第006話:霧の中の声
第一章:止まない雨の島
―前回のあらすじ―
グローブはチサトとともに《カウカーム》のミルクを取るため、『ミルキークォーツの丘』を訪れ、牛舎でラテラと出会う。
その直後、牛舎から逃げ出した一頭の仔牛を追いかけることとなった。
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*グローブ:
ボクが追いかけるよ!
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*チサト:
待って、私も行く!
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牛舎を飛び出した仔牛を捕まえようと、二人は雨の中へと駆け出した。
黄金色の巨石が立ち並ぶ『ミルキークォーツの丘』。
視界を白く染める深い霧。
二人は目を凝らし、あたりを見渡した。
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*チサト:
あっ、あれそうじゃない?
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*グローブ:
どれ!?
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*チサト:
あそこの巨石の影!
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*グローブ:
よし、分かった!
ボクにまかせて!
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グローブが回り込むようにして、仔牛へと駆け寄った。
ゆっくりと近づいていく。
そっと……。
そして、あと一歩で手が届くという瞬間――
グローブは仔牛に飛びついた。
しかし、仔牛は軽快なフェイントをかけて、グローブをかわした。
――もぉーーーっ!
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*グローブ:
うわっ!?
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勢いを殺しきれず、グローブはそのまま泥の中へ盛大に転がった。
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*チサト:
グローブ、大丈夫!?
……もう!
さっきから、ラテラさんの前だからって張り切りすぎだよ!
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*グローブ:
えっ?
そ、そんなことないよ!
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そんなやり取りをしている、ほんのわずかな間に、二人は仔牛の姿を見失った。
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*グローブ:
あれ?
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*チサト:
いない……。
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*グローブ:
……どうしよう……。
でも……見つけたとしても――
ただ追いかけるだけじゃ、怖がってるのか、遊んでるのか分からないけど……。
逃げてばかりで、捕まえられないよ。
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*チサト:
……そうだね。
何かいい方法ないかな……。
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*グローブ:
……挟み撃ちにする?
……エサで釣るとか?
……口笛?
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*チサト:
……あっ、そうだ。
そういえば、お母さんが言ってた。
子供って、お母さんの声を聞けば、どんなに遠くにいても戻ってくるって……。
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*グローブ:
それ本当……?
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チサトは牛舎の入り口で静かに佇んでいた母親の《カウカーム》に、恐る恐る近づいた。
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*チサト:
お願い……。
あの子、心配してると思うの。
……呼んであげて。
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――んもぉーぅ。
母親の低く重たい鳴き声が、雨の放牧地に響き渡った。
すると、小さな影が勢いよく、こちらに向かってきた。
――もぉっ!
しかし、雨でドロドロにぬかるんだ地面に、仔牛はバランスを崩して、転びそうになった。
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*グローブ:
危ない!
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*チサト:
こっち!
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二人は息を合わせ、正面から滑り込んできた仔牛の身体を同時に優しく抱きとめた。
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*ラテラ:
すごいね~。
捕まえてくれて、ありがと~!
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駆け寄ってきたラテラが、泥だらけになった二人を見て、おっとりと柔らかく微笑んだ。
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*ラテラ:
二人は、とっても仲良しなんだね~。
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泥だらけの顔のまま、グローブとチサトは思わず顔を見合わせた。
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*グローブ:
ち、違います!
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グローブが慌てて否定する隣で、チサトだけは嬉しそうに頬を緩めていた。
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*チサト:
……えへへ。
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ラテラは近くにあったホースを二人に向けた。
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*ラテラ:
はーい、レインコートが泥だらけだから、水かけるね~。
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そして、勢いよく蛇口をひねった。
――プシャァァァッ!!
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*グローブ:
うわああああっ!
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*チサト:
きゃあっ!!
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*ラテラ:
ふふふ。
ごめんねぇ~。
でも、すっごく、きれいになっていくよ~。
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突然、水をかけられてビックリする二人だったが、レインコートの泥汚れは、みるみるうちに綺麗に洗い流されていった。
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*ラテラ:
はい、タオル~。
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*グローブ:
ありがとうございます。
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*チサト:
びっくりしたけど、気持ちよかったです。
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二人はラテラに渡されたタオルで顔を拭いた。
そしてラテラが仔牛を拭き終えると、ミルクの場所まで案内してくれた。
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*ラテラ:
はい、これが《カウカーム》のミルクだよ~。
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特大のボトルに純白のミルクが湛えられていた。
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*グローブ:
うわぁ……。
すごく、きれいなミルク……。
ありがとうございます。
ラテラさん。
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*チサト:
グローブ、これ持って帰るの?
すっごく重そうだけど……。
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*グローブ:
……確かに、そうだね……。
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グローブは少しだけ考えた。
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*グローブ:
あっ……そうだ。
ラテラさん。
余っている紐とか、ありませんか?
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*ラテラ:
紐~?
ロープならあるけど、何に使うの~?
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*グローブ:
リュックにします。
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ラテラからロープを受け取ると、グローブの指先が素早く動き出した。
迷いのない手つきで、ロープをボトルへと巻き付けていった。
あっという間に、リュックのように背負える、頑丈なホルダーを作り上げてしまった。
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*ラテラ:
あら〜、凄いね〜!
簡単にそんなもの作れちゃうなんて~。
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*チサト:
本当、器用よね……。
相変わらず凄すぎ。
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そしてグローブは、リュックのように特大のボトルをしっかりと背負った。
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*グローブ:
ぐっ、やっぱり重い……。
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そう言うと、肩に食い込んだロープを、そっと指でなぞった。
その瞬間――
淡い光がロープを走った。
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*ラテラ:
……グローブくんって、村長さんのところのお孫さんだよねぇ。
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*グローブ:
はい、そうです!
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*ラテラ:
その手つきを見てたら、ジェンドのこと、思い出しちゃった〜。
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*チサト:
えっ!?
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*グローブ:
ジェンド?
誰のことですか……?
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聞き覚えのない名前に、グローブは首を傾げた。
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*ラテラ:
ごめん、ごめん。
なんでもない、なんでもない。
今の気にしないで〜。
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ラテラは笑顔を保ったまま、わずかに視線を泳がせた。
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*ラテラ:
あ、そうだ!
夜になって、もっと暗くなると、《カウカーム》たちが敏感になって危ないから〜……。
二人とも早めに『ダイヤ村』へ帰ってね~!
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それ以上の質問を拒むように、ラテラは二人を足早に牛舎の外へ送り出した。
――んもぉーぅ。
《カウカーム》の重たい鳴き声だけが、霧に包まれた丘へゆっくりと溶けていった。
グローブは、先ほどのラテラの言葉が妙に気になっていた。
――ジェンド。
それは、いったい誰の名前なのだろうか。
初めて聞く名前のはずなのに、グローブの胸の奥に小さく引っかかった。
ぽつ……ぽつ……ぽつ……。




