第022話:旅立ちの日
第一章:止まない雨の島
―前回のあらすじ―
『オパールマウンテン』で授かった使命を打ち明け、『グレーダイヤモンド島』から旅立つ決意を固めたグローブ。
《神秘のマナ》の残りの素材で作ったマリヤ特製のパスタに、みんな笑顔になった。
マリヤの創作料理、《モーレツパスタ》をみんなで食べ終えたあと、チサトがグローブに声をかけた。
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*チサト:
ねぇ、グローブ……。
私も、一緒に行けるのかな?
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*ナギ:
チサトも行きたいのか?
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*ナミ:
ずっと、グローブと一緒に育ってきたんだもんねぇ。
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家族の視線が集まる中、グローブは優しい目をチサトに向け、静かに首を横に振った。
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*グローブ:
ごめん、チサト。
ボクは、一人で行くよ。
あっちには悪い人もいるって、おばあちゃんが言ってたでしょ。
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*チサト:
でも……!
私も、グローブの力になりたいの!
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*グローブ:
うん、ありがとう……。
……だけど、チサトも言ってたよね。
魔物もいるって。
そんな危ない場所に、チサトを連れて行きたくないんだ。
もし、チサトに何かあったら、ボクはきっと後悔するから……。
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チサトの瞳には、みるみる涙が浮かんでいった。
グローブは《コードリンク》を握りしめた。
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*グローブ:
きっと、この役目はボク一人でやらなきゃいけないんだ。
それに……もし、チサトがいなくなったら、ナギさんとナミさんの昼食はどうするの?
チサトの大切な仕事でしょ?
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ナギは、娘を守ろうとするグローブの覚悟を感じ、静かに目を細めた。
ナミは、そっとチサトに寄り添うと、涙をこらえる娘の肩を優しく抱き寄せた。
それから、チサトたち家族はグローブの家をあとにした。
その後――
グローブは部屋にこもり、旅立ちに備えて防犯バッグ作りに没頭した。
――リュック、肩掛けバッグ、手提げ袋……。
さまざまな形を試作した。
そして出発の前日、ついに納得のいくウエストバッグが完成した。
それは上部を覆うフラップを備えたものだった。
グローブは《コードリンク》に触れ、フラップの留め具へ自分の波長を刻み込んだ。
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*グローブ:
ふう、やっとできた……。
これなら、悪い人たちにだって簡単には開けられないぞ。
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さらに、ウエストバッグ全体を包み込むように保護障壁を展開させた。
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*グローブ:
よし、これなら傷だってつけられないし――
どんなことされても、中身が壊れることもないよ。
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グローブは出来上がったウエストバッグを、満足そうに見つめた。
◇ ◇ ◇
時を同じくして――
マリヤは《トラベリーチョコ》と新作のパンケーキを作っていた。
《トラベリーチョコ》は五箱。
新作のパンケーキは、一口サイズのものを数十個作った。
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*マリヤ:
うん。
うまくいった。
これを食べて、グローブも安心してくれるといいけどねぇ。
あの子は決して表情には出さないけど……。
初めての一人旅で、不安を覚えない人なんていないからねぇ。
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マリヤは、出来上がった新作のパンケーキを袋に詰めながら、つぶやいた。
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*マリヤ:
……そうだ。
このパンケーキに名前をつけましょう。
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マリヤは出来上がったパンケーキを、じっと見つめた。
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*マリヤ:
パンケーキだけど、ふっくらしてホットケーキみたいだから……。
《安心ほっとケーキ》ってどうかしら……。
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◇ ◇ ◇
―トラベリーチョコ―
Travel-berry Chocolate
一粒で強い満腹感を得られ、体力も回復する。
腐りにくいため、旅人に人気があった。
一箱で家が買えるほどの価値があると噂される、幻のチョコレート。
《共鳴窯》で作るため希少。
必要な素材は――
トラベリー
スウィートウィート
ハルモニアの水
◇ ◇ ◇
―安心ほっとケーキ―
Anshin Hot Cake
不安な気持ちを和らげてくれるパンケーキ。
必要な素材は――
ヘンブレスの卵
カウカームのミルク
スウィートウィート
トラベリー
◇ ◇ ◇
ついに迎えた、出発の日の朝。
グローブはマリヤからオベリスクの説明を受け、《セブンパス》を手渡された。
さらに、五箱の《トラベリーチョコ》と、数十個の《安心ほっとケーキ》も受け取った。
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*グローブ:
おばあちゃん、いろいろ用意してくれて、ありがとう。
それじゃあ……いってきます。
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*マリヤ:
ああ、頑張るんだよ。
お前は《レインボーフェニックス》に選ばれたんだ。
自信を持ってね。
いってらっしゃい……。
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そして――
グローブは『ダイヤの港』へと向かった。
港では、チサトたちがグローブの到着を待っていた。
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*ナギ:
忘れ物してねえか?
しばらくは戻って来れねえだろうからな。
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*ナミ:
グローブ、気をつけてね。
危なくなったら、逃げるんだよ。
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*グローブ:
ナギさん、ナミさん……。
ありがとうございます。
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ナギとナミの横で、うつむいていたチサトが顔を上げた。
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*チサト:
本当に行っちゃうんだね。
グローブの16歳の誕生日からまだ、10日くらいしか経ってないんだよ……。
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チサトは言葉に詰まりながらも、溢れそうになる涙を必死にこらえ、言葉を紡いだ。
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*チサト:
それなのに……それなのに……。
ルアンさんにラテラさん。
『オパールマウンテン』に『アレキサンドライトの泉』。
あの日から、本当にいろいろあり過ぎて……。
なんだか、あっという間だったよ。
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*グローブ:
絶対に……。
絶対に、この島の雨を止める方法を見つけて帰ってくるから……。
だから、それまで待っててよ。
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*チサト:
……うん、分かってる。
信じてるから。
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そう言うとチサトは、お弁当をグローブへと手渡した。
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*チサト:
……船の中で食べてね。
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*グローブ:
うぅ……っ。
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チサトの手作りの温もりに触れ、グローブは思わず目頭を熱くした。
――ブゥォォォーーーン!
その時――
出航の時間を告げる、連絡船の汽笛が響き渡った。
ナギとナミに背中を押され、グローブは涙を拭いながら、タラップを駆け上がった。
デッキに立ったグローブは、手すりにしがみつくようにして、港で見送るチサトたちを見下ろした。
港の岸壁では、チサトたち三人が大きく手を振っていた。
――ゴゴゴゴ……。
大きなエンジン音が足元から響き、船体がゆっくりと岸壁から離れ始めた。
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*チサト:
グローブーーっ!
身体に気をつけてねーーっ!
待ってるからねーーっ!
絶対に、絶対に帰ってきてねーーっ!
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遠ざかっていく船に向かって、チサトは両手を口に添え、精一杯の声で叫んでいた。
その瞳からは、もうこらえきれなくなった涙がポロポロと溢れていた。
=
*グローブ:
チサトーー!
みんなーー!
行ってきまーーす!
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グローブも喉が張り裂けんばかりの声で叫び返した。
『グレーダイヤモンド島』が霧で見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
完全に島が見えなくなると、グローブは静かに船室へと足を向けた。
船室に用意されたベッドに腰掛け、グローブはチサトから受け取ったお弁当の包みをそっと開く。
慣れ親しんだ香りがふわりと漂い、グローブは思わず目を細めた。
その瞬間――
出発前夜のチサトとのあの出来事が、鮮やかによみがえった。
◇◇◇
第一章
止まない雨の島
――完
◇◇◇




