第18話 ねえ、エロガッパってどうおもう?
三人が白井の部屋に集まる。白井だけ熱っぽい。手汗がすごい。
「じゃあお願いします」と緑川が白井のベッドにうつ伏せになると、「はい」と青山が緑川の脹脛をくっくっと揉み始め「わ!かたーい!」と感想を述べる。
青山はわかってて言っている。視界の端で白井が言葉に反応したのを捉えていた。
「じゃあ次は僕が白井くんを」と緑川は白井に寝るよう促す。
「お願いします」と白井はうつ伏せになり「痛かったら言ってね」と言って緑川は白井の脹脛を揉み始める。「イデデデデデッ!」白井は筋肉を引き千切られるような痛みを感じた。「そう?ごめんね」と言って緑川は優しく揉み始める。
―――え、なにこれ弱すぎ…下手くそすぎないか...
規定の時間が経過すると緑川は手を止め「じゃあ、また明日」と言ってさっさと部屋を出て行った。
「やっとわたしの番ですね!」と言って青山はベッドにうつ伏せになる。
その姿を凝視している白井の鼻の穴はブッフォンと同じぐらいに広がっている。
そして「あの、エロい意味じゃなくて、裾、捲ってもいいですか?」と尋ねる。
勘違いするなこのエロガッパ!と怒られるかもと思っていた白井に思いがけない返事が来る。「え?いいんですか?是非是非!」青山は嬉しそうに柔肌を露わにした。
白井は荷物の中から琥珀色の液体の入った瓶を取り出す。「ちょっといいものを手に入れたので」と自慢げに言って液体を青山の片方の脹脛に垂らす。そしてゆっくり揉みしだく。その手付きは滑らかで青山の口から「ふうぅっ」と思わず吐息が漏れる。
「もしかして経験者ですか?」
「はい。大学の頃に少しだけバイトで。手に職のイメージが謎にこれで」
「うふふふ」
反対の足も、宿の主人に言って別の高級宿から取り寄せてもらったサフランオイルを垂らして揉んでいく。―――本当は膝にも刷り込んであげたいんだけどな…
予定の時間が来たので手を止め。「はい、おつかれさまでした」と声を掛ける。
「ありがとうございました。すっごく足が軽くなりました!」
青山は満面の笑みでお礼を言うが立ち上がらずベッドに腰掛けたまま。それどころか隣に座るようにぽんぽんとベッドを軽く叩いている。
困惑しながらも促されるまま白井が腰掛けると、青山は白井の右手を取って掌を押し広げるように自身の両手の指を絡め、両親指でくいっくいっと掌を押し始めた。
「特別サービスのお礼です」と至近距離から笑顔で言われた白井は「あ、ありがとう」と返すのが精一杯だった。―――指がめちゃめちゃ柔らけえ…
左手も揉まれ「はい、おしまい!」と言って青山はマッサージを終え「また、明日!」と言って白井の部屋を出て行った。
努めて平常心を保っていた白井だったが、独りになった途端に「オイルまで使ってはりきちゃって♡」と青山の幻聴が聞こえ、ぐふぅーっと羞恥にまみれる。
落ち着くために横になると、枕から青山の残り香が鼻腔に歓喜を齎すのと同時に「ねえ、わたしの生足触れてうれしかった?このエロガッパ♡」という幻聴を聞き小悪魔的な青山の微笑(幻覚)を見て脳神経回路がジジジと焼き切れた。
宿の廊下を青山が歩いていると緑川の部屋の扉が開き、顔を出す「で、どうでした?」と尋ねると「はい。彼で間違いないと思います。いつかちゃんと聞きますね。ありがとうございました」と青山は頭を下げ自分の部屋へ戻って行った。
翌朝「きょうも1500m越えのアップダウンがあります。再びクソまみれになるかもしれませんが、気にせず行きましょう」と緑川からの激励がある。
白井は慣れるしかないなと思いつつ「きょうは跳ぶ前にボロだせよ」とブッフォンの横っ面をぽんぽんしてから跨った。
三人がヤジャンの街を出て緩い上り坂を進んでいくと前方に聳える剪子弯山に異様な光景が広がる。山の斜面に定規を使って描いたような正確な溝が九十九折に走っている。
「なっ、なんだあれは…」水墨画にCGが合成されたような異物感のある姿に緑川は言葉を失う。白井と青山にしても直感的におかしいとは感じているものの、それの正体はわかっていない。
「と、とにかく確認してみましょう」と緑川は逸る気持ちでヤクの尻を叩きスピードを上げ、登り口とおぼしき場所へ急ぐ。慌てて二人も追走する。
時代錯誤。そうとしか言いようのないスロープが三人の眼前にある。
建設機器でも使ったかのような綺麗な岩の断面を持ち、奥行の広い踏面を持つ段差がスロープ状に連続して伸びている。
「これは参りましたね、想定外です。精霊の加護が、僕の考えていたものとは全く違うようです。ここから先、僕の知識は全く役に立たないかもしれない」
緑川が脱力するようにそう言うと、白井も青山が口を揃えて「そんなの関係ないですよ」「緑川さんは緑川さんじゃないですか」とニコニコしながら言う。
「あはは、そうでしたね。ありがとうございます」緑川はそれでも申し訳なさそうに頭を下げた。
石段で糞を浴びることもなく、三人はヤクに騎乗したままスロープを駆け上がる。
毎日磨いているのかと思うぐらい青黒い岩肌はぴかぴかに輝き滑らかだ。にも関わらずヤクの蹄が滑ることはなく、巨体は一定のリズムで進んでいく。
4000mの山頂まではさほど時間はかからなかった。だが身体が慣れる前に到着したせいで、三人には軽い高山病の症状が出始めていた。




