二十四話 ランチタイム
「で? こいつの調子はどうだよ」
「全然ね。大した戦力にもならないわ」
「耳が痛い……」
物静かでオシャレな店内で、注文したパスターーアレックスは堂々とピザを頼んだーーを待つ間、四人は会話に花を咲かせていた。
正方形のテーブルの各辺にひとりずつ、メアリーとコウタロウ。ミタツとアレックスが向かい合うように座り、ミタツの隣にはメアリーが。
耳を塞ぐジェスチャーをするミタツに反してメアリーはさらに辛辣に語る。
「任務の時、ミタツは何の訳があってか全然攻撃してくれなかったし、遠距離ができないからほとんどあたしが殺したし、いてもいなくても変わんなかったわ」
「はっはっは! だとよ、ミタツ」
「……反省はしてるんだけどね」
気まずさを紛らわせるようにミタツはお冷を煽る。しかしそんなもので間を持たせられるわけもなく、変わりにメアリーの毒舌は止まらない。
「そもそも、なんであんたがフェリ様の助手になんてなれたのかって話なのよ。おかしいじゃない。何度も言ってるかもしれないけど、あたしはフェリ様に身を捧げる思いなのよ? それに、今までフェリ様の助手を希望してた人もたくさんいたのに、どうしてーー」
「おい、ガキンチョ」
アレックスが口を挟んだ。ガキンチョ呼ばわりされたメアリーはきっとアレックスを見る。
「ミタツにかんけぇねぇ話しでミタツを責めるな。気分悪ぃぞ。わかったか」
「……食事の場で鎧を脱がないあんたもどうかしらね」
「訳ありなんだ。悪ぃな」
メアリーの言葉に謝るような言い方で、ほらみろと言わんばかりに恩恵を解いた。
黒のタンクトップの肩から先がないアレックスは、これみよがしに肩をすくめる。
「なんだ、食わせてくれるってのか?」
それを見て、メアリーは僅かに息を飲んでーー
「そう……。それは、あたしが悪かったわ」
「わかってくれりゃぁいい」
素直にそう謝った。
アレックスは何ともない顔でまた恩恵を発動させ、金色の鎧と腕をまとった。
「あれ、でもどうやって食べるの?」
「俺がこうするわけだ」
ミタツの素朴な疑問に、コウタロウは行動で答える。アレックスの兜を外してやると、きちんとあの端正な顔が現れた。
「取り外し可能なんだ?」
「なんなら小出しにもできるみてぇだ。まだ出来ねぇけどな」
「それが出来りゃあ楽なんだがな。恩恵の調節ってのは難しい」
ガシャガシャと鎧を鳴らしてアレックスは狭そうに体を揺らす。案外窮屈なようだ。
それを見てミタツは微笑む。些細なことに苦戦しているアレックスというのも面白い。
「……なんだ、ミタツ」
「ああ、いや。ちょっと苦戦してるアレックスが面白いなって」
「けっ。今に見てろ。クソほど上達してやる」
「訳の分からない文法はやめてもらえるかしら?」
「あ? 知らねぇよんなもん。それより俺はてめぇの方が気になる」
アレックスがメアリーを指さす。
「お前は……いや、お前たちは結局どこに配属されてやがんだ」
「ああ、それはーー」
「残念だけど、機密事項よ」
メアリーが答えようとしたミタツの足を踏みつける。思わず声を上げそうになるミタツだが、なんとか噛み殺してメアリーを睨む。
それを意に介さずメアリーは二人へ目配せして、
「……これでわかるでしょう?」
「……まあな」
「けっ」
アレックスが背もたれに体重を掛けると同時、店員さんがタイミングを見計らっていたように料理を届けた。
地球のマナーとして誰もが口々に「いただきます」と反射的に言ってから食事を始める。
アレックスがいかにも高価に見える鎧でピザを食べているのを見て、興味本位で訊いた。
「その鎧って傷とか汚れとかついても次の時には元に戻ってるのかな?」
するとアレックスはあっけらかんとして、
「いいや? よく見りゃ細かい傷もある。そんな都合よくはできてねぇぞ」
なるほど確かに差し出された鎧をじっと見れば、そこには無数の細かな傷がある。
と、いうことは。
「その手でピザを食べるのって……」
「ぶっ。ミタツ。面白いこと言ってくれるな」
「最悪だ」
しかめっ面をしてアレックスは恩恵を解いた。
しかしそうしてはピザが食べられない。
「おい、ガキンチョ。口に運んでくれるんじゃねぇのか」
「いつ誰がそれを約束したのかを教えて欲しいわね……」
「知らねぇけどこれじゃ食えねぇだろ」
「はぁ……。わかったわよ。あたしが食べてからね」
「助かるぜ」
そんな会話をした。
その話の外のコウタロウとミタツは顔を見合わせる。そしてにっと笑った。二人はアレックスに意味ありげな視線を一瞬向ける。
その視線がアレックスに伝わる前に、二人はパスタに目を落とし、なるべくゆっくり味わって食べた。
ーー ーー ーー ーー ーー
メアリーが嫌々アレックスにピザを食べさせて、帰ろうかという所でアレックスはメアリーに声をかける。ミタツとアレックスは前を歩いているところだ。
「なあメアリー。ミタツは実際どうなんだ」
「どうもなにも、最初に言った通りよ。まだあいつは役に立たない」
「“まだ”か」
意味ありげなところを汲み取って、コウタロウがメアリーに言うと、メアリーは渋々と言った表情で語る。
「今日のジムでの動き……殺気を帯びてた。前にあたしの後ろを着いてきてた人間と同じとは思えないぐらい。きっと、本気を出せばすごいんでしょうね」
「なるほどなぁ。確かにそんなところはあったかも知れない。ただ、ひとつだけ言えるのは、あいつは恩恵者のキャンプの時、非戦闘員全員を守り抜いたんだ」
コウタロウはまるで自分のことを語るかのようにミタツを語る。真実か訝しむメアリーに、コウタロウは笑いかけた。
「だから、あいつを信じてやってくれ。あいつは、やる時はやる男だ」




