第二話
古木を削って作った小型の木剣が甲高い音と共にルーシェの手から弾き飛ばされ、近くで素振りをしていたザガシトの足元に突き刺さる。
「うわっ、ルーシェ、危なかったぞ」
ザガシトが木剣を拾い手渡してくれた。
「ごめんごめん、あれ、でもなんでだ、きちんと受けたと思うんだけど」
「馬鹿正直に刃を止めるな。半身で流すっつったろ。短剣は剣じゃない。力比べをした瞬間、お前の負けなんだよ」
木剣の柄で頭を掻きつつオルヴァスがあくびをする。
「もう一回だ。今度は受けるな。避けながら刃を滑らせろ」
「よし!」
ルーシェは構えた。オルヴァスの木剣が唸る。
一歩も踏み込んでいないように見えたのに、木剣はもう鼻先まで迫っていた。
咄嗟に身を引き、教わった通り半身になる。
木剣を滑らせるように合わせると、今度は弾き飛ばされなかった。
「おっ!」
思わず声が漏れる。
「それだ」
オルヴァスは木剣を下ろした。
「まだ遅ぇけどな」
「今の、できたよね?」
「できたのは半分だ」
「えー……」
「お前らは魔素を取り込めてもまだ魔力を練れないからな、今は型をしっかり身につけるこった」
魔素。
オルヴァスに教えを乞うてからよく聞く。
「空気みたいに漂ってる魔素を、体の魔力炉で魔力に変えるんだよね。でもまだおれは小さいから魔力を作れない。
でもなんで魔力を作れないとダメなの?」
「武器に魔力が乗らねぇんだよ。強い魔力で強化すればさっきみたいに木剣を弾かれることもねぇ。言ってなかったっけ?」
「おっさんは説明が下手だから分からないよ。ロウリゴ、魔力で強化したらさっきの止められた?」
木の根に腰掛け、例の分厚い本を食い入るように読んでいたロウリゴに話しかける。
「うん?見てなかったけど、武器の強化ができれば
押し負けないだろうし、短剣の刃先を魔力で伸ばすこともできるよ。理論上だけど」
「へえ、魔力ってすごいんだな。早く使いたいよな。使えるようになったさ、ロウリゴ、短剣をビューンって伸ばしてよ!」
「僕には無理かな。きっと法炉だろうし。ルーシェは武炉だろうから、自分でやってみるといいよ。
あとオルヴァスのおっさんさ、おっさんも武炉だよね。なんで魔法が使えるの?」
「ああ?まあな、おれはなんでもできちゃうすごいヤツだったってことだ」
「いや、そうじゃなくて。魔法を発現させるには魔術式を知らなきゃできないでしょ?」
ロウリゴは慣れた手つきで本をめくる。
「ほら、
『術式を理解し、自分の魔力で再現すること』」
「『魔術は才能ではなく学問である』」
「『魔術師は理論を学び、神官は聖典を学ぶ』」
「あとね、この章には──」
「もういい、もういい。頭が痛くなる。おいルーシェ、面倒くせぇし、おれは忙しいからあとはロウリゴに聞け。よし、今日は終わりだな」
そう言うとオルヴァスはそそくさと訓練所、という名の広場を出て行ってしまった。
「どこ行くんだろう」
「忙しいって言ってたね」
「しかしあの方向は…」
三人は顔を見合わせた。
「「「酒場だ」」」
思わず吹き出す。
「しかしロウリゴは物知りだなぁ。ザガシトは魔力炉のこと知ってた?」
「種類くらいは。武炉、法炉、それと聖炉があると聞いたことがある」
ひときわ背の高いザガシトは体つきも良くいかにもパワー勝負系なのに…なのに、見た目に反して物知りなのだから敵わない。
「でもさ…」
ロウリゴとザガシトがルーシェを見る。
「あんな適当なのに、おっさん、なんであんなに強いんだろ」
ルーシェは不思議そうに、足早に去っていく背中を見つめた。
「まあ、まずは型だ型。攻撃の型もいくつか覚えたし、あとは繰り返し頑張ることにする」
まだ陽は高い。それでも山の影はゆっくりと村へ伸び始めていた。
その影は、まるで村を静かに飲み込もうとしているようだった。
ルーシェはなぜか身震いをして、剣だこで硬くなった手に息を吹きかけた。




