随分とデレてくれるじゃねえかbyカイリ
俺様は今、病室のベッドの上に足を投げ出して座ってる。
オサムが植物人間なのは幽霊の仕業なんじゃねえかって本能的にそう思い、
無理言ってウララにまた来てもらってるとこだ。
しかし、約束の30分は過ぎちまった。
ウララはドタキャンするようなキャラじゃねえし、何か揉め事に巻き込まれてんのか?
「……ま、そうだとしても今の俺様は役立たずだからなぁ」
震える右手を持ち上げ、何とか握ってみた。
これじゃ馬鹿力どころか凡人以下だぜ、畜生。
俺様は顔を上げ、色の近い青空へとブルーな気持ちを流した。
「カイリさん、遅れてすみません!」
「おっ!……って、アツシも来たのか」
ブルーから切り替えた明るい表情を向かわせた先には、
今朝見たまんまの格好のウララ。
と、その後ろにはアツシも居た。
意外と元気そうだが、四角くてでっかい絆創膏を顔にデデンと貼り付けている。
「カイリ、生きているか?」
アツシはウララを迂回して歩き、俺様のベッドに近付いて来る。
「まあな」
「話はウララから伺っている。
俺は特に今回の件には干直接渉しない。
カイリが俺を邪魔だと思うなら、俺は帰っても構わんのだが」
「そんな、アツシさん!
見守ってくれると約束したじゃないですか。
久しぶりなので心細いんですよ、私」
ウララがアツシの背後から両手を伸ばして頬を挟み、
アツシの頭をグイッと捻って自分の方に向けさせ、2人の目が合った。
仲睦まじくて羨ましい限りだぜ。
「ああ、そうだったな。
と言う事だ、カイリ。
俺も同席させてもらう」
アツシはウララに頭を固定されたまま横目で俺様を見た。
人前でカノジョとイチャついてんのによ、クールな奴だぜ全く。
こないだの激辛タコ焼きで少しは吹っ切れたのかね。
「良いぜ。
むしろ俺様もアツシに用があったんだ」
「ほう」
「それよりもカイリさん」
ウララがアツシを解放し、俺様の方をズイッと覗き込んでくる。
妙に前のめりなもんだから、胸元の隙間からウララの肌がチラ見えしちまってる。
……ご馳走様っす。
「カイリ、何だその顔は」
「……おっ?何だよアツシよぉ、俺様のこの顔は生まれ付きだってぇの」
「顔の造形ではなく表情の事だったのだが」
「カイリさん、もう面会の手続きは済ましてあります。
オサムさんの病室へ行きましょう!」
良く分かんねえがウララは興奮気味で、体を揺らして喋るもんだから、
服と胸が上下して余計に肌が見えちまう。
……入院して良かったぜ。
「カイリ?」
「……んだよ、生まれ付きだって言ってんだろうが!」
「俺はお前の名を呼んだだけなのだが」
「カイリさん、歩けますか?」
アツシからウララに視線を戻すと、ウララはもう直立しちまってた。
ギャル系なココアとかと違って地味な格好してっからノーマークだったけどよ、
ココアにゃ劣るがウララも意外と有ったんだな。
うん。
「うーん、あん時かなり無理しちまったせいでちょっとな……」
「オサムさんの存在を知った時ですね。
大親友なのですから、あれだけ取り乱しても無理もありませんよ」
「車椅子が有るぞ。
俺が押してやるからこれに座れ」
アツシの声と車輪の音に俺様とウララが注目すると、
病室の隅っこに畳んで置いてあった車椅子を展開し、
俺様のベッドの側に押して持って来てくれていた。
「何だよアツシ、随分とデレてくれるじゃねえか」
「カラオケでの一件で俺は知った。
例え超能力者であっても、人間1人に出来る行動はたかが知れている。
俺には周囲への配慮や……そうだな、思いやりと言った要素が欠けていたのだ。
超能力を無効にされたのも、今となっては内省する為に神が与えた試練の様に思える」
アツシは車椅子を適当な位置まで押すと、握っている一対のグリップから手を離した。
「ウララから聞いたが、
カイリは俺のトラウマに配慮してタバコを辞めると宣言したそうだな」
「あっ、それだよそれ!俺様がアツシに謝りたかった事!
お前にあんな過去が有ったとも知らずに、俺様は公園で「よせ」
「アツシさん……」
「カイリ、あの時お前は俺のトラウマについて何も知らなかった。
だからお前に責任は無い。
謝罪の一切は不要だ」
「アツシ、そこまで言うかよ」
驚きにも似た俺様の声を受け、アツシは窓の方へと歩いた。
カーテンに左手をかけて脇にやり、窓の向こうをジッと眺めている。
「むしろ責任が有るのは俺の方だ。
トラウマに支配され、荒れ狂う獣と化してしまった弱い俺にこそ、
贖罪の二文字が相応しいだろう」
絶対口に出して言わねえけどアツシってあれだよな、中学2年生っぽい。
「アツシさんにだって責任は有りません!」
突然ウララが叫んだ。
普段大人しい奴がたまに怒ったり騒いだりすっと、かなり印象に残るよな。
「あ……すみません。
当事者じゃないのに私ったら、つい熱くなってしまって……」
感情的な自分の振る舞いが恥ずかしくなったらしく、
ウララは顔を両手で覆った上に出入り口の方へクルリと振り向き、俺様達に背中を向けた。
「いや、俺様もそう思うぜ。
全部たまたまだよたまたま。
こう言うのは神様のせいにしときゃ良いんだって」
「うう、でもぉ……」
「ウララ、これから植物人間の霊視をするのだろう。
余計な事であまり思い悩むな。
超能力に響く」
アツシのフォローに、ウララは黙って背を向けたままコクリと頷いた。
カレシ持ちだがぶっちゃけ可愛い。
「カイリ、車椅子に座れ。
それくらいは自分でやってもらう」
「わーってるよ。
そこまでボロボロじゃねえから安心しな」
俺様はちっとばかし気張ってベッドの上から離れ、
アツシが用意した車椅子に腰を下ろした。
「デカブツで悪いが頼むわ、アツシ」
「ああ。
ウララ、くだんの植物人間は何処に居る?」
「覚えてますから、私について来て下さい」
「分かった」
ウララが先に病室を出て、車椅子の俺様とそれを押すアツシがウララの長い黒髪を追った。
ズンズンと力んで早歩きしてるウララに対し、
俺様がデカくて重いせいか、アツシの動作はゆっくりとしている。
俺様達とウララの距離が開き、ウララは先に角を曲がった。
「カイリ」
「どうしたアツシ」
俺様が何気なく反応すると、何を思ったのかアツシは俺様の耳に顔を近付けて来やがった。
「ウララは俺のカノジョだ。
異性として見る程度は妥協してやるが、恋愛や性愛の対象にするのはやめて貰おう」
「へっ?」
その話がしたくてワザと遅く移動し、ウララを先に行かせたってのか?
てか、ウララの胸ガン見してたのバレてた?
「これは『警告』だ。
俺の十字架をカイリの血で汚したくなければ、覚えておくと良い」
「おう、分かった……」
こいつデレたと思ってたけど線引きはしっかりしてるし、
やっぱ厨二でクレイジーな奴だったわ。
……チン寒。
「では行くぞ」
ワザと遅れらせてるって予想は当たってたらしく、
アツシは一転して車椅子の速度を速める。
「おわっ!」
俺様達がオサムの病室に入ると、
先に中へ入ってたウララが血相を変えて飛び出して来たもんだから、
俺様は危うくそのウララとぶつかっちまうとこだった。
ラッキースケベならずか。
……手ぇ使いづらいからさ、溜まってんだよな。
「どうしたウララ」
「アツシさんっ、彼……オサムさん、超能力者です!」
ウララは自分の後ろを指差し、肩で息をしながら切れ切れに告げた。
「何っ!?」
「オサムが超能力者だとぉ!?」
驚愕する俺様達。
大親友の俺様でも初耳だぞ。
大体、超能力者が何で植物人間してんだよ。
オサム、目ぇ覚ませよ!
そんでもってお前に何が起こったのか、1から百までキチンと説明しやがれ!