第001話:虹のオーブ
ぽつ……ぽつ……ぽつ……。
窓の外は今日も雨だ。
グローブは窓の外に広がる灰色の空を、静かに眺めていた。
◇
*グローブ:
単調な雨の音は嫌いじゃない……。
どちらかと言えば……好きだ。
自分でも理由は分からないけど……。
ただ、この音を聞いていると不思議と心が落ち着くんだ。
◇
グローブは幼い頃から、雨音を聞きながら壊れたカメラや時計を分解しては、また元通りに組み直すのが好きだった。
=
*マリヤ:
ちょっと、グローブ、グローブ!
=
背後から聞こえてきたのは、祖母であり、この島の村長でもある、マリヤの優しい声だった。
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*マリヤ:
朝からまた、雨を見てたのかい?
そろそろ出かける支度、しなさいよ。
=
グローブは頷くと、レインコートに袖を通した。
◇
*グローブ:
ボクは物心ついた頃から、ずっと祖母と二人で暮らしていて――
両親は、ボクが6歳の頃に亡くなったと聞いている。
それ以前の記憶は、まるで切り取られたように、まったくないんだ。
そしてなぜか、両親の詳しい話を聞こうとすると、いつもはぐらかされる。
だからボクは、両親の名前すら知らない。
◇
=
*グローブ:
じゃあ、いってきます。
=
*マリヤ:
いってらっしゃい。
=
グローブが家を出ると、その向かい側には『ダイヤモンドビーチ』が広がっていた。
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*ナギ:
よう、グローブ!
おはようさん!
=
声をかけてきたのは、ベテラン漁師のナギだ。
=
*ナミ:
おはよう、グローブ。
今日もありがとうね。
最近、あんたが手伝ってくれるようになったから、本当に助かるわ。
=
ナギの隣で、網を繕っていた妻のナミも、穏やかに目を細めた。
グローブは挨拶を済ませると、網を手に取り、黙々と作業を始めた。
あっという間に網のほつれを繕っていく。
そして最後に、指先でそっと結び目をなぞった。
その瞬間――
淡い光が網の表面を走った。
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*ナギ:
おいおい……すげぇな、お前は。
なんで簡単にそんなことができるんだ?
=
*ナミ:
本当……。
私たちがやるより、何倍も速いし……。
それに軽くて、頑丈になってるのよね。
=
*グローブ:
えっ?
言われた通りに直してるだけだけど……。
=
*ナギ:
俺たちもお前と同じグレーの髪だから、特別な波長を使えるはずなんだけど……。
全然うまくいかねえんだよな。
=
*ナミ:
そうそう。
それをグローブは、無意識でやってしまうんだもの。
=
グローブが繕った網は、波長の力によって、魚も傷つけにくくなっていた。
それからしばらくすると、パタパタと小走りの足音が近づいてきた。
=
*チサト:
おはよう、グローブ!
お父さん、お母さん、お弁当、持ってきたよ。
=
元気な声を響かせながら駆けてきたのは、幼馴染のチサトだ。
グローブは片手を軽く上げて応えた。
=
*ナギ:
おう、ありがとよ!
=
*ナミ:
チサト、いつも助かるわ。
=
*チサト:
ちょっと足りないものがあったから、いつもより遅くなっちゃった。
ごめん。
=
*ナギ:
大丈夫だよ。
まだ休憩には早いからな!
=
*ナミ:
そうね。
今やってるところが終わってから、お昼にしましょうね。
=
チサトはいつも、みんなの昼食を用意してくれている。
ようやく一区切りがついた頃――
ナギが大きく伸びをした。
=
*ナギ:
よーし、そろそろ飯にするか!
=
*ナミ:
そうね、もうお腹ペコペコだよ。
=
*チサト:
グローブ、お疲れ様。
向こうで一緒に食べよっ!
=
二人は船小屋まで移動して、濡れたレインコートを脱いだ。
=
*チサト:
たくさん作ってきたんだから、いっぱい食べてよ。
=
*グローブ:
うん。
……本当に今日はたくさんだね。
じゃあ、いただきまーす!
=
グローブは勢いよく、おにぎりにかぶりついた。
口いっぱいに広がる優しい味に、自然と頬が緩んだ。
=
*グローブ:
うまっ!
チサトのお弁当、本当に美味しいよ。
それに「シャキーン」って頭が冴える……。
なんで?
=
そんなグローブを見て、チサトは嬉しそうに胸を張った。
=
*チサト:
えへへ、ありがと。
だって、隠し味があるからね。
=
*グローブ:
えっ、隠し味って?
=
*チサト:
それは、秘密。
内緒だよーだ。
=
*グローブ:
えーっ、教えてよ。
=
*チサト:
それより、グローブ!
今日はあなたの誕生日でしょ。
=
*グローブ:
あっ……。
=
*チサト:
「あ」って、あなた、まさか自分の誕生日、忘れてたんじゃない?
=
二人は顔を見合わせて、いつものように笑った。
そして昼休みも終わり――
気づけば、空は夕暮れの淡い灰色へと染まっていた。
=
*ナギ:
グローブ、お疲れさん。
=
*ナミ:
ありがとうね。
本当に助かったわ。
=
グローブは挨拶をして、自宅へと帰った。
=
*グローブ:
ただいま、おばあちゃん。
=
*マリヤ:
おかえり、グローブ。
お疲れ様。
=
*グローブ:
おばあちゃん、今日、ボクの誕生日だったんだよ。
覚えてた?
ボクはチサトに言われるまで、忘れてたんだ。
=
*マリヤ:
ええ、もちろん、覚えてたよ。
本当に大きくなったね……。
おめでとう。
16歳になったお前に、渡したいものがあるんだ。
=
マリヤは、長年首から下げていた宝珠の首飾りを静かに外した。
=
*マリヤ:
これはね、《虹のオーブ》というんだ。
=
*グローブ:
それって、おばあちゃんがいつも身につけてたペンダントだよね。
どうしてボクに?
=
*マリヤ:
うちが代々、この『グレーダイヤモンド島』を治める家系だってことは、知ってるね。
=
*グローブ:
うん。
おばあちゃんが村長なのも、その理由だよね。
=
*マリヤ:
ああ、その通りだよ。
そして、この《虹のオーブ》が――
次の後継者を選ぶんだ。
……触れれば、分かるよ。
=
グローブは戸惑いながらも頷き、それを両手で受け取った。
その瞬間――
《虹のオーブ》が、心臓の鼓動のように一度だけ温かく脈打った。
次の瞬間――
グローブの意識は空高く舞い上がった。
◇◇◇
島の北側にそびえる『オパールマウンテン』の山頂より、さらに遥か上空。
まるで、本当にそこにいるかのような、不思議な感覚に包まれた。
=
*グローブ:
何だろう、この感覚……。
どこかで見たことあるような気がする。
=
気がつくと、眼下には島と海、そして南北へと広がる大きな大地までもが見えていた。
そして視界の先に、巨大な光の文字が浮かび上がった。
=
*グローブ:
……【G】……?
=
その時――
どこからともなく声が響いた。
=
*???:
行きなさい……。
『オパールマウンテン』の山頂へ。
=
*グローブ:
えっ……?
=
その直後――
景色が反転し、グローブは真っ逆さまに落ちていった。
=
*グローブ:
うわぁぁぁーーーっ!!!
=
◇◇◇
激しい浮遊感のあと、グローブの意識はハッと現実へと引き戻された。
=
*マリヤ:
……グローブ、グローブ!
大丈夫かい?
=
グローブは、握りしめていた手をそっと開き、《虹のオーブ》に視線を移した。
=
*グローブ:
えっと……おばあちゃん。
ボク……。
気づいたら、『オパールマウンテン』よりずっと高い場所から世界を見下ろしていたんだ。
……《虹のオーブ》を受け取った瞬間、そんな感じがした。
=
*マリヤ:
……えっ!?
=
*グローブ:
あとは……【G】……?
=
*マリヤ:
……ジー?
=
*グローブ:
ええっと……。
ううん、よく分かんない。
ただ……。
『オパールマウンテン』の山頂へ行けって声が聞こえたよ。
=
マリヤはそれを聞くと目を見開いた。
何かを言いかけたが、やがて静かに息を吐いた。
=
*マリヤ:
……そうかい。
《虹のオーブ》は、お前を選んだみたいだね。
=
*グローブ:
ボクを……?
=
*マリヤ:
ああ。
だから、その《虹のオーブ》は、お前が身につけておきなさい。
=
*グローブ:
うん……。
=
グローブは《虹のオーブ》を首にかけた。
=
*マリヤ:
似合うじゃない。
……焦らなくていい。
これから、少しずつ覚えていけばいいよ。
=
*グローブ:
分かった。
=
こうしてグローブの16歳の誕生日は、静かに終わろうとしていた。
窓の外の雨は、いつもより少しだけ優しく聞こえる。
まるで――
何かの始まりを祝福するように。
ぽつ……ぽつ……ぽつ……。
そしてグローブが深い眠りに落ちたあと――
その胸元の《虹のオーブ》は、静かに淡い八色の光を瞬かせ始めた。




