第029話:ニヒルシケーダ
過去・序章:メロディア島の遺産
―前回のあらすじ―
マリヤは《漆黒の苦無》に《旋風のトッカータ》、《虹の笛》に《昇華のプレリュード》を宿した。
そしてマリヤは、塔の出口を塞いでいたスロースを《旋風のトッカータ》で撃破した。
『スギライトの塔』を出発したジェンドたちの身体に、すぐに異変が現れた。
=
*ダン:
なんだ……?
足が、鉛みたいに重えぞ……。
=
*レイ:
全身の力が抜けていくようです……。
これは、ただの疲れじゃない……。
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*ジェンド:
確かに……。
気づかないうちに、スロースの何か悪い魔法でもかけられたのかも……。
=
*マリヤ:
私は何ともないけど……。
=
*ジェンド:
たぶん、だけど……。
マリヤは秘技を放つまで、スロースから少し離れた場所にいたから、影響を受けなかったんじゃないかな……。
それに、もしかすると……《虹のオーブ》が、マリヤを守ってくれたのかもしれないね。
=
マリヤの《虹のオーブ》が、少し輝いたように見えた。
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*マリヤ:
そうね……みんな、ごめんね。
ありがとう。
=
*ダン:
だけどよ。
このままじゃ、『クンツァイトの都』まで、たどり着けねえよ。
=
*レイ:
そうですよね。
《セブンパス》も確実に切れてしまいます。
=
マリヤは苦しそうにしている三人を見つめ、《虹のオーブ》を握りしめた。
その時――
塔の最上階で響いたあの神秘的な声がよみがえった。
=
*マリヤ:
そうだ……。
《昇華のプレリュード》だわ!
=
マリヤは《虹の笛》を、そっと口元へと寄せた。
それから、やさしく息を吹き込んだ。
荒野に美しい旋律が響き渡る。
やわらかな八色の光が三人を包み込み、弱った身体を癒やしていった。
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*ダン:
おお……っ!?
身体が、すげえ軽くなったぞ!
=
*レイ:
倦怠感が完全に消え去りました……。
=
*ジェンド:
ありがとう、マリヤ。
=
その時――
――だらだら……だらだら……だらだら……。
荒野に奇妙な音が響いた。
=
*ダン:
な、なんだぁ!?
この音は!
=
*ジェンド:
あれっ!?
魔物が、こんな近くまで……。
《セブンパス》の効果がなくなってる……?
なんで?
=
*マリヤ:
たぶん……《昇華のプレリュード》のせいだわ。
あの音色は、傷ついた身体を癒やすこともできるけど――
反発する力を共鳴させるものだったでしょ。
もしかすると、結界の力と干渉してしまったのね……。
=
*ジェンド:
たしかに……そうだったね。
だから、《セブンパス》の魔物を遠ざける力が、うまく働かなくなったのか……。
=
*レイ:
あれは、ニヒルシケーダ……!
ヤツらに触れられると、精神が虚無と怠惰に引きずり込まれてしまいますよ!
人間の気力を栄養にするため、くっついてくるんです。
=
――だらだら……だらだら……だらだら……。
=
*ニヒルシケーダ:
努力なんて無駄、無駄ぁ……。
頑張ったって意味ないよぉ。
どうせ惨めになるだけなんだから、何もしないでダラダラするのが一番だって……。
=
その時――
一匹のニヒルシケーダがジェンドの背中にくっついた。
=
*ジェンド:
う……。
=
ジェンドの目から光が消え、虚ろになった。
=
*ジェンド:
ははは……。
なんだか、何もかもが、どうでもよくなってきたよ……。
ふあぁーあ、ここで寝ちゃお……。
=
*ダン:
おい、ジェンド……!?
どうした?
しっかりしろ!
=
*レイ:
いけません!
精神を「罪悪」に呑み込まれています。
=
*マリヤ:
私たちも、背中に止まられないようにしないと……。
=
三人は互いの背中を守るように、トライアングルの陣形を組んだ。
=
*ダン:
チッ、次から次に湧いてきやがって!
俺様の仲間に何さらしてくれてんだよ!
コラァッ!!
=
ダンが全身の力を込めて、怒声を轟かせた。
――ピタッ。
=
*ニヒルシケーダ:
うわっ……。
なに、この人……。
嫌いだな……。
暑苦しい……。
=
嫌悪感を露わにしたニヒルシケーダたちは、ダンの暑苦しい気迫に圧倒されたように、ヨロヨロと後退した。
ジェンドに止まっていたニヒルシケーダも、その声に圧倒され、飛び去っていった。
=
*レイ:
ダン……今の声、効いてますよ!
ヤツらは強い気迫に、暑苦しいほどの情熱、そういったものが苦手なようです!
=
*ダン:
へへっ……。
じゃあ、俺様とは正反対のヤツらってことだな。
ダラダラしてねえで、シャキッとせんかい!
オラァッ!!
=
*ニヒルシケーダ:
ムリムリムリ……。
なにアイツ、気持ちわるぅ。
あれは、絶対に説教とかしてくるタイプだよ。
絶対……。
ああいうのとは、関わらないのが一番だって……。
さよなら……。
=
群れをなしていたニヒルシケーダたちは、ダンの暑苦しい気迫にドン引きして、飛び去っていった。
=
*ダン:
へへっ……。
逃げていきやがったぜ!
=
*レイ:
ジェンド……大丈夫ですか?
=
*ジェンド:
うん、でも……。
急に何もかも嫌になってしまって……ごめん。
気合が足りないのかも……。
みんな、ごめんね。
=
*マリヤ:
ううん、無事でよかったわ。
ダンみたいに、いつも元気な人なんて、そんなにいないから……。
ジェンドは普通よ。
=
*ダン:
だけどよ。
これで、この辺の魔物は《セブンパス》がなくても、もう怖くねえな。
=
*レイ:
そんなこともないですよ、ダン。
寝てるときに、あのニヒルシケーダに襲われたら、あなたもやる気を失くしてしまいますよ。
=
*ダン:
たしかに、そうだな……。
それじゃあ、《セブンパス》が切れないうちに早く街に戻るぞ!
=
*ジェンド:
うん、急ごう!
=
四人は再び、『クンツァイトの都』へと向けて歩き出した。
しばらくすると、《セブンパス》の効果も元に戻った。
その後は魔物に襲われることなく、無事に街へと帰り着いた。
=
*ジェンド:
ふぅーっ。
往復100キロの旅は、けっこう大変だったね。
=
*レイ:
ええ、7日間で帰ってこられて、よかったです。
=
*ダン:
今日は、ちゃんとした宿に泊まろうぜ。
=
*マリヤ:
そうね。
お風呂にも入りたいし……。
=
*ジェンド:
じゃあ、今日はゆっくり休んで。
明日、次の街に出発しよう!
=
こうして、最初の神器、《虹の笛》を巡る過酷な旅は幕を閉じた。
◇◇◇
過去・序章
メロディア島の遺産
――完
◇◇◇




