第019話:偽らない唇
第一章:止まない雨の島
―前回のあらすじ―
ナギとナミは《神秘のマナ》について、マリヤを問いただすが、誤解だったと納得した。
グローブは残る素材、《ハルモニアの水》を手に入れるため、再び『アレキサンドライトの泉』へ向かうこととなった。
朝食を終えたグローブが、大きな水筒を肩に掛け、家を出ると――
外でチサトが待っていた。
=
*チサト:
あっ、グローブ、おはよう。
=
*グローブ:
おはよう、チサト。
どうしたの?
=
*チサト:
……朝からお父さんとお母さんが、そっちの家に行ってたみたいだけど、何か知ってる?
二人とも帰ってきたけど、「大丈夫」としか言わないから……。
=
*グローブ:
……えっと、ボクも詳しくは分からないんだ。
おばあちゃんも「もう大丈夫」って言っただけだから。
=
*チサト:
そう……。
やっぱり、大人は何にも話してくれないね。
=
*グローブ:
うん。
=
*チサト:
……それで、グローブはどこに行くの?
=
*グローブ:
『アレキサンドライトの泉』だよ。
=
*チサト:
えっ!?
=
その言葉を聞いた瞬間、チサトの脳裏に昨夜の出来事が鮮明によみがえった。
固まってしまったチサトに、グローブが声を掛ける。
=
*グローブ:
大丈夫?
どうしたの?
=
*チサト:
ううん、何でもない……。
……私も一緒に行っていい?
=
*グローブ:
うん。
=
グローブはチサトを連れて、『アレキサンドライトの泉』へと向かった。
その途中――
=
*チサト:
ねぇ、昨日のことなんだけど……。
=
*グローブ:
んっ……!?
=
*チサト:
やっぱり、あれって……。
【紫】の《エデンの実》を食べたからだよね?
=
*グローブ:
……たぶん。
=
*チサト:
じゃあ……誰と食べても、ああいう雰囲気になっちゃうってこと?
=
*グローブ:
えーっと……。
=
グローブがどう答えていいか分からず、もじもじしている間に――
『アレキサンドライトの泉』へとたどり着いた。
=
*チサト:
……慣れると、ここまで来るのも、あっという間だね。
=
*グローブ:
うん……ごめん、そうだね。
=
グローブはそう言うと、しゃがみ込んで《ハルモニアの水》を汲み始めた。
=
*チサト:
じゃあ、私は《エデンの実》を採ってくるね!
=
*グローブ:
うん、分かった。
=
グローブは動揺しているのか、なかなか水を汲むことができなかった。
そうしている間に、チサトが【緑】の《エデンの実》を抱えて戻っていた。
=
*チサト:
まだ、水、汲んでたの?
ふふっ、不器用なんだから……。
私も手伝うよ。
=
チサトはそう言って、グローブの隣にしゃがみ込んだ。
その時――
濡れた岩肌にチサトの足が滑った。
=
*チサト:
きゃっ!
=
*グローブ:
危ない!
=
グローブが咄嗟に手を伸ばし、チサトの身体を抱きとめた。
だが、汲んでいた水筒は勢いで倒れてしまい、せっかく溜めた水は、すべてこぼれてしまった。
グローブはチサトを抱きとめたまま、泉のほとりへ倒れ込んだ。
ぽつ……ぽつ……ぽつ……。
至近距離で、目と目が合う二人。
――ドキ、ドキ。
ドキ、ドキ。
二人とも今日は、【紫】の《エデンの実》を食べていない。
それなのに――
胸の鼓動は、昨夜と同じように激しく鳴っていた。
グローブがチサトの唇に目をやると、チサトはそっと目を閉じた。
チサトの呼吸が、すぐそばで小さく揺れていた。
グローブは震える指先を握りしめた。
それから、目を閉じた。
そして、そっと唇を重ねた。
――ほんの数秒。
時が止まったようだった。
ぽつ……ぽつ……ぽつ……。
チサトが目を開けた瞬間――
グローブはハッと我に返った。
二人は弾かれたように飛び起きて、お互いに背を向けた。
無言の時間が流れた。
数秒しか経っていないはずなのに――
その1秒1秒が、永遠のようだった。
=
*グローブ:
み、水汲まなきゃ……!
=
*チサト:
う、うん。
ごめん、手伝う!
=
二人は水を汲み直すと、静かに帰路についた。
――ガチャ。
=
*グローブ:
ただいま。
=
リビングでは、大人たちが話をしていた。
=
*ナギ:
村長……はい、これ。
《トラベリー》です。
=
*マリヤ:
まあまあ、こんなにたくさん。
ありがとうねぇ。
=
*ナミ:
私たちにできるのは、これくらいなものですから。
=
ナギとナミが微笑む中、グローブが声をかけた。
=
*グローブ:
ただいま、おばあちゃん。
《ハルモニアの水》、汲んできたよ。
=
*マリヤ:
まあ、こっちもたくさん。
すごく重かっただろう?
=
二人の姿を見たナギが、ふと娘のチサトの顔を覗き込んで眉をひそめた。
=
*ナギ:
ん?
チサト、どうした?
大丈夫か?
顔が赤いぞ。
=
*ナミ:
あら、本当ね。
風邪でも引いちゃったのかしら……。
=
ナミも心配そうにチサトの顔を覗き込んだ。
=
*チサト:
だ、大丈夫だよー。
水を運ぶの手伝ったから……。
=
*ナギ:
そうか……。
それならいいんだけどよ。
=
*ナミ:
無理しないでね。
=
マリヤは《神秘のマナ》の素材を、テーブルに丁寧に並べていった。
=
*マリヤ:
これで全部そろったねぇ。
ごくろうさま。
みんな、ありがとうねぇ。
=




