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貴族男性の、愛 その一

貴族令嬢が後妻として入った家の、前日譚となります。


私は、38歳になる、とある貴族の男だ。

学生時代には、それなりに成績も良く……自分で言うのも何だが、顔も良かったからか、女性に声をかけられることも多く、男性の友人たちからは、からかい半分、羨ましさ半分で、いつも周囲は賑やかだった。


だが、私には、幼い頃から決めていた婚約者がいた。

婚約者の女性は、同じ年齢だったが身体があまり丈夫ではなく、学園に通わずに屋敷に家庭教師を呼び、疲れの無い程度に学びを重ねてきた、努力家の女性だ。同世代の女性に比べると小柄で、体力が無いことからダンスを踊ることも難しく、お茶会で長時間姿勢を保ちながら気が張る会話をこなすことも出来ず、貴族の女性として求められる社交ができないことを恥じていたが、それでも彼女より好ましいと感じる女性に出会うことは無いと言い切った私に、彼女の親も、私の親も、彼女自身も折れて、婚約が調った日には、こっそり彼女の口元に触れるだけの口づけをしたのも、懐かしいことだ。


やがて、学園を卒業した私は、彼女と結婚をした。

まだ家督を継いでいないため、二人の時間を過ごそうと、領地から離れた療養所のある土地に行かないかと相談したところ、彼女は「私から、妻としての役割を奪うのです?」といつになく強い目をして言うのだから、私は、彼女を心配するあまり過保護すぎたことを恥じた。


彼女は……いや、妻は、私が学園で学んでいた時間に、母や家庭教師などから領地経営や社交のための手紙の書き方、御礼の贈り方などを学び、自分に出来る範囲での女主人としての仕事をこなそうと頑張っていた。


やがて、私が30歳になる頃、父と母が家督を譲り静かな場所で暮らすというので、私と妻は、貴族の当主夫妻として忙しい時間が増えた。そして、それは跡継ぎをどうするかという現実にも向き合う限界となった。


我が家には、子が私しかいないことから、跡継ぎは私だと決まっていたが、その次世代はというと、私の子供になる。それはつまり、妻との間に子供を授かるか、それとも……妻の承諾を得て、子供を産んでくれる女性を探すかを選ばなければいけないということだ。


妻以外の女性と愛し合うことは、絶対に嫌だと、私は激しく抵抗をし、妻を困らせてしまった。


そして妻は言ったのだ。


「わたくし、あなたとの間に子を授かりたいの。もし、出産で、この命が終わっても、この先の生きる時間が短くても、他の方にお願いしたくないのでしたら、わたくしが妻として出来る最大の仕事をさせてくださらない?」


私は、泣いた。

情けなく、恥ずかしく、申し訳なく、成人男性がそうするのかと問われるくらいに、泣いた。

妻の細い腕に抱きしめられ、赤子のように頭を撫でられ、自分の我儘と彼女の覚悟の差に、ただただ泣いた。


妻は、困った人ねと柔らかく笑い、そして「わたくしが生きていた証をください」と言った。

ああ、この人には敵わない。

この人以外に、女性を愛することなどできない。


そして、その夜。

彼女の口元に、そして、白く滑らかな肌に、口づけを何度も重ねた。







貴族として、この選択が正解なのかは、それぞれの感想があるでしょう。

彼は、自分の愛を貫く選択をして、彼女もそれを受け入れました。

ある意味、これも『真実の愛』なのかもしれませんね。


そんな愛を持っていた彼へ、後妻として嫁いだ貴族令嬢のお話の前に、次回もうひとりの別視点が入ります。

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