第004話:八色の羽根
第一章:止まない雨の島
―前回のあらすじ―
グローブとチサトは、『ロッククリスタルの谷』で《ヘンブレス》の群れと、ルアンに出会った。
そして卵を手に入れるため、グローブは壊れた巣を修復した。
『ロッククリスタルの谷』の帰り道――
《ヘンブレス》の卵を手に入れた二人の足取りは軽かった。
ようやく周囲が明るくなった頃、チサトは、まだグローブと手を繋いだままだったことに気づき、慌てて手を離した。
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*チサト:
べ、別に怖かったわけじゃないからね!
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チサトは照れ隠しのように、そう言い放った後、唇を少し尖らせて不満そうに呟いた。
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*チサト:
そういえばルアンさん……。
さっき絶対、誤魔化したよね……。
大人って、みんな――
昔の話になると、はぐらかして、ちゃんと話してくれないよね。
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*グローブ:
うん……。
昔の話、してくれないね。
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*チサト:
……私は覚えてるんだよ。
まだ、雨が降り始める前のこと。
――青空に、白い雲、そして真っ赤な太陽。
でも、それだけ……。
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そこで言葉を区切ると、チサトは小さく微笑んだ。
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*チサト:
年下の子たちは、ずっと雨が降っていることが普通だと思ってるけど……。
それって、本当は普通じゃない。
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*グローブ:
そう……だね。
でもボクも、ずっと、これが普通だと思ってた……。
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グローブの言葉に、チサトはハッとして口元を押さえた。
記憶のない彼の心を、知らず知らずのうちに、傷つけたかもしれない、と。
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*チサト:
あっ、なんか、ごめん。
ルアンさんの「あれ以来」が気になっちゃって。
……無神経だったかな?
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チサトはグローブの顔を気まずそうに覗き込んだ。
グローブは小さく首を横に振り、安心させるように微笑んだ。
――しゃん、しゃん、しゃん、しゃん……。
ガラスの鈴を振るような軽やかな音が、次第に大きくなってきた。
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*チサト:
あっ、もう『ロッククリスタルの川』だ。
帰り道って早いよね。
行く時は、あんなに遠く感じたのに……。
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*グローブ:
うん、本当だね。
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二人は橋の下に降りて、川の流れを見つめた。
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*グローブ:
近くで見ると黄金色だ。
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*チサト:
そうなの。
でもね、水をすくうと……。
ほら!
こんなに透明なんだよ。
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*グローブ:
すごい……。
本当にきれいな水だね。
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*チサト:
……ところでグローブは、この川の上流って、何があるか知ってる?
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*グローブ:
えっ、そんなの簡単じゃん。
『オパールマウンテン』でしょ?
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*チサト:
ふふっ。
半分アタリで、半分ハズレ!
あの山の麓に『アレキサンドライトの泉』って泉があるんだよ。
そこから、川が始まってるんだ。
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*グローブ:
へぇー、そうだったんだ。
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感心するグローブに、チサトはさらに少し声を潜めて、秘密を打ち明けるように言った。
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*チサト:
その泉って、すごいんだよ。
水の色が変わるんだって――
昼は【緑】で、夜は【紫】に……。
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*グローブ:
へぇ、詳しいんだね。
でも、それならなんで、この川の水は【緑】じゃないんだろう?
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*チサト:
うーん……。
なんでだろう?
分かんない。
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不思議そうに顔を見合わせた二人の間に、自然と笑みがこぼれた。
雨粒が川面を叩く音も、少しだけ楽しく聞こえた。
――しゃん、しゃん、しゃん、しゃん……。
それから二人は『ロッククリスタルの川』をあとにした。
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*チサト:
あー、なんか今日はドキドキしちゃった。
二人だけで『ロッククリスタルの谷』に行ったんだもんね。
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*グローブ:
うん。
でも、ルアンさんって不思議な人だったなぁ。
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グローブがしみじみと言うと、チサトは少しジト目を向けてきた。
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*チサト:
ふーん。
グローブは、ああいう、ちょっとクールで、ミステリアスな人が好きなんだ?
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*グローブ:
い、いや、別にそんなんじゃないよ!
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そんな他愛もない話をして、二人はそれぞれの家へと帰った。
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*グローブ:
ただいまー。
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*マリヤ:
おかえり。
どうだったかい?
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グローブは少し言い訳っぽく、はにかみながら話した。
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*グローブ:
本当は、一人で行くつもりだったんだけど……。
途中でチサトに会っちゃって……。
……だから、二人で一緒に行ったんだ。
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*マリヤ:
そうかい、そうかい。
それじゃあ、安心だったね。
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マリヤの優しい言葉に、グローブはホッとしたように笑顔を見せた。
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*グローブ:
えっと、これ、《ヘンブレス》の卵。
ここに置いていい?
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*マリヤ:
まあ、こんなにたくさん。
重かったでしょう。
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*グローブ:
うん、でも大丈夫。
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荷物を置いたグローブは、チサトから聞いた泉の話を思い出し、マリヤに尋ねてみた。
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*グローブ:
ところで、おばあちゃん。
チサトが言ってたんだけど……。
『アレキサンドライトの泉』って昼と夜で色が変わるの?
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*マリヤ:
ああ、そうだよ。
昼は【緑】で、夜は【紫】に、ね。
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*グローブ:
じゃあ、なんで、『ロッククリスタルの川』の水は【緑】とか【紫】じゃなくて、黄金色なの?
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*マリヤ:
まず、『アレキサンドライトの泉』だけど……。
あの泉の底は「グレーダイヤモンド」という特別な鉱石なのさ。
言い伝えでは、その鉱石が昼は光、夜は闇のエネルギーを感じとって、色を変えるんだよ。
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*グローブ:
へぇ……泉の底の色だったんだね。
じゃあ、川は?
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*マリヤ:
『ロッククリスタルの川』も同じで、鉱石の色が黄金色に見えるのさ。
ちなみに、西側にある『ミルキークォーツの川』は蒼銀色だよ。
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*グローブ:
えっ、蒼銀色?
それって、『ロッククリスタルの谷』の竹の色と同じだよね?
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*マリヤ:
ああ、そうだよ。
《ヘンブレス》のトサカの色も同じだっただろう?
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*グローブ:
うん。
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*マリヤ:
それなら、明日は『ミルキークォーツの丘』の方に行ってごらんよ。
『ロッククリスタルの川』が黄金色に見えるのと同じように――
《カウカーム》のツノも、あそこにある巨石も、黄金色なんだよ。
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*グローブ:
へー。
行ってみようかな。
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*マリヤ:
行っておいで。
……ついでに、《カウカーム》のミルクを取ってきておくれよ。
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*グローブ:
うん、分かった。
行ってくるよ。
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*マリヤ:
ちょうどミルクを切らしていてね。
明日、ナギさんに頼もうと思ってたところなんだ。
……卵もミルクも、これからはお前に任せられそうだね。
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今日の遠出で少し自信がついたのか、グローブは軽く返事をした。
そしてその日の夜、グローブは夢を見た。
◇◇◇
――しゃん、しゃん、しゃん、しゃん……。
聞き覚えのある音が、どこか遠くで反響している。
気がつくとグローブは、行ったこともないはずの『アレキサンドライトの泉』のほとりに立っていた。
【緑】と【紫】に妖しく入れ替わる不思議な水面を、ただじっと見つめている。
すると水面がパッと白く光った。
眩い光の向こうに、大きな翼の影が浮かび上がる。
それが本当に見えたものなのか、それとも幻だったのか――
グローブには分からなかった。
上空を見上げると、目の前で何かが煌めく。
ヒラヒラと舞い落ちてきたのは、八色に輝く一枚の美しい羽根だった。
グローブはそっと両手を出して、それを受け止めた。
次の瞬間――
◇◇◇
ドサッ!
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*グローブ:
いててて……。
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あまりの衝撃に目が覚めると、グローブはベッドから床へと落ちていた。
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*グローブ:
夢かぁ……。
何だったんだろう……今の夢?
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少しだけ明るくなり始めた窓の外を、グローブは静かに見つめていた。
ぽつ……ぽつ……ぽつ……。




