第1話 ねえ、異世界召喚ってどうおもう?
白井飛呂人は20代後半で独身。埼玉で2DKに一人暮らし。
在宅勤務の会社員で中小企業の勤退管理システムの保守が主な仕事。
趣味でweb小説を投稿しているが人気はない。だが作品自体は気に入っている。
どうすればバズるのかAIに相談してみると、「読者が自己投影できる主人公」「カタルシスを最優先」「SNSで宣伝」とのこと。無理ゲーだろこれ。全部苦手だよ。
仕事を終えてシャワーを浴び、適当な惣菜と缶ビールを共にいざ執筆に向かう。
小説のジャンルは現代ファンタジー。異能者が能力使って出生の秘密を探る話。
最終章一歩手前で筆が止まりっぱなし。思案に暮れているとモニターが明滅し始める。
やがて部屋全体が光に包まれると、空間に溶けていく感覚があった。
気が付けばやたら広い空間で尻もちをついている。石造りの高い天井の部屋。
白井といえば上下スウェットとクロックスサンダルのまま。両方の踵の外側だけ擦り減っていてちょっと恥ずかしい。O脚ガニ股だとどうしてもそうなる。
大理石の床には光る六芒星、その頂点にそれぞれ色違いのローブを纏った男たちがいて、少し離れた数段高くなっている赤く大きな椅子には髭のおじさん。
―――あれ王様じゃね?
髭おじさんが何かを言うが言葉は意味を成さない。すると髭おじさんの指示があり白いローブの人が白井の方へ歩み寄って来る。
白いローブの人が手にした杖を白井の頭上に翳すと、部屋の空気がピリピリと震えた。
「言語の精霊の加護を授けました」白いローブの人はそう言った。
―――あ、わかる。
「よくぞ召喚に応じられた異界の者よ」
「いや、別に応じたわけじゃなく強制的にここに…」
白井の発言にローブの人たちがざわつく。だが髭のおじさんは気にも留めない。
「そなたにはこの世界を滅ぼすとされるドラゴンを討ってもらう」
「は?え?ドラゴン?魔王じゃなくて?」
「…まおう?それは何だ?」
「いや、その、世界征服を企む悪逆非道のすごく強い奴です。魔族の長で」
またしても白井の発言で部屋がざわつく。髭おじさんは不思議そうな顔をしている。
「あ、あの、ちなみにこの世界に魔法はありますか?」
「わはははは。御伽噺でもあるまいに。そなたの世界では魔法が使えるのか?」
「いえ、30歳で使えるようになる方もいるらしいですが真偽は定かではなく…」
詳しい話は別室でということで、綺麗な女性の文官に案内されて広間を後に。
案内された部屋で文官さんから基本的な世界のあらましを伝えられる。
この国の名前は「マヒノル帝国」、髭おじさんは大将軍で、帝は別にいる。
これまで召喚した5名は既に旅立っているが、10年前に最初に召喚した人からの連絡は途絶えたまま。その後2年ごとに召喚して旅立っているが全員消息不明だそう。
―――それって言葉が通じないからじゃ…
そして討伐対象であるドラゴンの件。
古文書によればドラゴンは世界を滅ぼす存在であるが殺すことはできないので、弱らせて火山の河口へ突き落す以外に討伐方法はない。
そしてドラゴンが火口に落ちるとゲートが開き召喚者は元の世界に戻れるとされる。
「素手でドラゴンと戦うんすか?この世界って死者の蘇生ができますか?」
「いいえ。人が死んだ場合、二度と生き返ることはありませんが…」
―――まじか。どこかで見た使い捨て勇者みたいじゃないか…
文官さんからドラゴン探索のため世界地図を渡される。どこかの島にいるらしい。
地図を広げてみると、普通の世界地図そのままだった。メルカトル図法のやつ。
文官さんは地図を指差し、現在地であるムシサ(東京)からまずはキヨウ(長崎)へ向かえと言う。
キヨウからは船に乗って韓国へ渡り、そこからドラゴン探索を始めるようにと。
支度金を受け取り、旅の支度を整えるために城下町へ向かう。
城下町の街並みは日本のはずなのにアニメで見る中世ヨーロッパ風。石畳だしガラスが歪んでいるし。
ひとまず洋服屋に入りこの世界の服を買い着替える。スウェットは楽でいいけど着古して膝が出てたし襟のゴムもびろびろに伸びてたから。
街の人から聞くと、ドラゴンの存在は様々な昔話の中で伝承されていた。
6人が力を合わせてという話はなかったが、火口へ突き落すのは共通していた。
その後、商人から話を聞くと、大陸に渡れば様々な国があり一般人は入国審査が厳しいが召喚者は特別扱いのようだ。また、天を貫く高い山や、乾いた砂の海があるという。
大陸にはモンスターがいるという。出遭えば逃げ切れないから詳しいことは誰も知らないようだが、確実に存在し、人を襲ってくることは間違いないようだ。
昼食を摂った食事処の女将さんが言うには召喚者は容姿からするとどうやら全員日本人のようだった。
―――情報を拾いながら旅をすればどこかで会えるのだろうか。
文官さんの指示通り、まずはマヒノル帝国を横断してキヨウ港まで移動する。
徒歩でどれだけかかるのか不安を抱えて街道を南西に向かうとすぐに大きな街に着く。
1時間もかかっていない。港が見え帆船がいくつも停泊している。道往く人に街の名前を聞けばハマーだという。
―――ここ横浜じゃん。もう着いた。もしかしてこの世界すごく小さくないか?




