばかり話を聞かせてくれぬか」と言った。
白井は言葉の内容よりも、老人の目に、灰色の眼球に気を取られていた。
「ああ、これか。儂は生まれながらに目が見えぬ。だがお主らの精霊たちはよく見えるぞ。言語と精神と社会。いまひとつ馴染んでおらぬようだがの」
「あのう、あなたは?」
「儂はただの隠居爺よ。そう警戒せんでも取って食ったりせぬぞ。最近は歯も弱ってきて肉は苦手だしの。わはは」
「先代ラマのテンジン様です」入口の脇に立つ若い僧侶が言う。
―――先代のボス坊主… なんかそれっぽい!師匠っぽい!
「もう肩書はなくて良い。それよりコチュよ、茶を淹れてくれぬか」
そう言うと先代は腰掛けに座り、立ったままの三人に座るよう促した。
「さて、まずはお主らの話を聞かせてくれぬか」コチュの淹れた茶を一口啜り先代が言う。緑川と青山の言葉は通じないので白井は自分がマヒノルに召喚されたところからどんな旅をしてきたか先代に聞かせた。補足部分は緑川に聞くなどして話した。
「なるほど。で、お主らはドラゴンの棲む島を目指しておるわけだな。生憎だがここにもドラゴンの所在を示すものは何もないのだ。古い書物にも『大陸を越えた遥か西の島』としか書かれておらぬ」
「大陸を越えた?その一文は初耳です。ありがとうございます」
白井はいまの話をすぐに緑川と青山と共有した。緑川は考え込んでいる。
「それで、精霊が見える先代にお願いがあります。残りの3人の召喚者の居場所が知りたいです。できれば皆で元の世界に帰りたいから。たぶん算術だと思うのですが、その人は西に向かっているとこれまでに聞いてきましたが、今はどこにいるのか」
「なるほど。その前に、お主らは精霊についてどれくらい知っておるのかの?」
なにか含みのある言い方だなと思いつつ、白井は知っている限りの話をする。
「これまで誰も話して来なかったのか。まあ、知らなければ話すことはできまいか」
そう言って先代は精霊について驚くべき事実を明示した。
「まず、お主らの加護となっておる精霊は本来の精霊とは別のもの。いわば人類の叡智のようなものよ」
「人類の叡智…ということは?人工的な精霊っていうことですか?」
「左様。世界に存在する精霊とは違う。特別な珠、お主は見たのだろう?杖の先についた珠を。精霊使いと呼ばれる者たちがそれに知識を乗せて作り込んでいくのだ」
―――それって、あのマヒノルにいたローブの人たちのことか?




