第五話
剣戟の音が夜の村に響く。
数度の打ち合いの後、距離を取ったオルヴァスが呟いた。
「予想以上だ。……まずいな」
両手で相手の剣をかち上げ、オルヴァスは一息ついた。
「魔力の練度も相当だ。なんでこんなやつがこんな村にいる……」
「それはこちらの台詞だ。お前、何者だ?」
オルヴァスをただものではないと見定めた男もひと息ついた。
「盗賊風情に名乗る名はねぇよ」
オルヴァスがゆらりと脱力したと思った瞬間、稲妻のような突きが盗賊の胸を貫いた――ように見えた。
盗賊は身を翻してかわし、その勢いのままオルヴァスの首を薙ぎ払う。
かわしたオルヴァスの首に血が滲む。
「くっ、長さを見誤ったか」
ロウリゴが話していた、刃先を魔力で伸ばす技だろうか。
ルーシェは固唾を飲み戦いの行方を見守っている。
その隣でフィーナがペタンと地面に座りこみ、虚ろな目で闇夜を見ている。
その視線の先。
闇の中に――
新手――
ルーシェは短剣を拾い飛び起きた。
気づいたザガシトも立ち上がる。
「おっと、お頭ですかい?まだ片付かないとは何やってるんすか」
血飛沫を浴びたのか、顔半分を真っ赤に染めたその男は、ルーシェたちを目で舐め回す。
「こっちは終わりやした。しけたものしかねぇや」
と首に掛けたいくつかの首飾りを揺らし肩をすくめて残念そうな顔をする。
男が腕を持ち上げた拍子に月明かりを受け、
腕輪がきらりと光る。
乳白色の石。
ルーシェは意識を失うかと思うほどに血の気が引くのを覚えた。
心臓が再び早鐘を打ち始める。
「それ……その腕輪……」
フィーナはガクガクと震え、おばあちゃんの……腕輪……は、もはや声にならなかった。
ルーシェも何か言おうとするが震えで声が出ない。
焦点が定まらず何も見えない。
耳には心臓の音しか聞こえない。
フィーナの泣き叫ぶ声がかすかに届いた。
オルヴァスがその男に気付き、立ち位置を変えた。合わせて、相対している長髪の男もそれに応じる。
「おっと、危ねえ、おれじゃそいつの相手はできやせんぜ、お頭」
「いい、こいつはおれの相手だ。いつも通り火を放て」
へいへい、と面倒な様子で暗がりに消えていった。
「いよいよまずいな……」
ルーシェとフィーナの異変に気づいたオルヴァスに焦りが見え始める。
「仕方ねえ、一度引くか」
オルヴァスはそう言うと、剣の切先を相手に合わせ、何かに集中するかのように体を強張った。
「何を戯言を、引かせるわけねえだろ」
オルヴァスの剣を払い除けようとした瞬間、悪寒が走り、知らずに半歩後退したことに盗賊は気づいていなかった。
「集え、熱よ。敵を穿て――
第二階位魔法 《炎弾》」
オルヴァスの手のひらから赤く燃え盛る炎塊が盗賊の顔面を直撃した。
「第二階位魔法……。
すごい。初めて見た……」
ロウリゴの目に興味の色が映る。
「ぐっ、魔法か……!」
盗賊の焼け爛れた顔が苦痛に歪む。
とどめを刺そうとしたオルヴァスの剣を苦し紛れに弾き、再び距離をとる。
オルヴァスは剣を構え直す。
「たいしたやつだ。だが終わりだ」
オルヴァスが斬りかかったその時だった。
後方で火の手が上がる。同時に爆発音。
数人の盗賊がこちらへ駆けてくる。
ちっ、とオルヴァスは舌打ちし、振り返って叫んだ。
「ザガシト、フィーナを頼む。ロウリゴ、お前はルーシェだ」
顔を焼かれ苦しむ頭目を横目に、再度舌打ちすると、
「ザガシト、ロウリゴ、走れ!急げ、こっちだ!」
と北側の出口へ走り出した。
ルーシェはわけがわからず、ただただ、ロウリゴに引かれる手を見ていた。
ザガシトに背負われたフィーナの目はまだ虚ろなままだ。
盗賊は追ってこない。
村が一望できる丘の上にあがり、オルヴァスが力強く四人を鼓舞する。
「一旦、立て直す。いいか、諦めるな。助けに行くぞ」
次の瞬間、低い爆発音と共に村の至る所で火の手があがった。大規模なそれは絶望の炎だった。
四人を鼓舞したばかりのオルヴァスが諦めるほどに。
ルーシェの脳裏に、五年前の光景がよぎる。
燃える家は、赤い服を着た何人もが踊っているように見えた。
闇空を血の色に染め、その火は高々と燃え上がり続けた。
ルーシェは呆然とそれをただ眺めていた。




