第002話:川の向こう側
第一章:止まない雨の島
―前回のあらすじ―
グローブは16歳の誕生日に、祖母マリヤから一族に代々伝わる《虹のオーブ》を手渡された。
その瞬間、不思議な光景を目にし、謎の声から「オパールマウンテンの山頂へ行け」と告げられた。
翌朝――
食卓についたグローブは、黙り込んだまま、湯気の立つスープをじっと眺めていた。
=
*マリヤ:
おや……?
グローブ、どうしたんだい?
具合でも悪いのかい?
=
*グローブ:
あの……おばあちゃん。
昨日の『オパールマウンテン』のことなんだけど……。
行きたいんだ。
あの不思議な感覚は――
《レインボーフェニックス》のお告げだと思うんだ。
=
マリヤはグローブを真剣に見つめた。
=
*マリヤ:
……グローブ。
《レインボーフェニックス》の声は、選ばれた者にしか聞こえない……。
だから、《虹のオーブ》に触れた時に聞こえたんだろう。
……でもね……。
お前はまだ、川の向こう側にさえ、行ったことないだろう?
=
痛いところを突かれ、グローブは思わず目をそらしてしまった。
=
*マリヤ:
……今のお前には『オパールマウンテン』は無理だよ。
=
*グローブ:
でも……!
どうしても、行かなきゃいけない――
そんな気がするんだ。
=
*マリヤ:
ああ、そうだろうね。
ただ、今のお前を行かせるわけにはいかないよ。
=
そう言ったあと、マリヤは少しの間、考えるように黙り込んだ。
そして――
何かを思いついたように、小さな笑みを浮かべた。
=
*マリヤ:
じゃあ、こういうのはどうだい。
『ロッククリスタルの谷』で《ヘンブレス》の卵を、取ってくるっていうのは?
=
*グローブ:
えっ、川の向こうに?
=
*マリヤ:
そうだよ。
東の果てに「ルアン」って人がいるから、もらってきておくれ。
……それができなきゃ『オパールマウンテン』なんて、とても無理だよ。
=
*グローブ:
……分かった。
《ヘンブレス》の卵だね。
=
朝食を終えたグローブが外に出ると――
向かいの『ダイヤモンドビーチ』には、ナギとナミがいた。
=
*ナギ:
よう、おはようさん。
ん、どうした?
今日は仕事しねえのか?
=
*ナミ:
おはよう、グローブ。
なんだか今日は、いつもより元気がなさそうに見えるけど……。
=
*グローブ:
あっ……二人とも、おはよう。
おばあちゃんから、ちょっとしたおつかいを頼まれちゃって……。
だから今日は、仕事、手伝えないんだ。
=
*ナギ:
ん、おつかい?
村長がお前に頼み事なんて、珍しいじゃねぇか。
=
*グローブ:
うん……。
『ロッククリスタルの谷』に行かなきゃいけないんだ。
=
*ナミ:
じゃあ、《ヘンブレス》の卵だね。
アンタ、あそこまで行ったことあるのかい?
=
ナミの問いかけに、グローブは黙って首を横に振った。
=
*ナギ:
まあ、心配すんな、グローブ。
この島には化け物とか、いねえからな。
=
*ナミ:
……でも、気をつけて行くんだよ。
=
*グローブ:
うん。
=
グローブは小さな不安を抱えたまま、東へと向かっていた。
すると――
=
*チサト:
おーい、グローブ!
待ってよー!
=
振り返ると、チサトが小走りで駆けてきていた。
=
*チサト:
ちょっと、お母さんから聞いたよ。
『ロッククリスタルの谷』に行くんだって?
=
*グローブ:
うん。
=
*チサト:
あそこ……。
昼間でも、けっこう暗いらしいよ。
一人で大丈夫?
=
*グローブ:
えっ!?
うっ……。
=
*チサト:
ほら、怖いんでしょ?
無理しないで。
私が一緒に行ってあげるよ。
ねっ!?
=
チサトはそう言うと、グローブの隣に並んで歩き出した。
グローブは少し安心したように、息を吐いた。
それから二人は、『ダイヤの港』を横目に、道なりに歩みを進めた。
港には、『ジュエリオ島』との間を往復するための大きな連絡船が停泊していた。
=
*チサト:
ねぇ、グローブ。
『ジュエリオ島』の人が、この島に来ない理由って、知ってる?
=
*グローブ:
うん。
この止まない雨のせいで――
「呪われた島」って、怖がられてるからでしょ。
=
*チサト:
そうそう。
こっちの連絡船が、行ったり来たりしてるだけなんだって。
雨は降ってるけど、呪いなんてないのにね。
=
だからグローブは、島の外から来た人をまだ見たことがなかった。
――しゃん、しゃん、しゃん、しゃん……。
しばらく歩いていると――
耳慣れない不思議な音が響いてきた。
=
*チサト:
あ、この音……。
もうすぐ『ロッククリスタルの川』だ。
不思議だよね……。
海に雨が落ちてもこんな音はしないのに……。
=
雨粒が川面を叩くたび、まるでガラスの鈴を振ったような、涼やかな音が響いていた。
だが、橋の向こう側へ視線を移すと――
薄暗く、不気味な雰囲気を漂わせていた。
=
*チサト:
ねぇ、グローブ……。
この橋を渡ったら、もう谷だよね。
=
*グローブ:
うん。
=
*チサト:
ちょっと、怖くなってきちゃったかも……。
=
グローブはチサトの顔を覗き込んだ。
=
*チサト:
でも……ちょっとだけ……。
ほんのちょっとだけだよ!
=
言葉では強がっているものの、チサトの顔は分かりやすく引きつっていた。
=
*チサト:
ねぇ、グローブ?
ここからは……手を繋いで行こっ。
ねっ……。
=
グローブは無言で小さく頷いて、そっと手を差し出した。
チサトはその手を包み込むように、強く握りしめた。
=
*チサト:
ふふっ。
グローブの手って、けっこう大きいんだね。
=
グローブがチサトの顔を見ると、彼女は照れ隠しのように橋の向こう側に視線を向けた。
=
*チサト:
……じゃあ、「せーの!」で、一気に走って渡るよ。
=
グローブは、握られた手をそっと握り返し、小さく頷いた。
=
*チサト:
せーの!
=
二人は一気に橋を駆け抜けた。
今日の雨は、まるで二人の背中をそっと押してくれているようだった。
――しゃん、しゃん、しゃん、しゃん……。
しかし、橋の向こう側で何かが光ったことに、二人は気がついていなかった。
◇ ◇ ◇
―レインボーフェニックス―
『グレーダイヤモンド島』に伝わる神獣。
世界を創造したとされる、神獣の一体。
◇ ◇ ◇




