お嬢様の、愛 その一
前回の、貴族男性と、その妻との間に授かったお嬢様視点の回です。
わたしは……いえ、わたくしは、とある貴族の娘です。
今年7歳になりましたので、少しずつ淑女の話し方を練習しているのですけれど、なかなか難しいと苦労しています。
わたくしのお父様は、わたくしよりも、うんと大人で、わたくしを大事にしてくださるの。お仕事で忙しい時でも、朝食はわたくしと必ずご一緒してくださるのよ!そうして、お勉強や淑女教育を頑張っていることを、褒めてくださるの!
お母様は、昨年……冬が終わる頃、咳が続く病にかかられて、元気になることなく亡くなってしまわれました……正直、まだ、お母様のお部屋にいくと、いつものようにベッドの上で微笑まれているような気がして、寂しい時にはこっそり遊びに行くのですけど、そこには、以前と変わらぬお部屋の中で、お母様だけがいらっしゃらなくて。もともと、お身体が丈夫ではないと、一日のほどんどをベッドの上で過ごされる方でしたので、一緒にお出かけをしたり、お庭でお花を楽しんだりという思い出もなく、ずっとお部屋の中にいらっしゃるのだと……そう思っていたのです。
ああ、勘違いなさらないで。お母様が亡くなられたことは寂しいですよ?
でもね、わたくしよりも、お父様が、その……わたくしよりも、ずっと小さい子のように声を上げて泣いていらっしゃるのを見て、なんだか、わたくし、お母様のことを、ここまで愛していたのかしらと思ったのです。
お母様の優しい笑顔、わたくしを撫でてくださる手の感覚、絵本を読んで下さる声、わたくしがお父様には内緒のお話をした時の二人だけしか知らない約束、お部屋に飾られたお花を一緒に楽しみ、お父様のことも、わたくしのことも、大好きよ、愛しているわと、毎日のように言ってくださった、お母様の嬉しそうなお顔……わたしも、お父様もお母様も大好き!と負けないように言い返すと、いつもは少し白い頬を桃色に染めて喜んで下さるの。
わたくしも……わたしも、お母様が大好きよ!
温度を失ったお母様の手に触れながらした、最後のお別れは、お父様に負けないくらいの涙と愛情をお母様に届けてくれたかしら。
やがて、悲しみから少しずつ日常の生活に戻る頃、お父様と執事、家政婦長が揃った席に呼ばれました。
お父様に、後妻を迎える、と。
◇
後妻……えっと、と混乱したわたくしに、新しくお母様を、この家に入れるんだと、お父様が説明してくださいました。
亡くなられたお母様の代わりの、新しいお母様。
家庭教師や侍女ではできない、娘に対して母親だからできることをするのだそうです。
でも、お父様は、その……新しいお母様との間に、わたくしの妹や弟を作ることは無い、彼女はわたくしの母親役、そしてお父様の妻役をしてもらうと、お話してくださったのですけど、えっと、その、本物のお母様にはならない、ということなのかしら?本物、という言い方をすると、わたくしのお母様は亡くなられたお母様だけですので、偽物……とうこと……いえ!お父様が決められた新しいお母様ですもの、本物とか偽物というのは失礼ですよね。
こういうことは、家庭教師にも教わらなかったし、どんな本にも書いてなかったので、わたくしは、頭の中で、うーんうーんと困ってしまいました。ですが、その姿をお父様にお見せするのは、なんだか違うのかもと思いましたので、頑張って淑女の微笑みで、お父様に言いましたの。
「分かりました。わたくし、新しいお母様を歓迎いたしますわ」
前妻との間に生まれたお嬢様。愛情深い両親から大切に育てられました。
あまり他家の友人と交流する機会もなく、お父様とお母様、家庭教師や屋敷の使用人たちが彼女の全てですので、素直に、そして淑女としてお母様から躾られたことを頑張る!と張り切って、お父様を支えようとしています。
6歳でお母様と別れ、お父様の気落ちを見てきたので、実年齢よりも少し大人びているかもしれません。女の子って、そういう部分に敏感ですし、新しい人との交流への好奇心もあります。
7歳の少女が、後妻となる貴族令嬢を母親として迎えて、どんな日々が待ち受けているか。
次回は、貴族令嬢視点に戻ります。




