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とある人達が知る、愛 

これまでとは違う、第三者からの視点です

私は、とある貴族の屋敷で執事を任されている物です。


前の奥様を亡くしてから、一年が経ち、旦那様が新しい奥様を迎えられてから、さらに一年が経ちました。


まだ母親を恋しがる年頃のお嬢様と、若い頃から奥様を溺愛されていた旦那様にとって、最愛の奥様を亡くしてからの日々は……周囲の支えもあって、今は穏やかに過ごされていらっしゃいますが、特に旦那様は、奥様の後を追うのでは?と、屋敷ではおひとりにならないよう、皆が気を張っていました。


その不安も、先に立ち直られたお嬢様のお陰で、少し軽くなったのには、正直驚きました。


「あなたのお父様は寂しがりなの。でも、……もし、お母様がいなくなっても、貴女がいるからひとりぼっちじゃないわね」


そんなお話を、前の奥様がお嬢様となさっていたと侍女から聞き、実際に、お嬢様から「わたしがいるから、お父様はひとりじゃないわ!」と、膝に乗せた我が子から幼い小さな手で、撫でられながら言われて、目が覚めない父親がいるでしょうか。


お嬢様ご自身も、目にいっぱいの涙を浮かべ、それでも強く笑っている姿は、亡き奥様にそっくりでした。


膝の上のお嬢様を力強く抱きしめ「……そうだな、私はひとりじゃない。…………ありがとう……」と呟き、静かに涙を流されてからというもの…………前よりもお嬢様との時間を大切に、そしてお仕事に集中されるようになりました。


そうしたある日、奥様のご友人という奥様方が、お嬢様のお誕生日のお祝いにいらしてくださいました。事前に、そのお話をお伺いした時にはまだ悲しみの期間ですので、大きなことはできませんが……とお伝えしましたところ、それでも良いということでしたので、お嬢様が喜ばれますように、使用人一同用意をさせていただきました。


「本日は、わたくしの7歳のお祝いに来てくださって、ありがとうございます」


小さな手でドレスをつまみ、淑女の礼をされたお嬢様に、ご友人の奥様方は、我が子を見守るような優しい眼差しと、お褒めの言葉を返されました。


そして、お嬢様のお祝いの席が終わり、お見送りをしていたところ、奥様方のおひとりから私が呼ばれ、手紙を受け取りました。


『この手紙を読む頃には、わたくしは、もう、大切な人たちの側にいないでしょう』


そんな書き出しの手紙が誰からのものなのか、私はすぐに気づき、そして手紙を渡してくださったご友人へ顔を向けますと「自分にもしものことがあれば」と、いくつか手紙を預かっていたことを教えて頂きました。


『わたくしがいなくても、あの子のお誕生日をお祝いしてほしい』

『もし、旦那様が許されるなら、新しい母親をあの子に迎えてあげてほしい』

『旦那様も、後妻をお迎えして、わたくしには出来なかった家族の時間を過ごしてほしい』

『わたくしがいなくなっても、皆さまのようなお友達がいて、そして愛する家族と、信頼できる使用人たちに囲まれ、わたくしが幸せだったということを、忘れないで』


そのようなことが書かれた手紙は、最後の方は、少し読みづらく……おかしいですね、年のせいでしょうか。


「よそのご家庭のことに他人が口を挟むのはどうかと思いましたが」と前置きをされた上で、前の奥様のお手紙に書かれていたことを、わたくしたちもお手伝いさせていただきますと、皆さまが仰ってくださいましたので、私は……言葉を忘れ、ただ頭を下げることしかできませんでした。




それから、お預かりしました旦那様とお嬢様にあてられたお手紙をお渡しし、旦那様と相談を重ね、後妻を迎えること、ただし、お嬢様の母親役と、屋敷の女主人の仕事を中心とすること、夫婦としての関係を持つことは期待しないでほしいといった、旦那様のご要望を満たせる方を探し始めました。


旦那様の同世代の方は、既にご結婚されていらっしゃる方も多く、何等かの理由で独身の方がいらしても夫婦関係が期待できないという条件には、残念ながらとお断りされました。

お若い頃から人気のある旦那様でしたので、溺愛された奥様が亡くなられてから、こうしたお話は何度かあちらこちらから届きましたが、前の奥様以外を愛することは……その、身体的に難しいのだと知っている身としましては、今回の条件を旦那様自らが出して下さったことに安堵しております。


やがて、世間の目があろうと学生でなければ良いというところまで、年齢を下げましたが、なかなかお相手が見つかりませんでした。


貴族の女性は、よほどのことが無い限り、学生の間に婚約者を見つけ、卒業後は結婚し、相手の家に嫁ぐか、自分の家に婿として招くかですので、難しいということは覚悟の上でした。


あまりに見つからないので、貴族ではなく、平民の中から貴族と付き合いのある家にまで、話を持っていこうとしていた頃、社交界から噂が届きました。


「真実の愛によって結ばれた二人がいる」


真実の、愛……というものは、物語の中で存じておりましたが、それが現実になるとは思ったことすらありませんでした。

なぜなら、真実に気づく前に、結婚、またはお付き合いしている関係の二人がいるのですから、真実の愛のお相手という三人目が出てくることは、不貞でしかないのです。


それでも物語では、親の無理強いで結ばれた二人を、愛の力で引き離し、真実の愛で幸せにするという……都合の良い内容がもてはやされ、平民の間では一時期、それが原因での問題もあったようです。


貴族社会では、親の無理強いであっても、貴族の婚姻という重い契約を、そのような理由で破棄すること自体が『貴族としての無能』を示すことになりますので、よほど平民に近い考えをお持ちの、貴族としての役割も何も理解しない者がする愚かなこととされていましたので、心の中ではどうであれ、実際に実行する者などいないと、そう、多くの貴族が思っていたのです。


それなのに『真実の愛で結ばれた二人』がいるということは、別れを強制された一人がいるということで、その方のことも、すぐに噂になり、私のところにも届きました。


その方は…………。



少し客観的な視点を入れたくて、執事視点を書きました。

50代後半くらい、先代から家を支えるひとりという人物像をイメージしています。

旦那様のことを「坊ちゃま」と呼んでいた頃から知っている執事なので、語り部として頑張ってもらいました。

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