貴族令嬢の、愛 その一
久しぶりの連載です。
時間がかかるかもしれませんが、最後まで書き終えますので、よろしければお付き合いください。
わたくし、20歳の貴族令嬢でございます。
本日、後妻として嫁ぎましたの。
お相手は、38歳の貴族の方。
……わたくしのお父様と、さほど変わらない年の方ですので、妻と言うより娘のような気持ちですが。
実家はひとつ下の弟が後を継ぎ、昨年結婚いたしました。可愛らしい方が我が家に入られ、賑やかに過ごしておりましたが、やはり、未婚の実の娘がいる家では、女主人がふたりいるようなものですから、なんとなくぎこちない空気も感じておりました。
そうした理由で、わたくしは、どこかへ嫁ぎ先を探すか、どこかの御屋敷で侍女として働くかと考えていたところ、後妻として望まれてしまいまして。
20歳なのに、婚約者もいなかったの?と思われる方もいらっしゃるでしょうか。
いらしたんですよ。
ひとつ年上の方が。
それが、学生時代に「真実の愛に目覚めた!」と仰って…………。
あれこれとありましたが、慰謝料も頂きご縁も無かったことといたしましたので、わたくしから申し上げることは何も……。
わたくしのお母様は、わたくしがまだ学生の頃に病気で先立ち、当時はまだ婚約者だったお相手との未来を幸せになるのよと、その姿を見られないことを悲しんでいらしゃったのですが……今となっては、娘が『真実の愛』に負けた姿を見られなくて良かったのかもしれません。
女主人としての屋敷の内外のことを、弟夫婦に約一年かけて引継ぎ、ようやく肩の荷が下りたという訳です。
もう、人生の半分を終えたような、若者らしからぬ気持になるのも無理はないでしょう?
ええと、こほん。
そうそう。
わたくしが嫁いだ方……旦那様には、前の奥様との間に、お嬢様がいらっしゃるのですって。
まだお会いできていないのですが、遅くに授かられたお子様なので、7歳なのだそうですよ。前の奥様……お嬢様にとってのお母様は、昨年、亡くなられたそうです。もともとお身体が丈夫ではなかった方のようで、それでも、旦那様とのお子様を望まれて出産された……というお話を、旦那様から伺いました。
産後はやはり体調を崩すことが多かったそうですが、病床からもお嬢様との時間を大切にされたのだそうです。
そんなことを、結婚前に旦那様からお聞きしたのは、お嬢様の母親として、そして屋敷の女主人として、旦那様が探されていたところで。
ちょうど……といっていいのか、婚約破棄をされ、その後の身の振り方を考えていたわたくしにお話がきたので、そうしたお話をお伺いして、納得の上で後妻となりました。
年齢差や、お嬢様のこともあり、最初から「あなたを女性として愛することは難しいかもしれない。だが、妻として、娘の母としての敬意を失する態度をとるようなことはしない」と、後妻とはいえ女性に対して失礼ともいえるお話に、お父様と弟が表情を変えていましたが、わたくしは、それで良いと思ったのです。
愛があると思っていた婚約者との数年間、彼から敬意を感じたのは最初の数か月間だけでした。
後は、なんとなく惰性といいますか、お互いに、いつものことだという感じで定期的にお茶をしているだけでしたもの。
婚約者の家に嫁ぐため、何度かそちらでお義母様となられる方との交流会もさせていただきましたが、快く、本当の娘のように接して頂き、わたくしのお母様が亡くなられた時にも親身になってくださったのです。あの時は、本当に助かりました。……婚約者は、ただそこにいるだけの人形のようでしたが、さすがにお悔やみの言葉だけはかけてくださいましたのよ。
そんな時間を過ごして、18歳の年、学園をわたくしが卒業する時、エスコートに行けないという手紙をいただき、お父様に代役をお願いして卒業式に出ましたら、例の『真実の愛』のお相手と仲睦まじくエスコートというには、些か距離が近い姿を見せ、まあ、その……あとはご想像の通りです。婚約者の横にいるのが父親であることも見抜けず、わたくしと同じクラスだった令嬢との『真実の愛』を宣言されたのですもの。
ふふふ、わたくしが、卒業後の人生を失ったというのに、婚約者……ああ、そうですね、元・婚約者は何も失わないと思っていたのでしょうね。ええ、彼ら『真実の愛で結ばれた二人』は、それを確かめる試練として、他領地へと、彼の家の熱心な手回しにより移り住んだのですって。
彼の弟が優秀ということで、跡継ぎとなるべく再教育を受けているそうですよ。さすがに、まだ学園に入れない年齢ですので、わたくしとの縁を結ぶことはありませんでしたが。
そんなことで、わたくしの名誉が回復するとはいえませんが、それ以上のことを望みますと、目覚めも悪くなりますでしょ?
わたくしも、もう恋愛というものも、婚約者だからの期待も、そうしたことも含め『愛』というものに、疲れましたので、そうしたことに期待や興味を持つことも無く、閨事も求められれば応えるしかないと、割り切っておりましたの。
そうですね、最低限、人としての対応と、女性を相手とする振る舞いなど、敬意ある扱い方をしてくださるなら、と思っていましたが、さすがに、この年齢ではなかなか難しく。
幸い、学園ではそれなりの成績もあり、先生方からの評判もよく、婚約者がいなければ……家に来て侍女をしてほしいと、高位貴族のお姉様方からお茶会で声をかけていただけるほどでしたの。そういうこともあって、家のことが落ち着く頃には、仕事に生きるのも悪くはないと思っておりましたのよ。
そんな時に、後妻にどうかとお話をいただいたのが、旦那様でした。
前の奥様との間にお子様がいらっしゃること、死別ということで夫婦間の問題ではないこと、貴族として女性としての生活を娘……お嬢様に教える役割として優秀な、そして元気な女性を探していたこと、後妻とはいえ、わたくしとの間に子供を作ることはしないつもりだということなど、世間的に見ますと、妻としてよりも、働く女性という印象になるのでしょう。一般的な女性としての幸せを夢見ている方や、旦那様に執着されるような方では、それは難しいでしょうが、わたくしでしたら願い事が叶ったようなものですので、ぜひ、と承諾いたした次第です。
必要であればパートナーとして旦那様の隣に立つこともありますし、お嬢様をお連れして貴族同士のお茶会に参加することもありますので、身内である女性……が必要な場面には、しっかり振舞えることも、選ばれた条件のようでした。
まあ、若すぎる後妻ということで、世間の目はあれこれと勘繰ることもあるでしょうが、愛の無い後妻になりたいという女性がどれほどいるのか、その中で、条件を満たせる女性はと、旦那様は、なかなか選別が難しかったようですよ。
そういう訳でして、旦那様とわたくしは、軽く身内だけの式を挙げて、新婚初日の夜をお互いのこれまでを労いつつ穏やかに過ごしたのでした。
明日は、お嬢様や、屋敷の皆さんとの顔合わせ。
うう、緊張しますね、と眉を下げるわたくしに「なんだ、私との結婚よりも、娘と会う方が緊張するんだな」と、幼い子供に見せるような顔をするのです。もちろん緊張しますよ、婚約者がいた頃は結婚のあれこれを想像したこともありましたが、自分の子供……しかも7歳といいますと、まだ幼いながらも、大人のように扱うことを望まれたり、年齢的にできないことで悔しく機嫌を損ねることなどありますから、最初の顔合わせは大切なのです!
次回以降、視点が変わります(サブタイトルに視点の人物を書いてあります)




