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違世界ダイジェスト  作者: ながずぼん
第3章 成都~チベット編
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第16話 ねえ、在るがままってどうおもう?

 天を突く折多山に設けられた絶壁の石段を三人がそれぞれの相棒と登り始める。

 どうやってもヤクのリズムで登攀していくため間隔が広がる。先頭の緑川から殿の白井まで100mほどの差ができていた。青山がどんなに気遣おうがモーロン次第であるにも関わらず、緑川から7、白井とは3の位置に彼女たちはいた。


 やがて二人は緑川に追いついていく。すると上方から緑川に声を掛けられる。


「ここの踊り場で順番にヤクを休めて携行食を食べてください。慌てないで」


 緑川はそう言い残すと再び頂上目指してヤク太郎と登っていく。休憩といえどもせいぜい5~10分ほど。一息入れると言う程度のものだが、ヤクにも人間にも必要だ。

 青山とモーロンが出発するまで、白井とブッフォンは石段に足を掛けて立ったまま休む。やがて青山たちが出発し踊り場が空になったので、そこまで登る。


 カッチカチの干し肉を齧り革袋の水を少しだけ口に含む。ブッフォンにも水をあげたいが、聞いた話では登攀中に冷水を与えると胃痙攣を起こすらしい。

 「街に着いたらいっぱい飲んでいいからな。いまは少し我慢してくれ」と白井はブッフォンの頭を撫でた。ブッフォンは了解したと言わんばかりに「ブフーッ」と鼻を鳴らした。心が通じ合っていると白井は温かい気持ちになった。


 休憩を終え出発してすぐ、上方から緑川の「あーっ!」という叫び声が聞こえた。

 一行に緊張感が走る「大丈夫ですかー!」と声をかけると、しばしの静寂の後「大丈夫ですー」と緑川の返事があった。


 少しして「キャーッ!」と青山の悲鳴が上がる。まただ、上になにかある…と背筋に悪寒を感じながら「大丈夫ですかー!」と声をかけると、やはりしばらく間があって「だいじょうぶー...じゃないかもー」と泣きそうな青山の返事がある。

「すぐ行くので待っててくださいー!」と声を掛けると「大丈夫―。慌てないでくださいー」とのこと。


 上で一体なにがあるのだろうか。木立はなくなり低木だけの高山エリアに入ってきている。襲ってくるような動物はいなさそうだし、魔獣なら大丈夫なわけがない。

 ―――尖った岩で切ったりしたのかな…気を付けて行こう。


 やがて、おそらくこの辺りに何かトラブルの元が…という段があった。

 石段の高さが1mを少し超えている。

 ヤクの跳躍がギリギリなのかもしれない。実際ブッフォンも跳ぶことに躊躇している雰囲気がある。

 白井はごくりと生唾を飲み込み手に巻き付けた尻尾をぎゅっと掴み直す。

 行くぞ!という思いを込めて「バモス!」と言ってブッフォンが跳んだその時。


 ブババッ!!


 白井の眼前に迫るブッフォンの肛門からまあまあな糞が射出されて白井の顔面を捉えた。べしゃっべしゃっと顔から全身に浴びるようにクソまみれになる。

 「ぶばぁぁっ!!」白井は叫んだ。糞が口の中に入らないようにひょっとこのように器用に口を曲げて叫んだ。咄嗟のことに目を瞑ってはいたが尻尾は離さなかった。

 着地も上手いこといった。そして白井は思った。


 ここまで過酷な石段を共に跳んできた。命懸けの跳躍の刹那、おまえの肛門が目の前に迫っても、例え言葉が通じなくても俺たちは相棒なんだと疑いを持たなかった。

 その証拠にお前は立ち止まっているときにしかボロを出さなかったじゃないか。

 それが、なぜ、今。この最も過酷だと思われた跳躍の瞬間に裏切るんだ。

 確かにさっきの石段の高さは尋常じゃなかった。1mはゆうに超えていた。だからいつもよりも力強く後ろ足で蹴った。力みも普段と比べ物にならなかったのだろう。

 だからなのか。フンッて力を込めたからなのか。フンッってやったから糞なのか。

 うるせえよ!

 しかもおまえ、くせえんだよ!なんだよこの匂い!草しか食ってない癖に!

 だからなのか。草しか食ってないから「クサッ」ってか!.

 うるせえよ!誰がうまいこと言えっていったんだよ!!


 そして白井の心は無になった。最低限を拭い、あとは在るがままにした。

 標高3000mを超えた風は想像に難くないほど冷たい。岩壁にぶち当たるように吹き付ける風が白井の浴びた糞をどんどん乾燥させていく。さながら岩石魔人のように。

 4000mを超える山頂に辿り着く頃には、少し息をするだけで肺がチリチリと痛み、意識は朦朧とし、こめかみに鈍い痛みが響くはずだった。それら全てを封じ込めていたのは出発前に飲んでおいた土の味の苦いスープの効能だけではない。

 無になった白井は精神が肉体を凌駕した状態であった。まさに無敵。

 無敵のカチカチうんこマンになったのである。


 最後の一段を登り山頂に辿り着くと、そこには感情を失ったカチカチうんこガイと、カチカチうんこレディが待っていた。本来ならハイタッチでもして喜びを分かち合う登頂であったが、カチカチうんこパーティなので感情は無。目は虚ろ。


 だかしかし人として最低限の礼儀は残っており、山頂にはためく無数の五色旗に囲まれた巨大な積み石に旅の無事を祈る。

 見た目すでに無事ではないがそれには触れずに先に進むことに。

 まるでロボットのようにそれぞれがうんこ製造機であるヤクに跨り、強めに尻を叩いてこの日の目的地へと向かう。

 なだらかな斜面をヤクたちは往く。カチカチうんこパーティを乗せて。

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