二十二話 後悔は役に立たない
「ふむ。まあ、仕方の無い面もあるがね」
今日も白スーツを優雅に着こなすタイチョウは、硬い表情でとある資料に目を通しながらも鋭い声音で二人へ語る。
暗殺の失敗から一日。呼び出されるまで緊張と不安で食も喉を通らない中、ようやくの呼び出しだ。
タイチョウは視線を二人に向ける。
「確かに、情報班の情報は間違っていたり、デマにかかって誤情報を渡す時もある。ただ、そうだな……。最新のフェイクマスクか。私なら……まあ見破れる、か。ミタツはともかく、メアリー。君が見破れないとは珍しい」
「……すみません」
メアリーは弱々しい声で謝り、頭を下げる。ミタツはどうするかもわからないまま、立って身を固くしている。
ふむとタイチョウは頷いて、紙を卓上に広げた。
「これが、さっき届いた最新の資料だ。どうやら、もうすでに敵恩恵者の能力で帝国に連れていかれたようだ。……が、もぬけの殻の屋敷内からいろいろと出てきたからな。無駄な任務ではなかったようだ。そこで、君たちに次の任務を与える」
タイチョウが紙の束を二人に渡す。
「二回目だ。ここでどうか挽回をしてくれ。頼んだぞ」
ーー ーー ーー ーー ーー
浮かない顔のメアリーの横で、ミタツも暗い気持ちのままリビングへ向かった。その途中で、メアリーは廊下をリビングでは無い右へ曲がる。
ミタツが訊こうとすると、
「……ちょっと落ち込んでるの。ゆっくりしてくるわ」
それだけ言って自室へ向かっていった。
ミタツも何とも言わずその背中を見送り、自分も一度自分の部屋にこの資料を置こうとメアリーが去った後の廊下をなぞる。
廊下の一番奥の部屋がミタツの部屋だ。ミタツは静かに廊下を進む。
自室のドアを開き、まだ配置したばかりの机に資料を置き、ベッドに潜り込むのをやめて、資料に目を通した。
今回は潜入ではない。外出した貴族の暗殺ということだ。しかし、最後に不穏な一文が添えられている。
『尚、複数人の攻撃系恩恵者、能力者の護衛が考えられる』
さあ、ミタツは大きく息を吸った。
これは自分のための仕事だ。攻撃系恩恵者がなんだ。能力者がなんだ。初めにいろいろ言われたとして、メアリーは仲間であるし、嫌な奴じゃない。
根は優しい彼女に、あんな暗い表情をさせてはならないのだ。
ミタツはじっと椅子に座って、様々なことを考える。果たして今の自分がやることは何か。次の任務は……五日後。
「……ジム、行こう」
ミタツはトレーニング用の服と、着替えとを持って部屋を出る。異世界製携帯通信機には、すでにあの男への連絡は済んでいる。
ミタツが勢いよくドアを開くと、ちょうどひとつのドアが開いた。
顔を出したのは、珍しくポニーテールにしたメアリー。服装もいつものオシャレな感じではなく、ぴっしりとしたジャージ姿。まるでジムに行くような姿だ。どうしたのだろうか。
「どうしたの?」
「いつまでもうじうじしてらんないわよ。気分転換よ気分転換!」
「そ、そっか」
やけっぱちな態度のメアリーに気圧されて、ミタツは微妙な返事をする。
そのままふんと顔を背けてメアリーはスタスタとサングラスでスキンヘッドのイカつい男のいる部屋に行く。
少し間を置いてミタツもその部屋に入る。そして男に頼む。
「すみません。いつもの部屋にお願いします」
「了解」
男が了承すると、ミタツは瞼を閉じる。二、三秒してから目を開けると、そこはフェリの部屋……いや、実際にはフェリの部屋ではなく、単純に行き来のためだったらしい黒い部屋にいた。
ミタツは慣れた様子で玄関のドアを押し開く。メアリーは先に出ていったが鍵を開けっ放しにしてくれていた。
ミタツは電話をかける。
「もしもし、コウタロウ。僕は今から降りてくよ」
『おう。ならロビーに居るぞ! アレックスもいるからな』
「うん。わかった。……あと、もしかしたら僕の仲間も来るかも」
『おお! そりゃ楽しみだ! じゃあロビーでな!』
「うん」
ミタツは通話を切って、携帯をポケットに入れた。足早に階を移動するための魔法陣の元に行く。
すると、立ち往生をくらっているメアリーが、苛立たしげに足を揺らしていた。
「メアリー。どうかしたの?」
「ロビーへのエレベーターが混雑してるの! はぁ、面倒ね!」
「ちなみに、どこに行くのか訊いてもいい?」
「ジムよ、ジム! あんたもでしょ? あたしのサンドバッグにでもなる?」
「あはは……避ける練習って言ってくれれば付き合ったけど」
「じゃあそういうことにしとくわ。来たわよ。ほら、あんたもでしょ?」
メアリーがぐいっとミタツの腕を引いて、魔法陣の上に連れてかれる。
「精々頑張って避けてみなさい」
そう言って妖艶に笑った。
魔法陣を抜けると、コウタロウがミタツに対して大きく手を振る。しかしその異常に気がついた。腕のないアレックスもミタツの方を見る。
「おーい、ミタ……ツ?」
「なんだ、急に惚気けやがったか」
「どこをどう見たらそう見えるのさ! ごめん二人とも! 先に行ってるね!」
そう気を使って言ったにも関わらず、
「なあ嬢ちゃん。ミタツの仲間なのか?」
「ええ、そうね。あんたこそこいつの同僚でしょ? 悪いけどちょっと借りるわよ」
「おう、まあ……なんだ。いろんな経験が必要だからな!」
「女子にぶちのめされる経験ってか? くははは!」
爆笑するアレックスに白い目を向けて、抵抗叶わずミタツはずんずんと連れてかれるのだった。




