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違世界ダイジェスト  作者: ながずぼん
第3章 成都~チベット編
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第13話 ねえ、石段で登攀ってどうおもう?

 セイド(成都)から山岳地帯の入口であるヤーアン(雅安)の街までは盆地が続くため、小型馬足で半日とみて、午前中は物資の買い出しと装備品の点検に充てた。


 雑貨屋で白井が主人に「携行食を」と告げると笑顔で漬物石を差し出してきた。

 言葉が通じなかったのかともう一度尋ねると「これヨ。軍人さんもこれ食べるネ」と石を渡され困惑していると緑川が「それはグオクエイ(鍋魁)と言ってレンガパン(焼餅)の最終形態のようなものですね。煮て食べないと本気で歯が折れるか顎が砕けます」と笑って教えてくれた。

 ―――いやいや、これまじで鈍器だよ…

 

 小麦粉でできた石と豚肉をカッチカチに干した板と、豆腐でできた布を数日分買い込み、これからDIYでも始めるのだっけ?と思いながら店を出た。


 準備が整ったところで昼食を摂り、セイドを出発してヤーアンへ。

 昨日の聞き込みで川に蛟はいないと聞いていたので心底呑気な旅だった。

 予定通り、夕方にヤーアンの街に到着。茶葉の流通拠点の街で一泊する。

 なんだか酸っぱいような枯れ葉のような臭いのする街。


 夕食は店主おすすめの鯉みたいな魚(雅魚ヤーユイ)の土鍋煮。山椒と大蒜の香りがすごい。

 こっちの世界で魚料理は初めてということで三人は喜んで箸を付けたが、何を食べているのかわらなくなるぐらい小骨や鱗が口の中いっぱいに広がる。

 別の席で土鍋を突いている旅人を見れば、遠慮なしに土間に骨やら鱗やらを吐き出しているのを見て白井も真似をしてぺっぺっと吐き出す。その瞬間いけないことをしている快感が脳髄を貫き「うへへ」と妙な笑い声が出る。

 緑川も青山も楽しそうだと土間に口の中に残るプラスチック片のような鱗や小骨を吐き捨て「うひひ」とか「ぶひゃひゃ」と笑い始める。


 笑いながら魚を食べていると近くの席の赤ら顔のおじさんに「ずいぶんと楽しそうじゃないか」と声を掛けられ、旅の話をしてチベットに向かっていると言うと「モンゴル馬じゃこの先は無理だ」と言われる。四川馬に乗り換えないとダメらしい。


 翌朝、馬を売っている厩舎へ行きシャンハイグァンから乗って来た小型馬を売り、あまり変わり映えのしない四川馬に乗り換える。ちょっと重心が低く見える。

 早速「よろしくね、ドンキー!」と声を掛けて青山は四川馬の首を撫でていた。

 ―――頑なにポニーのこと愚か者呼ばわりするんだな。


 荷物を四川馬に固定したら出発前に緑川から「正直ここから先は僕も行ってみないとわからない。相当エクストリームな行程になると思います」と一言あった。

 彼の声色から察するに責任逃れというわけではなく、本当に未知の危険が待っているような緊張感が漂っていた。


 一行が出発してほどなく行く手を阻むように絶壁が聳え立っているのが見える。

 近付いていくと剥き出しの岩壁にジグザクに折れ曲がる筋のような石段が山頂まで続いている。石段といっても一段が30cm程度あり普通の階段より高い。ただし踏むところは20cmあるかないか。つまり傾斜は45度を超えている。

 これを雲の上まで登るのかと心が折れそうになるが、行くしかないので行く。


 跨れるわけもないので手綱を引いて登り始める。馬は単なる荷物持ち。

 先頭の緑川が四段ほど登って手綱を操作すると四川馬は軽く飛んでコッコッツッと石段をリズミカルに登る。続けて青山が「ゴー!ドンキー!」と声を掛けて登り、殿の白井も「じゃあ行こうか」と四川馬に声を掛けて登り始める。

 頻繁にターンがあり内側が段差が高くなっているので落ちないように気を付けながら馬は外回りにして人間は内側を手も使ってよじ登っていく。

 しばらく登っていくと馬が呻き声を上げ始めたので、少し広くなっているところで休憩を入れ水を飲ませたりするが、段を跨いで斜めのままで休めているのだろうか。


 小型馬に跨っているときはなんとも思わなったが、こうして一緒に足で登っていると妙に連帯感が生まれ、白井は自分の相棒にマーボーと命名した。四川といえば麻婆豆腐だから。後で聞けばこの四川馬に緑川は名付けはしなかったそう。どのみちすぐにまた乗り換えることになるのを知っていたからだ。


 ほとんど垂直に近い角度で登攀しているため、標高が上がるにつれ空気が冷たくなる。おまけに酸素もどんどん薄くなっていき、さらには濃い霧に包まれ上も下も真っ白で、目の前には崖の石段があって平衡感覚が狂う。

 四川馬は賢く、あまりの視界不良の場合は危険センサーが働くようでじっと動かない。霧で濡れた石段で滑ることもない。肩で息をしながら賢く頼もしいマーボーと共にひたすら登る。示し合わせたように山頂が見える頃に霧が晴れた。


 まるで試練のような登攀を経て一行はフェイユエグァン(飛越関)の関所に到着する。軽い頭痛を覚えながら白井は門番のところへ行き、関所を通してもらう。

 三人共に疲労困憊のため早々に宿に入り、少し遅めの昼食は干した豚肉の板を少し齧って夕食まで横になる。

 夕食は粉を茶に入れ練って団子にして食べるやつと塩辛いスープが提供された。正直味は好んで食べるようなものではなかったが、食べてしばらくすると頭痛が消えた。高山病対策なのだろうか。

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