この子は幽霊ですbyウララ
一部の方々から白雪王子と呼ばれている、植物人間のオサムさん。
彼の長い眠りに幽霊が絡んでいるのではないかと言うカイリさんが、
霊能者である私を頼ってきました。
それを引き受けた私はアツシさんを連れ、本日2度目となる病院の面会に来ています。
カイリさんとアツシさんのお話もそこそこに、私達はオサムさんの病室へと向かいました。
しかし、オサムさんの手に触れた私は驚愕しました。
何とオサムさんは幽霊以前の問題で、
私達と同様に何らかの超能力を持つ超能力者だったのです!
「オサムが超能力者だとぉ!?」
「どう言う事だウララ!」
遅れて病室に来たお二人も、これには驚きを隠せないようです。
「私にも分かりません。
ただ、彼は超能力者なんです。
この感覚、間違えようがありません」
「幽霊は憑いてんのか?」
「あ、それはもう少し調べないと……」
「ウララ、本人が植物状態であろうと超能力が発動する可能性は否定出来ない。
俺達の超能力は、ある種の防衛本能に近いと言えるからだ。
何か危険を感じたら速やかに霊視を中断しろ。
分かったな」
アツシさんの鬼気迫る真剣さに、私はツバをゴクリと飲みました。
心細くてアツシさんを呼んだのに、そんな緊張する事を言わなくても……。
心配して下さるのは嬉しいんですけどね。
「はい……」
「おい、カイリ。
あのオサムと言う奴は、お前の友人だったのだろう。
今の今まで奴が超能力者だと知らなかったのか?」
カイリさんは車椅子に座ったまま首を懸命に動かして、
背後のアツシさんを視界に入れようとしています。
車椅子に座っている限り、それは無理だと思いますけど。
「アツシ訂正しろ!俺様とオサムは友人なんかじゃねえぞ!」
「知り合い……だったか?」
「ちげえよ。
俺様とオサムはなぁ……大親友なんだよ!」
「だいしんゆう……ですか」
「それは悪かったな。
覚えておこう」
以前までのアツシさんなら、大親友だからなんだと一笑に付していた事でしょう。
お相手が一般の方ではなく超能力者だからと言うのもあるんでしょうけど、
それでもやっぱり、最近の彼は丸くなっている気がします。
お友達が出来なさそうだと気にかけていた私としては、
彼の柔軟な変化に安心を覚えちゃいます。
「じゃあウララ、霊視の方も頼むわ」
「ウララ、くれぐれも無理をするなよ。
ただでさえ超能力を使うのは久々なのだからな」
「はい!」
私は小さくガッツポーズを作った後、振り返ってオサムさんのベッドへ近付きました。
白雪王子と呼ばれるだけあって、彼やその周りからは幻想的な雰囲気を感じます。
実際に超能力者なので、幻想的……の言葉には収まらないんですけどね。
「オサムさん、あなたに一体何があったのですか?」
私はベッドの側に跪き、改めてオサムさんの左手にそっと触れました。
……この咲き誇る花のような美しいエネルギー。
彼は正真正銘の超能力者です。
「ウララ、椅子を用意したぞ」
私のすぐ後ろでカタンと音がしました。
アツシさんが気を利かせて、私が座れるように丸椅子を置いてくれたみたいです。
「ありがとうございます、アツシさん。
ただ、今はこれで良いんです」
「そうか」
また、カタッと音がしました。
椅子の要らない私の代わりに、アツシさんご自身が座ったのでしょう。
「どうだ、ウララ?」
カイリさんが居ても立っても居られないのは良く分かります。
ですが、私の霊能力は他人に言葉で説明するのが難しいんですよね。
強いて言語にしてしまえば、
長期間植物人間になっているせいかオサムさんは魂のガードが堅いです。
より深くへと入り込む為に、私は両手でオサムさんの左手を包みました。
「……まだ分かりません」
「マジで頼むぜ!大親友の人生がかかってんだ!」
「カイリ、少し大人しくしていろ。
ウララが集中出来なくなるだろう」
「でもよ……」
「う、ん……」
オサムさんの魂が開きました。
意外とあっけ、なく……。
「ウララ?」
すぐ後ろに居る筈の、アツシさんの声が遠い……。
いえ、私の方が遠ざかって……いる……。
「……ここは?」
眠るように意識の途切れた私が次に気付いた時、
病室とは全く違う開けた場所に立っていました。
辺りを見渡すと、地面には色とりどりの素敵なお花が一杯に咲いていて、
まるでこの世のどこかとは思えない不思議な感じのする光景です。
私の足元もお花で埋もれてしまっていますね。
実際、この世とは言い難い場所なのでしょう。
ここに来るのは初めてですが、それくらいは分かります。
「あれ、何でしょう?」
お花ばかりに気を取られていましたが、遠くに何やらベッドのような物が置かれています。
絵本に出て来るお姫様の寝室にあるような、
カーテンが付けられた天井付きの大きなベッドです。
そこには更に、女性のようなシルエットの人物が腰掛けていました。
ベッドに横たわっている誰かの眠りを、あそこでずっと見守っているのでしょうか。
こんな所に居るのですから、あちらの方が人ならざる存在なのは疑いようがありません。
問題は、あれが私の敵か味方か……です。
立ち尽くしていてもラチがあかないので、とりあえず接触してみましょうか。
「ごめんなさーい……」
本当にお花だらけで足の踏み場が無く、
移動したければ踏んで進むしかありません。
私はお花に謝りながら、出来るだけ大股でベッドへと近付いて行きます。
距離が縮まるに連れて、ベッドの側に居る人の像がハッキリしてきました。
腰まで伸ばしている私程ではないですが、長めの黒い髪を二つに分けています。
私より小柄で、やや丈の短い赤のカーディガンを羽織り、その下にはこのお花畑になぞらえてか、花柄を散りばめた白の膝上ワンピース。
私に対して背を向け、ご自身の腰掛けているベッドに目線を落としているようです。
お顔は見えませんが、その外見からしてまず女性の方でしょう。
今更ですが、ちょっとしたプールにできそうなくらい大きなベッドですね。
あの方はさしずめ、マッタリと足湯でも楽しんでいるかのようです。
「すみませーん……」
かなり近付きましたので、思い切って声をかけてみました。
返事は……有りませんね。
ではもう一度。
「すみませーん!」
直前よりも声を大きくしたお陰か、
かの人はこちらを振り向くまでは行かないものの軽く頭を動かし、
私の存在に気付いて下さったようです。
「……誰?」
気持ち幼げな女の子の声です。
おおよそ中学生くらいでしょうか。
「私、ウララと言います」
「知らない」
跳ね返すような反応ですね。
ですが、私とてそう簡単には引き下がれません。
「私はウララですが、あなたのお名前は何ですか?」
「どうして私があなたに答えなくちゃいけないの?」
「私はオサムと言う人の魂の中に入り込んだ筈なのですが、気が付いたらここに居ました。
恐らくですがこの空間は、そのオサムさんの魂が眠っている場所なのです。
オサムさんを長い眠りから目覚めさせる為に、少しでも手がかりが欲しいんです。
あなたはオサムさんやこの空間について、何かご存知ではありませんか?」
「この人、オサムって言うんだ。
知らなかった」
「へっ?」
この人……?
この大きなベッドの中に物質世界同様、オサムさんの魂が眠っているのでしょうか?
そうすると、この女の子こそがカイリさんの懸念していた幽霊……?
私は核心に迫る緊張から胸を僅かに高鳴らせ、より近くへと進みます。
女の子は、特に私の接近を咎めたりしないようです。
「……オサムさん!」
フチに手をかけて覗き込むと、物質世界そのままのオサムさんがそこに居ました。
ベッドの中も周囲同様お花で埋め尽くされていて、
その中心にオサムさんが仰向けで横たわっています。
さながら足湯をしているようにも見えた女の子ですが、
お花をお湯に例えれば全くもってその通りでした。
女の子は退屈そうに時折足を蹴り飛ばし、つま先で中のお花を散らしているのです。
「オサムさん!」
私が再度名前を呼んでも、オサムさんは微動だにせず目も閉じたまま。
「無駄だよお姉さん。
この人は私が眠らせているから」
「えっ?」
私が女の子に目をやると、彼女はベッドの中から一輪の花を手に取り、
その茎をつまんでクルクルと回しています。
余程退屈なのでしょうね。
「オサムだったっけ。
この人を私が眠らせているから、ナリツグは不死身でいられるんだよ」
「ナリツグ……?」
聞いたことの無い名前ですが、不死身となるとフジミヤさんが連想されますね。
そう言えば、フジミヤさんはご自分の下の名前を明かしていませんでした。
もしかしたらこの女の子が言うナリツグとは、
フジミヤさんの事を指しているのでしょうか。
「私の恋人。
私の方は先に死んじゃったけどね」
「もしかして、そのあなたの恋人とはフジミヤさんの事では……?」
私がフジミヤさんの名前を出した途端、女の子が目を丸くして私を見ました。
それまではずっと私に目もくれず、ベッドの中のお花に視線を落としていたのに……です。
「お姉さん、ナリツグの何!?」
「えっ?お友達、ですけど……」
女の子は興奮気味でベッドのフチから降り、私の肩を掴んで来ました。
女の子の手が私の体に触れた時、確信しました。
この子は幽霊です。
その上超能力者と来たものですから、
私はこの超展開についていけるのかと心配になってきました。
幽霊で、しかも超能力者だなんて。
「ナリツグは私の恋人なのよ!
他の誰にも渡さないんだから!」
女の子は私を揺さぶって、早口でまくし立ててきました。
「落ち着いて下さい。
私にはフジミヤさん……いえ、ナリツグさんとは全く別のカレが居ます。
あなたの邪魔をするつもりはありません」
「じゃあすぐに帰ってよ!」
「それは出来ません。
そこで眠っているオサムさんを目覚めさせなければならないからです」
「駄目!
こいつがここで眠っているからこそ、ナリツグが生きて居られる!
ナリツグの為に私はここを見張ってるんだ!」
女の子は激しく私に吠えかかります。
「詳しく説明してもらえませんか?
あなたとナリツグさん、そしてオサムさんについて……」
女の子はしばらくの間私に対して怒りを露わにし、
唸る犬のごとく歯を剥き出しにすらしていましたが、
私がただ黙って見ていると、少しずつですが大人しくなってくれました。
「悪いようにはしませんから。
あなたにだってあなたの苦しみが有ってここに居るのでしょう?
私ならそれを軽くしてあげられるかも知れませんよ」
「……ホント?」
「ええ」
女の子はうつむき、私の肩から手を離しました。
「お姉さん、ウララだったっけ。
私は……ヨリコだよ」
「ヨリコさん、ですね?
繰り返しになりますが、ヨリコさんご自身とナリツグさん、
そしてそこのオサムさんについて、あなたの知っている事を教えてはくれませんか?
それと、この空間についても……」
ヨリコさんはうつむいたまま、小さくコクリと頷きました。
ふう、第一関門突破です。
オサムさん、もうしばらく待っていて下さい。
あなたの大親友カイリさんの為にも、必ず助け出してみせますから。




