第003話:蒼銀のトサカ
第一章:止まない雨の島
―前回のあらすじ―
グローブは、祖母のマリヤから『ロッククリスタルの谷』へ行き、《ヘンブレス》の卵を取ってくるように言われた。
幼なじみのチサトとともに『ロッククリスタルの川』を渡り、初めて川の向こう側へと足を踏み入れた。
グローブとチサトが橋を渡った頃――
自宅ではマリヤが一人、物置の奥を必死に探していた。
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*マリヤ:
たしか、この辺りに仕舞い込んでいたはずだけど……。
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やがてマリヤは、古びた一冊のノートを見つけ出した。
その表紙には、一人の男の名が記されていた。
――ジェンド。
その名前を目にした瞬間、マリヤは少し寂しげな表情を浮かべた。
それは、ある研究のノートだった。
この世界の「罪悪」を消し去り、世界に調和をもたらす《神秘のマナ》を生み出す方法。
そしてそのマナを紡ぎ出すために必要な――
『グレーダイヤモンド島』に眠る七つの素材が記されていた。
一、《ヘンブレス》の卵――
『ロッククリスタルの谷』。
二、《カウカーム》のミルク――
『ミルキークォーツの丘』。
三、《エンジェルティア》(岩塩)――
『ダイヤモンドビーチ』。
四、《トラベリー》(海藻)――
『ジェット湾』。
五、《スウィートウィート》(小麦)――
『オパールマウンテン』山頂。
六、《ハルモニアの水》――
『アレキサンドライトの泉』。
七、《エデンの実》――
『ガイアの木』。
マリヤは、並んだ文字を一つずつ指でなぞるように読み上げていく。
一通り素材を確認すると、マリヤは部屋の隅に据えられた、不思議な窯を見つめた。
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*マリヤ:
人が人を思いやる。
その優しさが人から人へと繋がり、大きな輪になる。
そしてその輪は、また誰かへと受け継がれていく。
それが世界を調和へと導く《神秘のマナ》……か。
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マリヤはそっとノートを閉じ、目を閉じた。
◇ ◇ ◇
――しゃん、しゃん、しゃん、しゃん……。
橋を渡った先にある『ロッククリスタルの谷』は、昼間だというのにまるで夜のように薄暗い。
その谷一帯には、空を突き刺すように無数の蒼銀色の竹が立ち並び、深い竹林を形作っていた。
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*チサト:
ねぇ、グローブ……。
本当にこっちで合ってる?
なんだか、どんどん暗くなってるけど?
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チサトはグローブの手を握りしめたまま、周囲をキョロキョロと見回している。
強がってはいるものの、その声は完全に震えていた。
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*グローブ:
う、うん……。
おばあちゃんが「東の果て」って言ったから、方向は合ってると思うんだけど……。
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化け物はいないと、ナギは言っていたが……。
――カサカサッ!
突然、近くの草むらから乾いた音が響いた。
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*チサト:
きゃっ!?
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*グローブ:
うわっ!?
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二人は飛び上がるように驚いた。
チサトをかばうように前に出たグローブは、低く身構え、鋭く視線を走らせた。
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*グローブ:
んっ……あれ?
ニワトリ……?
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その羽毛は神秘的な紺色に染まり、蒼銀色のトサカはランタンのように淡い光を宿していた。
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*チサト:
わぁ……きれい……。
ねぇ、グローブ。
この子、頭が光ってるよ?
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チサトは恐怖も忘れ、目を輝かせながら、不思議な雌鶏を見つめた。
グローブはハッと目を見開く。
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*グローブ:
チサト……。
たぶんこれが《ヘンブレス》だよ。
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《ヘンブレス》は二人を警戒する様子もなく、「クック、クック」と小さく鳴いた。
まるで「ようこそ、ここへ」と言うように、くるりと向きを変えて歩き出した。
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*グローブ:
チサト、あの子、呼んでるみたいだ。
ついて行こう。
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*チサト:
うん、見失わないようにしなきゃね!
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淡い光を放ちながら進む《ヘンブレス》。
そのあとを、二人は追いかけた。
やがて――
前方がだんだん明るくなってきた。
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*チサト:
うわぁ……見て、グローブ!
あっちにも、こっちにもいるよ!
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次から次へと、《ヘンブレス》たちが姿を現した。
数十の蒼銀色のトサカが、闇の中で一斉にまたたき、まるで地上の星空のように、広場を照らし出した。
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*グローブ:
す、すごい数だ……。
こんな場所が、島にあったなんて……。
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圧倒される二人の視線が、霧の向こうにぽつんと佇む、一軒の小屋を捉えた。
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*チサト:
ねぇ、あそこに小屋があるよ!
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*グローブ:
もしかすると、おばあちゃんが言ってたルアンさんの家かも。
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クック、クック。
クック、クック。
クック、クック。
無数の鳴き声が響き渡った、その時――
――ガチャリ。
小屋のドアが開いた。
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*クールな女性:
誰……?
誰か来たの?
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涼やかで落ち着いた大人の女性の声がした。
待っていたかのように《ヘンブレス》たちが、一斉にドアの方へと寄って行く。
蒼銀色の光の中から現れたのは――
長い髪のクールな女性だった。
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*チサト:
あっ、こんにちは!
チサトと言います。
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チサトが元気よく挨拶をした。
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*グローブ:
こ、こんにちは。
グローブです。
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チサトに続けて、グローブも少し緊張しながら頭を下げた。
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*クールな女性:
こんな場所に、何の用?
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*グローブ:
えっと……。
おばあちゃんのおつかいで、来たんです。
ルアンさんですか?
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*クールな女性:
ええ、そうよ。
私がルアン。
ここで、この《ヘンブレス》たちの世話をしているの。
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*グローブ:
あの……ルアンさん。
ボクたち《ヘンブレス》の卵をもらいに来たんです。
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ルアンはグローブをじっと見つめると、感情の読み取れない瞳のまま、首を横に振った。
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*ルアン:
……ダメよ。
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*グローブ:
えっ……?
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ルアンの冷たい一言に、二人は顔を見合わせた。
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*チサト:
グローブの頼み方が、まずかったんじゃない?
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*グローブ:
……頼み方……?
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そんな二人の様子を見て、ルアンの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
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*ルアン:
ふふっ……ウソ。
冗談よ。
=
その表情は、先ほどまでの冷たい印象とは打って変わって、どこか温かみに満ちていた。
=
*チサト:
えっ!?
ウソ?
冗談って、卵を分けてくれるんですか?
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*ルアン:
ええ。
ただし、私の頼みを聞いてくれたら、ね。
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ルアンはそう言うと、小屋の脇に積まれた、使い古されたツタの巣を指さした。
=
*ルアン:
あそこにある壊れた巣を、きれいに編み直してくれたら、ご褒美に卵をあげるわ。
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*チサト:
ええーっ!?
いくらグローブが器用でも、あんなにボロボロなのは、絶対に無理だよ……!
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*グローブ:
大丈夫だよ、チサト。
ボクに任せて。
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グローブは壊れたツタの巣の前にしゃがみ込み、そっと手に取った。
壊れた巣をじっと見つめる。
次の瞬間――
グローブの表情が変わった。
瞳の奥に、完成した巣の姿が浮かび上がる。
一本、また一本とツタを編み込んでいく。
崩れていた巣は、少しずつ本来の姿を取り戻していった。
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*ルアン:
ふーん。
なかなかやるわね。
=
グローブが最後のツタを結び合わせた。
そして――
不思議な波長を巣に記憶させた。
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*グローブ:
ふぅ……。
できた。
ルアンさん、これでどうですか?
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ルアンは完成した巣を見て、満足そうに微笑んだ。
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*ルアン:
ええ、素晴らしいわ。
まさかこれほど見事に直してしまうなんて……。
本当に驚いたわ。
……約束の卵はこっちよ。
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そう言うとルアンは、小屋の奥の部屋を案内してくれた。
そこには純白の《ヘンブレス》の卵が綺麗に並べられていた。
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*チサト:
うわー、すごい!
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*グローブ:
でも……この卵……。
家でも見たことあるような気がするけど……。
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*ルアン:
まあ、そうでしょうね。
この島の人たちは、ここまでこの卵を取りに来てるのよ。
本当はタダであげてるの。
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*グローブ:
えっ!?
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*ルアン:
ふふっ、あなたが器用そうだったから。
巣を直してもらおうと思って……。
ごめんなさいね。
だから今日は、好きなだけ、持っていっていいわよ。
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二人が慎重に卵をカゴに詰めていると――
ルアンがぽつりと呟いた。
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*ルアン:
……あれ以来、ずっと雨が止まないから……。
もともと薄暗いこの場所が、本当に暗くなったのよね。
=
その言葉に、チサトが敏感に反応して、顔を上げた。
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*チサト:
あれ以来?
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*ルアン:
ああ……なんでもないわ。
ただの独り言。
……それより、日が落ちると本当に何も見えなくなるのよ。
だから暗くなる前に、早く帰った方がいいわ。
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どこか話を打ち切るような調子で、ルアンは帰り道を指さした。
卵を詰め終えた二人は、ルアンに感謝を伝えて、小屋を後にした。
やがて二人の姿は深い霧の向こうへと消えていった。
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*ルアン:
……あの器用さは……。
やっぱり。
=
一羽の《ヘンブレス》がルアンの肩へ飛んできた。
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*ルアン:
マリヤ……。
あの子なら、大丈夫。
あれだけ優しい手を持つ子なら……。
きっと。
=
クック、クック。




