第018話:エデンの実
第一章:止まない雨の島
―前回のあらすじ―
夜の『アレキサンドライトの泉』で【紫】の《エデンの実》を口にしたグローブとチサトは、本能を刺激され急接近した。
無事に素材を持ち帰った二人だったが、マリヤが口にした《神秘のマナ》という言葉に、ナギとナミは息を呑んだ。
翌朝――
チサトの家ではナギとナミが深刻な顔で言葉を交わしていた。
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*ナギ:
村長は本気で、あの《神秘のマナ》ってのを作るつもりなのか?
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*ナミ:
《神秘のマナ》って、10年前にジェンドさんが作ろうとして失敗したんでしょう?
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*ナギ:
もし、あの時と同じものが完成したら、今度こそ取り返しのつかないことになるぞ。
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*ナミ:
じゃあ、絶対に止めなきゃ……。
すぐに、村長さんのところへ行きましょう!
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二人が険しい表情で話しているところへ、眠そうに目を擦りながらチサトが起きてきた。
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*チサト:
おはよう。
朝から、二人で何を話してるの?
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*ナギ:
……いや、ちょっとな。
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*ナミ:
なんでもないわ。
これから少し、村長さんのところに行くから、家で留守番をお願いね。
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*チサト:
えっ、今から?
まだ7時だよ。
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チサトが怪訝そうな表情を浮かべていたが、二人は一刻を争うようにグローブの家へと向かった。
――コン、コン、コン。
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*ナギ:
おはようございます。
ナギです。
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――ガチャ。
ナギの声に、マリヤがドアを開けた。
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*ナミ:
おはようございます、村長さん。
朝早くから、すみません。
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*マリヤ:
おや、どうしたんだい?
二人とも血相を変えて。
まあ、中へお入り。
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二人は、静まり返ったリビングへと入った。
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*ナギ:
村長……。
単刀直入に聞きます。
本当に《神秘のマナ》を作る気なんですか?
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*マリヤ:
どうして、そんなこと聞くんだい?
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*ナミ:
夕べ、グローブが《スウィートウィート》と《エデンの実》を渡したとき……。
「また一つ、素材が揃った」って、おっしゃいましたから……。
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*マリヤ:
……ああ、そうだったねぇ。
確かにそう言ったねぇ。
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マリヤはいつもの穏やかな表情で答えた。
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*マリヤ:
……でも、出来ないんだよ。
素材を全部集めても……。
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*ナギ:
えっ、それはどういうことですか?
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*ナミ:
じゃあ、なんで集めてるんですか?
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*マリヤ:
それはねぇ……。
グローブが、「おじいちゃんの手伝いをしたいんだ」って真剣な目で言ったからなんだ。
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*ナギ:
でも、素材が集まれば、作れるんじゃないんですか?
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*ナミ:
そうですよ。
何かの間違いで、また出来てしまったら……。
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*マリヤ:
それは大丈夫。
間違いは絶対に起きないよ。
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マリヤは優しく微笑んだ。
けれど、その瞳の奥には、一瞬だけ言葉にできない寂しさが浮かんだ。
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*マリヤ:
《神秘のマナ》は《共鳴窯》を使って作るんだけど――
《虹の笛》の完璧な旋律を、窯に響かせる必要があるんだよ。
でも、あの日から……。
《虹の笛》の音が途切れ途切れになってしまってねぇ。
《神秘のマナ》を完成させるには、欠けのない旋律が必要なんだ。
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マリヤは窓の外の降り続く雨を見つめ、小さく息をついた。
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*マリヤ:
《神秘のマナ》が完成しない原因は、《エデンの実》にあるんだ。
《エデンの実》を使って作るには、《虹の笛》の完璧な旋律が必要なんだよ。
でも、今の《虹の笛》では、それができない。
だから、笛を吹かずに《エデンの実》を《共鳴窯》に入れると、必ず焦げてしまうんだ。
逆に、《エデンの実》を使わないレシピなら、笛を吹かなくても作れるんだよ。
例えば、《トラベリーチョコ》は――
《トラベリー》。
《スウィートウィート》。
《ハルモニアの水》だけで、作るから笛は吹かなくていいんだよ。
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*ナミ:
それじゃあ、絶対に危険はないんですね。
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*マリヤ:
ああ、そうだよ。
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そう言うとマリヤは、《エデンの実》を《共鳴窯》に入れ、起動させた。
すると――
《共鳴窯》から黒い煙が立ち上った。
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*マリヤ:
こうなるのさ。
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マリヤは二人に、《共鳴窯》の中を見せた。
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*ナギ:
……なるほど。
村長が、ここまで丁寧に説明してくれたんだ。
これ以上疑うわけにもいきませんね……。
だけど、俺たちは……怖かったんです。
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*ナミ:
ええ……。
また同じことが起きるんじゃないかって……。
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ナミがテーブルの上に置かれている素材に、視線を移した。
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*ナミ:
……でも、集めた素材はどうするんですか?
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*マリヤ:
グローブが旅に出る時に、パンケーキでも作って、持たせてやろうと思ってるんだよ。
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*ナギ:
……こんな朝早くから、すみませんでした。
納得しました。
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*ナミ:
……それじゃあ、後ほど、昨日採ってきたばかりの《トラベリー》をお持ちしますね。
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二人は、深く一礼すると、急ぎ足で自宅へと戻っていった。
その直後、グローブが起きてきた。
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*グローブ:
おはよう、おばあちゃん。
ちょっと、コゲ臭いけど……。
なんかあったの?
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*マリヤ:
おはよう、グローブ。
ナギさんとナミさんが来てたんだよ。
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*グローブ:
ええっ、こんなに朝早く。
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*マリヤ:
ああ、少し誤解があったみたいでねぇ。
だけどもう、大丈夫だよ。
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マリヤは少しだけ目を細め、グローブの顔を見つめた。
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*マリヤ:
あとは《ハルモニアの水》だけだね。
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*グローブ:
うん。
朝ごはんを食べたら、すぐ『アレキサンドライトの泉』に行ってくるよ。
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グローブは元気よく頷くと、目の前の朝食を勢いよく頬張り始めた。
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*マリヤ:
あっ、こらっ、グローブ!
「いただきます」は!?
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*グローブ:
あっ、ごめん、おばあちゃん。
い、いただきまーす!
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