第012話:雲の上
第一章:止まない雨の島
―前回のあらすじ―
『カオスの森』を抜けたグローブたちは、『アレキサンドライトの泉』で《エデンの実》の謎に触れた。
【緑】の実で戦争が始まり、【紫】の実で終わったというジェンドの記録が、グローブの心に引っかかった。
『アレキサンドライトの泉』を後にした四人は、ついに『オパールマウンテン』の登山口へとたどり着いた。
そこには「立入禁止」と大きく書かれた看板が立ち、その先には頑丈な門扉があった。
ナギが近づき、鍵を開け、門をゆっくりと開けると――
真っ白な霧が一気に流れ込み、四人の頬をかすめていった。
四人が見上げると、山頂に向かって続く道が、すぐそこで、濃い霧の中に消えているのが見えた。
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*ナミ:
山頂付近に岩屋があるから、今日はそこまで頑張って行くのよ。
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*チサト:
うん……でも、お母さん。
なんで、そんなに詳しいの?
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*ナミ:
私たちも若い頃、一度だけ登ったことがあるのよ。
立入禁止になる前にね。
昔は、登る人も結構いたんだよ。
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*チサト:
そうだったんだ。
じゃあ、あまり怖がらなくてもいいね。
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*ナギ:
でも昔とは違う……。
雨がずっと降ってるからな。
足元には気をつけるんだぞ。
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*ナミ:
それに、喧嘩なんかしちゃダメよ。
この前みたいに、仲良く手を繋いで行くのよ。
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*チサト:
ちょっと、やめてよー。
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チサトの抗議にナギとナミが笑い、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
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*グローブ:
ナギさん、ナミさん、いってきます!
チサト、行こう!
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*ナギ:
おう、頑張れよ。
お前たちが帰るまでは――
いつでも戻れるように門の鍵はかけずにしておくからな。
安心していけ!
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*ナミ:
そうよ。
怖くなったら、すぐにでも帰っておいで。
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二人はナギとナミの温かい言葉に深く頷くと、ゆっくりと門をくぐった。
リュックを背負った二人の姿が、濃い霧の中へと吸い込まれていく。
――ギィィィ、バタン。
背後で重たい音を立てて、門が閉まった。
鍵は掛かっていない。
それでもその音が「もう後戻りできない」と告げているようだった。
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*チサト:
頑張ろうね、グローブ。
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*グローブ:
うん。
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*チサト:
そういえば、この前、少しだけ『ジュエリオ島』の話したでしょう。
それで思い出したんだけど、あっちって、魔物がいるらしいよ。
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*グローブ:
えっ、魔物!?
誰が言ってたの?
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*チサト:
連絡船の船長さん。
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*グローブ:
船長さんって、イカリヤさん?
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*チサト:
そうだよ。
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*グローブ:
じゃあ、本当の話かもね……。
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*チサト:
この山にも……何かいたりして。
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*グローブ:
えっ……ちょっと、やめろよ……。
怖くなるから!
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*チサト:
えへへっ。
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――ゴオォォォ……!
二人はピタリと足を止め、顔を見合わせた。
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*グローブ:
今のって……魔物じゃないよね?
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*チサト:
ちょっとぉ、やめてよぉー。
ただの風だって!
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*グローブ:
ごめん、ごめん。
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二人はお互いを励まし合いながら、『オパールマウンテン』の山道を歩き続けた。
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*チサト:
『オパールマウンテン』っていつも霧に包まれていたから、よく分からなかったけど、近くで見るといろんな色に見えるんだね。
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*グローブ:
うん、きれいだよね。
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雨に濡れた岩肌は、光を受けるたびに淡く色彩を変えていた。
赤、橙、黄金、緑、蒼銀、縹、青――
そして紫。
まるで虹の欠片を散りばめたように、八色の光が明滅していた。
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*グローブ:
ふぅーっ、腹減った~。
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*チサト:
そうだね。
ちょうど、そこの岩陰が屋根みたいになってるから――
そこでお昼にしよっか。
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二人は近くの岩陰へ移動し、腰を下ろした。
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*チサト:
あぁぁ……。
重かった。
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チサトがリュックの中からお弁当を取り出した。
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*チサト:
はい、これ、グローブの分。
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*グローブ:
いつものより、おっきいじゃん!
ありがとう!
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*チサト:
そうだよ。
今日は山登りだから、特別に山賊おにぎりにしたんだ。
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グローブは、おにぎりに勢いよく、かぶりついた。
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*チサト:
ちょっとぉー!
ちゃんと「いただきます」って言わないとダメだよ!
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*グローブ:
あっ、ご、ごめん。
お腹が空いてたから、つい……。
じゃあ、いただきまーす!
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*チサト:
私も、いただきます。
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*グローブ:
ん……?
なんか頭が冴えてきたけど……。
ねえ、今日の山賊おにぎりにも、隠し味で【緑】の《エデンの実》を入れた?
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*チサト:
うん、もちろん。
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*グローブ:
そっか……。
じゃあ、やっぱり【緑】の実は「危険」じゃないね。
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グローブが素直に笑うと、チサトはなぜか、その言葉がたまらなく嬉しかった。
二人は昼食を終えると、再び山道を登り始めた。
すると、あたりがだんだんと明るくなってきた。
雨足が弱まっていく。
ぽつ……ぽつ……ぽつ……。
ぽつ……ぽつ……。
ぽつ……。
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*チサト:
あれ……えっ?
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*グローブ:
ん?
今……雨、止んでる……?
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二人は、いつの間にか雨雲を抜けていた。
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*チサト:
……空に、雲がないよ……。
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*グローブ:
本当だ……。
雨がない空って、本当にあるんだ……。
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二人の目の前に広がっていたのは、藍色と茜色が混ざり合う、本物の空――
それは、これまで見たことのない、美しい夕空だった。




