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二十三話 奥底の自分

「行くわよ」

「お手柔らかに頼むよ」

「嫌よ」


 ミタツは思い通りの返答に引きつった笑みを浮かべ、そして盾がわりの片手剣を構える。


 地面が土に設定されたこのフロア。ところどころ高く土が積まれていたりと、メアリーのホームグラウンドになっている。


 ミタツはダガーが手に馴染んだが、しかしやはりリーチが足りない。小柄なフェリになら使いやすくとも、ミタツはそこそこの身長はあるのだ。


 メアリーは地面にちょうどかの錬金術師のように手を着いた。そして呼ぶ。


「《ガイア》」


 地面が大きく盛り上がり、高さ三メートルはあろうかという巨大な土の巨人が姿を現した。首はなく、肩が逆三角状ののっぺりとした巨人だ。


 愛らしささえ感じられるその要望の反して、ミタツの心中はーー


(ーー怖い)


 恐怖で、支配されていた。


 なるほど、模擬戦であり、また自分自身も不死だとして、それでもこの“戦いようのない相手”を前にした時は、こんな絶望感を味わうのか。


 ミタツは奥歯を噛み締める。


「せいっ!」


 メアリーが立ち上がって、大きく手を振りかぶってーー叩き下ろす。


 その動きに連動して、ガイアも大きく手を持ち上げ、大質量のそれを勢いよく地面の振り下ろす。


 足がすくんだミタツは、それをまともに食らった。もちろん体中の骨は砕け、肉は爆ぜ、脳みそは飛び出ただろう。


 しかしメアリーが次に目にしたのは無傷で砂を被って横たわるミタツの姿。


 ミタツははっと意識を取り戻す。


 メアリーは皮肉げに言った。


「あんたの恩恵、本当に気味が悪いわね」

「……それ、ちょっと心に来る」


 純粋に心外な言葉に心を痛め、ミタツはそれの辛さを力に変換して立ち上がる。


 集中するのだ、ミタツよ。


 メアリーがまた腕を振り上げる。ミタツはその手に集中した。しかし不意に体勢が崩れる。


 右脚のふくらはぎを、土の槍が穿っていた。しかし足は貫いた土を消滅させて穴を塞ぐ。


 忌々しげに顔を顰めて、ミタツは立ち上がる。真上から襲い来る巨大な拳を忘れて。


 再び叩き潰され、すぐに復活してミタツは声を荒らげる。


「あ゛あ゛! 狡い!」


 半分怒りの力で右から突き出してきた土の槍を防いだ。だがその後の二発三発はまともに体を貫いた。


 他人に弄ばれるのは嫌いだ。ミタツは静かな怒りを蓄積させる。


 そして、きっと巨人を見た。


 拳が振り下ろされる。


「んんっ!」


 今度は食らうまいとミタツは地面を思い切り左へける。右に体が押し出され、土の上を転がると元いたところに土の鉄槌が着地した。


 砂埃にむせてから、ミタツは剣を構える。


 しっかり見るのだ。自分に言い聞かせる。当たるのは構わない。ただ、動きを封じられるような攻撃は避けろ。


 足元に気配。


 ミタツはすぐに跳躍。足を固定しようとした土塊は空振りだ。ミタツは右からやってくる槍に剣を向けたが、防御叶わず脇腹を突かれた。


 流石に脇腹は痛みがあり、ミタツは呻く。


 完全にサンドバッグ状態だ。不意に笑いが込み上げてきた。もう、丁寧にやるとか、どうでも良くなってきた。


 頭が空っぽになる。


 それは、集中力を高めたから故の無意識で。


 右へのステップで胴体を狙う槍を躱し、右に一振左に二振り三つの攻撃を防ぐ。巨人からの攻撃はしゃがんで受けて、すぐに動けるようにした。


 そうして、受け流して、食らって、刺さって、弾いて、押しつぶされて。


 ミタツはメアリーへ剣を向ける。メアリーもミタツが本気になったことを悟ったのか、動きが一層機敏になる。


 地面に仁王立ちをしていたメアリーが足を素早く動かして立体的な攻撃を更に複雑にする。ついには二体目の巨人まで作り出した。


 そうして、また何度も殺されて。しかし死なずに。


「……あんたの方が五倍ぐらいずるいわよ」

「あはは、みたいだね……」


 壁に迫られたメアリーは、ミタツに切っ先を向けられて両手を上げた。そして忌々しげに言う。


「それだけの気迫が出せるなら、前の時もそのぐらいやって欲しかったわ」

「返す言葉が出ないや」

「まあいいわ。もう! 今日はサンドバッグにしてやるつもりだったのに!」


 メアリーが頬をふくらませ両腕を縦に振ると、まだ連動していた二体の巨人もドゴンドゴンと地面を穿った。そこにミタツが巻き込まれたのは特筆すべきことでもないがここに記す。


 ちなみに、ただの片手剣が無事な訳がなく。ひしゃげた無様な片手剣はミタツが買い上げることになった。


 買ったのに負けたような気がしてならずとぼとぼとルームから出る二人は、ちょうど向かいの草原ルームから出てきた二人に声をかけられる。アレックスは恩恵を発動させていて見るに眩しい。


「おう、お二人さん。今終わったとこか」


 コウタロウが軽く右手をあげると、ミタツも弱々しく悲しげな片手剣を掲げる。


「お疲れ様。……あ、メアリー。この二人は僕の友達。こっちがコウタロウで、こっちの金ピカの方がアレックス。二人とも恩恵者だよ」

「ふーん、そう」


 メアリーは興味なさげに言って、スタスタと歩いていこうとする。ミタツは苦笑いをうかべどうしようかと迷っていると、すかさずコウタロウが声をかけた。


「なあ、メアリー、だっけか?」

「そうだけど、何よ」

「このあと時間空いてるか」

「……さあね」

「ならよ、せっかく一人の共通の仲間を持つ間柄だ」


 コウタロウがチラッとミタツに目配せをする。そしていつも通りの不満顔のアレックスを素知らぬ顔で、


「一緒に飯でも行かないか? もちろん、代金は俺が持つよ」


 そう誘いかける。メアリーはくるっと振り向いて行った。


「そうね……。ま、意地悪するところでもないわ。イタリアンならいいわよ」

「イギリス人なのにイタリアンってのはおもしれぇな」

「別にいいじゃない。金ピカのあんたもどうせイギリス人でしょ?」

「まあな。俺もピザは好物なんだ」

「なんか最初の反応が僕の時と全然違う……」

「あんたはフェリ様に近かったんだから、好感度が低いのは当たり前よ」


 やっぱりミタツはその理由に納得できないまま、四人はジムを出てレストランに向かった。

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