第035話:安心ほっとケーキ
第二章:自由の国ルビスタン
―前回のあらすじ―
ロズドンにゴミ問題の解決を訴えたグローブだったが、物の消費によって成り立つ街の現実を突きつけられ、自分の理想の難しさを知った。
複雑な思いを抱えながらも「滞在許可証」を手にした彼は、『天球の灯台』を後にした。
グローブはロズドンに言われた言葉が頭から離れず、うつむいたまま歩いていた。
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*ダン:
おい、グローブ!
いつまでも落ち込んでんじゃねえよ。
お前の考えが、間違ってるってわけじゃねえから……。
だけどよ……。
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ダンがグローブの肩を叩こうとした時――
雑踏の隙間から、小さな影が猛スピードで飛び出してきた。
――タッ!!
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*グローブ:
あっ……!?
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すれ違いざま、グローブの手にあった「滞在許可証」が、一瞬でひったくられた。
驚いて顔を上げると、自分よりも小さな男の子が、「滞在許可証」を握りしめて、路地の奥へと走っていくのが見えた。
その少年の髪は、ブラウンだった。
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*グローブ:
あっ、ちょっ……!
待って!
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*ダン:
チッ、やられたか。
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グローブは少年の影を追いかけた。
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*グローブ:
ブラウンの髪の子供なのに……。
なぜ?
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路地の奥へとたどり着いたグローブの目に飛び込んできたのは――
表の華やかさとは別のものだった。
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*グローブ:
……ここにいる人たちって、いったい……。
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そこは、雨を避けるための粗末な庇があるだけの場所だった。
その中にグローブの「滞在許可証」を、胸に抱えている少年がいた。
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*少年:
何だよ、お前。
何しに来たんだ!?
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*グローブ:
それ、ボクの「滞在許可証」だよね?
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*少年:
うるさい!
こっちに来んな!
帰れよ。
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*グローブ:
何でこんなことするの?
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*少年:
この「滞在許可証」を売れば、パンが買えるんだよ。
みんなのパンが!
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少年の言葉に、グローブは改めて周囲を見渡した。
身につけている服は綺麗なものばかりだけど、みんな痩せ細っていた。
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*少年:
服やカバンなんかは、ゴミ捨て場にいくらでもあるけど……。
だけど……。
食い物は腐った残飯しか、ねえんだよ!
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その時、グローブはロズドンのことを思い出していた。
この街は、物を大切にしないけど――
その代わりに不幸な人がいないのだと思っていた。
しかし――
目の前にいる人たちは、お腹を空かせて、人の物を盗んだ。
物を大切にしないうえに、不幸な人もいる――
グローブは、また分からなくなっていた。
その時――
――ガタガタガタガタ。
黒い煙を上げている壊れかけの調理器具が、グローブの目に飛び込んできた。
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*グローブ:
ねぇ、あれ壊れかけてるよ。
修理しないと……。
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*少年:
修理……修理ってなんだよ?
そんなことできるのか?
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*グローブ:
ちょっとだけ、借りていい?
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*少年:
ちょっと、勝手に触んなって……。
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少年の制止よりも早く、グローブの指先が動いた。
流れるような動きで、ウエストバッグから工具を取り出し、瞬く間に修理していく。
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*グローブ:
ふぅ。
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あっという間の出来事だった。
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*少年:
な、なんなんだよ、お前……!
何したんだよ。
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調理器具は、静かな駆動音を響かせながら動き始めた。
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*少年:
動いてるのか?
これ?
お前……壊したんじゃないのか?
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少年が調理器具に触れると――
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*少年:
熱ーっ……あっちー。
触ったら、ちょっと火傷しちゃったよ。
でも、ちゃんと動いてる……。
しかも……熱くなるのも、前より早くなってるぞ。
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周りにいた大人たちからも、信じられないものを見るような驚きのどよめきが湧き起こった。
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*グローブ:
これが「修理」だよ。
こうやって仕組みを覚えれば、次からは自分たちで直して、ずっと使い続けられるんだ。
ちょっと見てて、コツを教えるから。
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グローブはウエストバッグから一番シンプルなレンチを一本取り出した。
そしてそれを、少年の手に握らせた。
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*グローブ:
ここが緩んだら、こうやって締めるんだ。
壊れたら、また直せばいいんだよ。
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*少年:
壊れたら……また、直せばいい……?
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買えないからと諦めて、飢えて、盗むしかなかった少年。
少年は握らされたレンチを見つめた。
その瞳には、先ほどまでなかった光が宿っていた。
グローブは優しく微笑むと、ウエストバッグの中から、マリヤが持たせてくれた《安心ほっとケーキ》を取り出した。
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*グローブ:
これ、ボクのおばあちゃんが作ったパンケーキなんだ。
みんなで分けて食べて。
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グローブは《安心ほっとケーキ》を少年の手にそっと乗せた。
その瞬間――
少年は大粒の涙をこぼし始めた。
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*少年:
うぅ……う、うわぁぁぁんっ!
ありがとう……!
ご、ごめんなさい。
本当は泥棒なんて、したくないんだ。
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少年は涙を拭いながら、胸に抱きしめていた「滞在許可証」を、グローブへと返した。
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*ダン:
ふっ……まったく、大した小僧だ。
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遅れてたどり着いたダンが、渋い笑みを浮かべた。
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*グローブ:
あっ、ダンさん……。
ボク、ロズドンさんの話を聞いて――
物を大量に消費すれば、不幸な人なんていない街だと思っていました。
でも、それは違いました。
だから、ちょっといいですか……。
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