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貴族令嬢の、愛 その二

再び、貴族令嬢の視点です

……緊張します。


旦那様は大丈夫だ、優しい子だからと仰るのですが、それでも初めてお会いするお嬢様……これからは、娘となる女の子に会うのですもの、緊張しないわけがありません。


旦那様は先にお嬢様の横についていらしてもらいましたので、今、わたくしの隣にはわたくし専属の侍女と、家政婦長が並んでいます。

お嬢様のお部屋に向かう廊下で、家政婦長が「お嬢様は年齢よりもお話の分かる方ですので、子供扱いをされませんよう」と注意事項を告げられましたので、頭に叩き込んでおきます。


旦那様の後妻として、一応は迎えてくれている屋敷の皆さんですが、お嬢様を困らせるような愚かな女性は不要という雰囲気も若干ですが感じます。わたくし専属の侍女は「家政婦長にとってお嬢様はこの屋敷で一番大切な方なので、泣かれるとお困りになるのです」と、わたくしにだけ聞こえるように教えてくれましたが、家政婦長の方から聞こえる「こほん」という音に、返事をすることはできませんでした。


やがて、お嬢様のお部屋の扉の前に到着し、侍女が扉を叩き、中からの誰何の後に「奥様がいらっしゃいました」と告げ、扉を開けました。


「こちら、新しくお母様となった方だ。ご挨拶を」


旦那様に促され、お嬢様がご挨拶をされました。

可愛らしいお声での名乗りと、大人の女性のようにしっかりとしたお辞儀と、そして、わたくしの目をしっかり見て微笑まれた後。


「新しいお母様を心から歓迎いたします」





挨拶が終わった後、お嬢様のお部屋で小さなお茶会を開いていただきました。

旦那様と、お嬢様は、わたくしをお茶とお菓子で歓迎してくださり、これからどのようなことを家族として過ごすか、お嬢様の社交についてなどをお話し、明日の朝食をご一緒することを約束し、その日はそれで終わりました。


侍女を連れて部屋に戻ると、思わず「ふぅ」と声が漏れました。

「緊張でお疲れになられましたか?何か飲み物をお持ちいたします」

と言うので、すっきりとした熱い飲み物をお願いし、しばらく一人になります。



可愛らしい、そして、少し大人のフリをしたお嬢様でしたね。

そんな感想が浮かんできました。


7歳という年齢は、社交の練習を始めて間もない頃なので、たどたどしさも可愛らしいと思えるのですが、お嬢様にはそうした様子が見られず、もう少し上の年齢のように感じました。


旦那様のお話と、先ほどの印象から、恐らくは、前の奥様が、いつ社交に出しても大丈夫なようにご指導されたのでしょう。そして、お母様という幼い頃には一番大きな存在を失ってから今日までの時間が、彼女を年齢よりも早く大人にしてしまったのでしょう。


この先、学園に入られるまでには、まだ時間があります。

少しでも、子供時代にやり残したことをお手伝いできれば……わたくしの思い込みかもしれませんが、まずは、少しずつ親しくなるにはどうしたら良いかを、侍女が淹れてくれたお茶を飲みながら考えるのでした。





愛は無くとも敬意を忘れずに。

そんなことを意識しながら、旦那様、お嬢様、そして屋敷の方々に向き合うこと数か月。


わたくしは、社交に出ることになりました。


社交と言いましても、昼間の、女性同士のお茶会ですので、夜会などよりは気も楽なのですが、後妻として嫁いでから初めてのことですので、緊張……してしまいますね。


お茶会の主催は、旦那様のお仕事関係の方の奥様だそうで、前の奥様とも親しくされ、旦那様やお嬢様のことも気にかけてくださった、親切な方なのだそうです。

他に参加される皆さまも前の奥様と同世代の方ですので、わたくしよりも年上の方ばかりですね。お子様も学園に通っていらっしゃるか、卒業された方が多いそうですので、今回は、お嬢様のお茶会デビューではなく、わたくしの後妻としての社交デビューです。


旦那様からは「我が家のことを気にかけてくださった皆さまによろしく伝えてほしい」という伝言もいただきましたし、お茶会とはいえ、後妻としてのお仕事と思って頑張ります!



と、そう思っていた頃がわたくしにもありました。


お茶会に向け、あれこれと準備を進めてあっという間に迎えた当日。

わたくしのお母様より少し若い世代のご婦人方に囲まれ、なぜか、すごく、その……可愛がられています?


あ、いえ、子供扱いで馬鹿にされている訳ではないのですよ?

それくらい、学園内で社交を重ねたので、わたくしにも分かります。


「そう……以前には、そのように婚約破棄をされて……」

「まあ!真実の愛だなんて……物語と現実も区別がつかない者がいたのですね……」

「そのような方々とご縁を終わらせることができて、本当に良かったですわね」

「まったく、殿方というものは、女性を何だと思っているのかしら!」

「年が離れた旦那様で戸惑うことがあったら、わたくしたちに、すぐ仰ってね。あの方なら大丈夫と思いますが、それでも……男性というものは分かりませんから」


……どうやら、わたくしが、どのようにして旦那様のもとに嫁いだのか、皆さまご存じのようで。

さすがは社交界を生き抜く奥様方です!と感動しつつ、あまりの熱量に、少しだけ帰りたくなったのは内緒です。


前の奥様が、数少ない社交相手とされていた方が、今日のお茶会にも参加されていらっしゃるので、そのお話もお伺いできました。


「あの方は、旦那様に溺愛されていらしてね、わたくしたちが一緒にいましても、旦那様はお構いなしで……結局は奥様に叱られて、後ろ髪を引かれるようにお部屋を出られるのよ」

「お仕事では視線を合わせたら男性でも恐ろしいと感じるほどの目力だといいますのに、御屋敷に遊びに行きますと、まあ、蕩け落ちるような目をして奥様から離れないのですよ」

「その点、奥様は、旦那様のことをしっかりと……ええ、子供を教育するように、しっかりと躾られていましたからね。あの方が、病弱で、何も知らない閉じ込められた可哀そうな女性だ、なんて噂が一時期流れましたが…………ふふ、彼女と一度お話しますと、そうした噂は誰の事かしら?と思いましてよ」


「まあ!」「そうなのですね」「存じ上げませんでしたわ」

そんな言葉で相槌を打ちつつ、奥様方のお話を聞いていましたら、ついに来ました。


「……それで、あなたは、この結婚を後悔しているのではなくて?」


ぱさりと開かれた扇子の上から、わたくしに強い視線が飛んできます。

わたくしに問うた奥様以外の視線も、テーブルのあちこちから感じます。


わたくしは、背中が折れないよう、視線が下がらないよう意識しながら答えます。


「わたくしは、後悔しておりません。前の婚約者との間のことは終わったことですし、……真実の愛よりも、敬意を持って接して下さるという旦那様のことを信じて、後妻として嫁がせていただきました。そこに男女の愛が無くても、前の奥様のことを思われる方と一緒に生活するのも、わたくしは納得しております。新しい家族として、わたくしが、旦那様、お嬢様に向ける愛情に嘘偽りはございません」


一息に言い切り、わたくしは、このお茶会の目的を果たせたのか、少し心配になりました。

わたくしの言葉に嘘はありません。ですが、もしかすると、かわいそうな結婚をした哀れな娘のことを心配したかった奥様方にとって、面白くない返事だったかもしれないと思ったのです。


「あ、あの、ですが、まだ、わたくしは夫人としての仕事や社交に慣れておりませんので…………」


できましたら、多少の至らなさはお目こぼしを、と言葉を続けようとしましたのに。


ぱちん。


扇子が力強く閉じられた音がして、わたくしは身構えてしまいました。

そんなことを言うものではないと叱られる⁉



驚いて、音が鳴った方へ顔を向けますと、主催の奥様が、わたくしの目をしっかり見つめ仰いました。


「わたくし、決めました。この方を、わたくしの庇護下におきます」


え?



「まあ、わたくしも、そう考えていたところでしてよ」

「あらあら、ご覧になって。驚いたお顔も可愛らしいこと。わたくしの庇護欲が刺激されますわ」

「まあ、そのような言い方ですと、ますます驚かれますわ」

「ねえ、次はわたくしの屋敷でお茶会を開きましょう!もっとお喋りしたいですし、わたくしの子供達にも会わせてあげたいわ」

「では、次はわたくしが……」


え、ええ……?


「ふふ、あまりにお若い方を迎えられたから、一体どのような方なのかと案じておりましたが……あの方が生まれ変わったかと思うくらい、しっかりなさった方でしたのね」

「そうですわね。このような方でしたら、確かに同世代の男性からしますと『真実の愛』とやらに流されてしまうのかもしれませんが、何が愛なのかも見抜けないのに、真実とは……ふふふ、我が子にもよく言って聞かせておかないといけませんわね」

「ええ、ええ。貴女になら、あの方のお嬢様のことを、安心して任せられますわ!」


あ、あの……皆さま?えっと、これは歓迎されて、いる……ということでしょうか?


後半に出てきた奥様達、書いているうちに、どんどん前に出てきて想定以上に賑やかになってしまいました。

結構お気に入りです(笑)

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