第036話:はじまりの旗
第二章:自由の国ルビスタン
―前回のあらすじ―
盗まれた「滞在許可証」を追い、路地裏で飢える人々を目にしたグローブ。
壊れた調理器具を直し、少年に一本のレンチとパンケーキを手渡した。
グローブとダンは、路地を出たところにいた。
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*グローブ:
ダンさん……ボク、いいこと思いついたんです。
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*ダン:
……いいこと?
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*グローブ:
うん。
ここにいる人たちに、二つのことを始めてもらいたいと思っています。
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*ダン:
二つのことだと?
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*グローブ:
はい……。
一つは「リサイクルショップ」。
表通りに「壊れたものは捨てずに売れます!」って書いた大きな旗を立てるんだ。
みんなが捨てる前に、ここに持ってきてくれれば、街のゴミも減らせるはずだよ。
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*ダン:
ほう。
捨てる前のヤツを呼び込んで、その場で買い取るサービスか。
……それで、もう一つは?
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*グローブ:
もう一つは、《モーレツパスタ》の屋台をやろうと思うんだ。
さっき直した調理器具を使えば、美味しいパスタをたくさん作れるから……。
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*ダン:
うーん、なるほどな……。
気持ちは分かるがな、グローブ。
買い取る金や、パスタの麺や材料を買う金はどこから出すんだ?
ここにいる連中は、一銭も持ってねえぞ。
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*グローブ:
それなら、大丈夫。
島を出る時におばあちゃんから《トラベリーチョコ》を持たせてもらったから……。
これ、お金になるんでしょ?
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グローブがウエストバッグから《トラベリーチョコ》を取り出した。
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*ダン:
おいおい、マジかよ。
お前……懐かしいもん、持ってんじゃねえか……。
でもお前、これの価値、知ってんのか?
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*グローブ:
えっと……実はあまり分かってないんだ。
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ダンは苦笑いした。
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*ダン:
まあ……これだけありゃあ、買取費用も材料代も十分すぎるくらいだ。
だが、そいつは今じゃなかなか手に入らないもんだぜ。
本当にいいのか?
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*グローブ:
うん。
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グローブは即答した。
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*ダン:
そうか……分かったよ。
それなら、デカい旗に使う布と工具も、ぜんぶ揃えてきてやるよ。
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ダンは頼もしく笑うと、大通りへと向かった。
グローブは路地裏へ戻り、少年や大人たちを集めた。
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*グローブ:
みんな……ちょっといい!
これから「リサイクルショップ」と「パスタ屋さん」を始めます。
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*少年:
えーっ……!?
俺たちにそんなことできるの?
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突然のグローブの言葉に、周りにいた大人たちも、不安そうに顔を見合わせた。
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*大人の男性:
……修理は確かに凄かった。
でも商売なんて、俺たちにできるのか?
もし誰も来なかったら……。
=
*大人の女性:
また失敗して、嫌な気持ちになるだけじゃないの……?
=
*グローブ:
最初からうまくいくかは、ボクにも分かりません。
でも壊れたものと同じで、失敗しても直せばいいと思うんです。
諦めて何もしなければ、明日も今日と同じです。
盗みを続けるしかない毎日になってしまいます。
だからボクは、泥棒なんてしなくても、自分たちの力でパンを食べられる仕組みを作りたいんです。
=
少年は手の中のレンチを強く握りしめた。
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*少年:
……俺、やりたい!
自分たちの力でパンを食べられるようになりたい……。
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少年の叫びを聞いた大人たちも、静かに頷いた。
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*大人の男性:
……アイツの言う通りだな。
俺は失敗することばかり考えるようになってたのかもな。
……やってみるか。
=
*大人の女性:
そうよね。
失敗しても、またやり直せばいいのよね……。
私は失敗することが恥だと思って、何も始められなかったのかもしれない。
弱気じゃダメよね。
……私も変わらなきゃ……。
=
――ガラガラガラガラ……。
=
*ダン:
よう!
みんなもやるって、言ってくれたか?
どうだ、グローブ?
=
ダンが台車に大量の小麦粉やミルク、卵、そして真っ白な大布を二枚積んで戻ってきた。
=
*グローブ:
ダンさん、ありがとう!
みんなもダンさんの帰りを待ってたんだよ。
さっそく準備をしよう!
=
それを合図に、人々は一斉に動き始めた。
グローブが少年の手を取って屋台を組み立て、大人たちは真っ白な大布に、大きく文字を書き込んだ。
それぞれが今、自分にできることを一生懸命にやっていた。
――壊れたものは捨てずに売れます!
――絶品!モーレツパスタ!
スラムの人々の願いを乗せた旗が、ついに完成した。
=
*グローブ:
よし、できた!
明日からお客さんを迎えるんだから、みんなで身だしなみを整えよう。
まずはみんな、お風呂に入りに行くよ!
=
そして翌朝――
みんなの手で作り上げた大きな旗が、スラムの入口に誇らしげに掲げられていた。
《モーレツパスタ》の香ばしい匂いが、周辺に広がり始めた。
しかし――
開店してしばらく経っても、客は一人も来なかった。
少年は不安そうに通りを見つめていた。
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*少年:
……やっぱり、誰も来ないのかな。
=
*グローブ:
よし……呼び込み、しよう。
暗い店には、誰も来ないよ。
=
グローブと少年は、慣れないながらも、大きな声でお店の紹介をした。
やがて――
グローブたちの想いを込めた声と、パスタの香ばしい匂いに誘われた客が、一人近づいてきた。
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*客:
いい匂いね……。
=
*大人の男性:
い、いらっしゃい!
=
*客:
……モーレツ……パスタ?
面白い名前ね。
一つ頂ける?
=
*大人の女性:
も、もちろんです!
ありがとうございます!
=
パスタを注文した客が、リサイクルの旗に視線を移した。
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*客:
んっ……壊れたものは捨てずに売れます……?
壊れた物を買ってくれるの?
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*少年:
は、はい……!
=
*客:
今度、持ってこようかしら……。
=
客はそう言うと、モーレツパスタを手に、その場を後にした。
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*少年:
今の人……。
本当に来てくれるかな……。
=
*グローブ:
うん。
大丈夫、必ず来るよ。
捨てるより、売る方がいいからね。
=
*少年:
俺……。
本当に、ちゃんと直せるかな……。
=
*グローブ:
うん。
大丈夫、ボクが教えるから。
自信をもって!
=
*少年:
うん!
=
*グローブ:
でも、よかった……。
お客さん、来てくれて。
=
グローブは、スラムの入口に掲げられた二つの旗を見上げた。
=
*グローブ:
よし……。
ここからだね。
=
二つの旗が、青空の下で大きく揺れていた。




