第2話 ねえ、仲間と合流ってどうおもう?
狭い世界だと認知して気楽になり街道を外れて港を散策すると、海を眺めながら機嫌良さそうに鼻歌を口ずさんでいる若い女性を見つける。―――あの曲… 日本人?
若い女性に「あの、日本人ですか?」と声を掛けると、「あー!えー!?」と彼女は大きく目を見開いて驚いていた。
そして「日本語ちょう久しぶりなんですけど!」と笑って飛び跳ねている。
―――もう見つけられた。みんなそんなに遠くへは行ってないのかも。
彼女の名前は青山葵。都内の大学に通う学生だったそうで、web小説を書いていたらモニターが光って、気付けばこの世界に来ていたらしい。
―――おいおい、もしかして召喚者って全員投稿者なんじゃ…
転移後は広い部屋で青色のローブの人になにかされて怖かったから、袋を貰ったらとにかく街から逃げてきたという。
この街に辿り着き途方に暮れて海を眺めて鼻歌を歌っていたら、食べ物を差し入れされ、誘われるまま現地のおばさんの世話になっているそうだ。
かれこれ2年ほどここにいるが召喚者は歳を取らないらしい。何も変わらないと青山は言う。ただ風邪はひくし転べば擦り傷はできるみたいだ。
「ドラゴンを討伐するために召喚されたみたいだけど、討伐したときに元の世界に戻れるらしい。もし良かったら一緒に行きませんか?」
「行きます行きます!少し言葉はわかるようになったけれどすることないし!」
ノリノリで青山は同意した。
出立前、世話を焼いてくれたおばさんに青山が別れを告げると、言葉が通じていなさそうだけど、おばさんは涙ぐんで彼女を抱きしめ路銀を少しばかり渡してきた。
東海道と思わしき街道を進みながら、お互いどんな小説を投稿していたのか青山と開陳し合うと彼女はラブコメだったという。人気はなかったが書きながらシュチュエーションに悶えていたと恥ずかしそうに笑った。
1時間ほど歩くと急な坂道になる。休憩を挟みながら崖に近い斜面を登り、そして慎重に下る。
富士山が見え始めたが記憶と様子が違う。
―――めっちゃ尖ってる… いや、裾野が狭いのか。
日も暮れて来たので街道沿いの宿屋へ入る。沼津のあたり。
青山が上目遣いでもじもじ揺れていたが白井は気付かぬフリで部屋を2つ取る。
併設の食堂で食事を摂りそれぞれの部屋へ分かれて就寝する。
眠る前、遠慮がちなノックの音を耳にしたが白井は無視してやり過ごした。
翌朝宿屋の主人から「昨夜はお楽しみでしたね」と言われ白井は困惑した。
沼津を出発し西へ進む。休憩を挟みつつ日も暮れた頃キンジョーという街に到着。
名古屋だ。金の鯱のついた城がある。城といっても西欧風だけど。
宿屋に入り昨夜と同じルーティーン。この夜も青山の控え目なアタックは続いた。
翌朝宿屋を出て西へ向かうと橋の下に奇妙な人物を青山が見つける。
着流しの男が昼寝をしている。この世界で和装を見るのは二人とも初めてだった。
男のほうへ行き白井が「あのう」と声を掛けると「おや?君も召喚されたのかい?」と男は寝たまま目だけ開けて二人を交互に眺め、どっこいしょと座る。
―――召喚者みんな国内に留まっているのかもしれない。
彼の名前は緑川修二。33歳独身。前職は銀行員。
召喚された際、彼は緑色のローブの人から精霊の加護を受けたそうだ。
「ここまで歩いてきて思ったのだけど、ここは小さな日本だよね」
地図を持っていないにも関わらず緑川は地形から推察して日本と同じ形をしていることを確信していた。
白井は召喚された目的を説明し旅に同行しないか誘うと「君は言葉がわかるんだね」と少し驚いていた。
往来で地面に座って器を置いておくと金を恵んでくれるそうだ。最初はお手玉のようなことをして大道芸人的なつもりだったが、座っているだけでも稼ぎが変わらないならと、なにもしないことに決めたらしい。
―――この人、プライドとかないのかな…
そんな乞食生活にも飽きたところだといい緑川がパーティーメンバーとして加わることになった。
長崎のあたりで船に乗って韓国へ行くよう指示されていると告げると「だったら少し戻ったほうがいいかな」と緑川が言う。
青山が「え?戻るの?」と言うと「乗り物があるから」と緑川は自慢げに言った。
なにか有益な情報を持っているように思えた白井と青山は緑川の提案通り、ひとまず浜松のあたりであるギナーウに向けて東へ移動することに合意した。
東に向けて戻る道すがら白井は例の件について緑川に尋ねる。
やはり緑川はweb小説の投稿者だった。モニターが光るところも同じ。
彼は歴史BL小説を書いていたのだが史実に忠実であろうとしすぎてBL要素が霞んで人気がなかったと嘆いていた。
「陰間というのはそもそも…」と武士の時代の男色についてうんちくを垂れていたが白井も青山も聞いてなかった。その講義はBLの需要とも合致しないのだろう。
―――なんだか傷の舐め合いのようになってきたけど、この先に出会う召喚者に人気作家が現れたら書いたもののこと鼻で笑われそうだ…




