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貴族令嬢の、愛 その三

本日二回目の投稿、これで完結です。

最後は、貴族令嬢視点でお届けします。

『真実の愛』で結ばれた二人によって、わたくしは一人になり、そして新しい家族に出会いました。

本来であれば、愛を語り合い育み合う、そんな未来があった婚約者と別れ、わたくしは『愛』に対し、疑問と、そして抵抗を感じていました。


だって「たとえ燃えるような愛がなくとも、僕たちは婚約者として助け合おう」と言っていた婚約者からは「真実の愛に目覚めてしまった」と、それまでの関係を崩されましたし、かと思えば「真実の愛だから」と新しい彼女とはわたくしに見せたことのないような熱い眼差しを交わし合うんですもの。


「愛って、真実かどうかが大切なんですの?」

学生時代の友人たちに、そう愚痴をこぼしたことも今となっては懐かしいものです。

……まあ、その元婚約者は、わたくしの友人たちを含む、当時のわたくしの世代からは「貴族としての義務を投げ捨て、共に未来を誓った彼女を捨て、拾った真実の愛以外の全てを失った男」として、お付き合いを拒否されるようになりましたから。その後、あの二人がどうなったのかは知りたくもありませんが、愛の真実かどうかが大切なのではないと、わたくしも、さすがに理解したものです。


ええ。真実であろうが、なかろうが、少なくとも愛がなくとも、わたくしは幸せになりますわ!と、嫁ぐために離れ行く友人たちを前に誓ったのも、もう遠い過去のお話です。




「お母様!見てください、お庭の薔薇が咲きましたの!」


見てほしいものがある、とお嬢様に手を引かれ、お庭をお散歩しておりましたところ、見事な薔薇の花が咲いているのを教えてもらいました。


お嬢様……いえ、もう娘、ですね。

娘は、顔合わせのあとから、よく懐いてくれるので、わたくしも緊張していた気持ちが和らぎ、すっかり家族として仲良くなりました。


年齢的には母親というより、年が離れた姉妹のようかもしれませんが、そこは親子としての意識をしっかり持って過ごすようにしています。

甘やかすのも、叱るのも、旦那様と三人の時間も、親子と姉妹では異なりますでしょう?



「前のお母様も、この薔薇がお好きだったの。でも、あまりお庭に出られないので、わたくしが庭師に頼んで、一番きれいな花を切ってお部屋に飾っていたの」


少し寂し気なお顔で、薔薇の花を見て、そして。


「だからね、新しいお母様にも、この薔薇を好きになってもらえたら嬉しいなって……もしよろしければ、お部屋に飾ってくださる?」


ああ、なんと可愛らしいのでしょう!

緩みそうになる頬を引き締め、わたくしは「ええ、わたくしも好きですよ。ぜひ、お部屋に飾りましょう」と答えますと、光り輝くような笑顔で「はい!!」と元気なお返事が聞こえました。


今は亡き、前の奥様が、いつか来る後妻へ。そして、旦那様やお嬢様、執事などの屋敷の使用人に対して、たくさんのお手紙を残して下さったと知ったのは、先日のことでした。


『新しいお母様になる人は、きっと、貴女のことを愛して大事にしてくださるわ。だから、あなたも、わたくしをお母様と呼んだように、新しいお母様のことも、そう呼んで差し上げるのですよ。そうすると、きっと喜んで下さるわ』


「お母様がいらっしゃる前に、このお手紙を何度も読んだの。だからね……」

そう言ってお嬢様は、前の奥様が残されたお手紙を見せてくれました。

これ以外にも、お父様や家庭教師、家の者に対して、どう振舞うといいのか、これから社交を重ねて友人を作り、学園に入るまでに勉強や教養を身に付けるなど、7歳……当時はまだ6歳だったでしょう子供に対して多すぎるくらいの言葉を残されていたそうです。


それは、本来であれば、旦那様と共に娘の成長を見守りながらかけたかった言葉なのでしょう。


わたくしへのお手紙には、旦那様やお嬢様の好みや苦手なこと、家族だからこその苦言なども書かれた中に「幼く未熟な娘ですが、この先の彼女のことをよろしくお願いします」という言葉が何度も書かれていて、お会いしたこともない後妻のわたくしに託された、たくさんの愛を感じました。


旦那様もお手紙で「どのような形でも妻として母として迎える以上は失礼のないようにするのですよ」と、まるで聞き分けのない息子に語り掛けるような言葉があったと、後日教えてくださいました。


ご自身がいない未来への不安もあったでしょう病床で、これからのことを想定してたくさんのお手紙を書かれた、前の奥様が残された大きな愛。


わたくしは、その代わりに……と、後妻になりましたが、そんなわたくしも、彼女からの愛を受け取ったひとりといっても良いでしょう。

わたくしの、以前に亡くなられた実家のお母様からだって、このような愛を受け取れていたかと思い返すと……当時のわたくしは、お母様の思いの半分も気づかなかったかもしれません。


今、新しい家族を得て、改めて考えるのです。


愛することはない、と言われて幸せになれるのかどうか。

その愛が、真実かどうかを考えるより、簡単に判断できる方法がありました。


愛を与えられ、それを受け取り、そして返すことができる人なら。

愛という言葉を使う相手以外にも、敬意と、信頼を与えることができるのだと。


だから、わたくしは、旦那様からの愛を受け取れなくてもよいのです。

男女の関係を超え、わたくしにとっての新しい家族という大切な存在ができたのですから。


旦那様とお嬢様、そして前の奥様を含め、わたくしは……わたくしが幸せになれる場所を見つけたのです。



もし、これを人が「愛されていない妻」と揶揄うのでしたら、それは、その人の目が曇っているということですわ。

だって、こんなにも笑顔で過ごしている人のことを理解できないのですから。


さて、今宵は、旦那様と夜会に出かけてまいります。


ドレスやアクセサリーを身に付け、侍女の手で普段の何倍も綺麗にしてもらったわたくしを見て「お姫様みたい!きれ~い!」と頬を薔薇色に染めるお嬢様に見送られ、「ああ、よく似合っている。綺麗だよ」と言って下さる旦那様が差し出された腕に手を置き、微笑んで会場に向かうのでした。



会場に入ると、旦那様のご友人方がご挨拶にいらっしゃいました。

これまでは、前の奥様とご一緒に出られないからと控えておられた社交の場ですので、珍しいのでしょう。すぐに、人だかりができました。


ご挨拶を受け、わたくしも後妻として紹介されますと、皆さま驚かれましたが、すぐにお祝いの言葉を伝えてくださいます。


やがて、旦那様はご友人方とのお話があるからと、わたくしは少し壁際のソファで休憩していましたら…………。


「まあ、まあまあ!」

「あらやだ!こんなにお美しい方をおひとりになさるなんて」

「ええ、ええ。わたくしたちが守って差し上げなければ!」


そんな賑やかなお声が聞こえてきたかと思い、少し下げていた視線を上げますと、以前にお茶会でお会いしました奥様方が、わたくしの周囲に集まっていらっしゃいました。


そっと、その背後に目を向けますと、何とも言えない表情で離れていく若い男性の姿がありましたので、彼女たちが守ってくださらなければ、声をかけられたかもしれません。

結婚していますので、と伝えても、旦那様が離れていることをいいことにしつこくしてくる男性がいるのよ、と奥様方からこっそり教えてもらい、若い女性だからと軽く見られたことに少し不安を覚えました。


「まったく、男性は自分のことばかりなんですから。女性のことを守ってこそですのに」

「ええ、せめて、ご挨拶の時に、女性もお喋りを楽しんでおいでと言ってくだされば、もっと早くこちらに参りましたのに」

「本当に……お酒が入っていると、ますます判断が鈍るのでしょうね。それにしても間に合って良かったですわ」

「…………あの令息は確か…………ええ、後でご実家にお話ししておきますわね」


奥様方の中から、少し恐ろしい言葉も聞こえた気がしましたが、気のせいでしょう。


「あの……ありがとうございました」


わたくしは、座っていたソファから立ち上がり、淑女の礼ととります。


「まあ、お茶会の時も思いましたが、本当に可愛らしいお方だこと」

「ええ、本当に。今日のドレスもよくお似合いですわ」


そうお褒めいただき、社交辞令と分かっていても、つい頬が熱くなってしまいます。


「ありがとうございます。旦那様が選んでくださったものなのです」


そう言うと、ばさりと扇子を開いた奥様方から「あらあら」「まあ……」と、先ほどに増して熱気を感じられます。は、恥ずかしいですが、これも後妻としての務めです!


ややあって、奥様のおひとりが話しかけてくださいました。

わたくしを庇護下に置くと言って下さった奥様です。


「あのお茶会から、なかなかお話しできずにいましたが、すっかり愛されていらっしゃるようで安心しました。……ああ、いえ、貴女と彼のことは、伺っていますよ。そういう意味ではなかったとしても、貴女、幸せでしょう?……ええ、それでいいのですよ。わたくしたちも、前の奥様から、いろいろと伺っていますからね。貴女が彼の色をまとい、夜会に出ることを何より望まれておりましたから、それを見届けられて、わたくしたちも安心なのですよ」


その後は、皆さまソファに座り、前の奥様との思い出話や、旦那様や皆さまの旦那様のお話をして過ごしました。


社交をあまりしてこなかったわたくしが、こうして奥様方と親しくさせていただけるのも、前の奥様のご配慮だと思うと、本当にすごいお方だったのだと改めて思います。


「わたくし……旦那様からの愛がなくとも…………いえ、一番の愛がなくとも、前の奥様や皆さま方、お嬢様からの愛で、これ以上ないくらい幸せです。それを、どのようにお返ししたらよいのか…………」


思わず、そう呟きますと、奥様方から次々に手を取られ、そして仰られました。


「そうしたことを思ってくださることが、わたくしたちも……前の奥様も、貴女の旦那様もお嬢様も嬉しいのですよ。そのままの貴女でいてくださいな。そして、頂いたのと同じくらい、喜びや優しさをお返しして上げたら良いのですよ」


そうなのですね。

わたくしは、真実の愛や、一番の愛より、もっと良いものを受け取っていたようです。

なので、何度でも自信を持って言えるのです。


「わたくし、幸せになりました!」





~終~

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

久しぶりの連載作品、完結できてほっとしています。


最後は、奥様方の登場で予想以上に賑やかになりましたが、ヒロインが幸せを掴めて良かったなと。

数年後のお嬢様のデビュタントでは、お父様号泣し、ヒロインはそれを宥め、奥様方は、あらあらまあまあと、後方から見守る様子が目に浮かぶようです。


真実の愛も、溺愛(一番の愛)も得られないヒロインですが、それ以外の愛をたっぷり与えることができて、作者として満足です!

お付き合いいただき、ありがとうございました。

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