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勇者

広大な死の荒野を、守護者の背に乗って進むひまり一行。もはや軍勢とも呼べる、英雄と元魔王軍の庭師たちを引き連れた行列が歩む先で、一人の青年が立ち塞がりました。


ボロボロのマントに、どこか見覚えのある現代的なデザインの剣を携えた青年――「勇者」です。


「……待て! そこにいるのは、この世界を花と蔦で侵食している災厄の主だな! この世界を元の姿に戻し、人々を救うために……僕は、君を倒す!」


彼はひまりを指差し、使命感に燃える瞳で叫びました。しかし、その手は微かに震えています。この地獄のような世界で幾多の死線をくぐり抜けてきたものの、彼は「中の上」程度の力。この世界の理を飲み込み、魔王すら従えたひまりの「守護者」の圧倒的な魔力の前では、ただの無力な挑戦者に過ぎません。


ひまりは、植物の守護者の上から身を乗り出し、パァッと笑顔を咲かせました。


「わあ、勇者さんだ! かっこいい服だね! ……あれ、もしかして道に迷っちゃった? ここ、すごく広くて暗いから大変だよね!」


「なっ……! 僕は迷子なんかじゃない! 世界を救う使命があるんだ!」


「世界を救うの? すごーい! 私もね、この世界をすっごく明るくて楽しい場所にしようとしてるの! 同じ目的だね!」


ひまりは自分の「楽園化」と、彼の「世界救済」を完全に同一視し、守護者の巨大な蔦をまるでスロープのように地面へと伸ばしました。


「ねえねえ、一人だと寂しいでしょ? 私たちと一緒に冒険しようよ! 私、すっごく面白い遊び相手になりそうじゃない?」


勇者は、ひまりの純粋で屈託のない笑顔、そして背後に従える元魔王や英雄たちという異様な光景に絶句し、剣を下ろしました。……正直なところ、この「ひまり」という存在のあまりの理不尽なパワーを前に、まともに戦えば自分がどうなるかは火を見るよりも明らかでした。


「……君、本当に何を考えているんだ? ……わかった、君の真意を探るためにも、僕が監視役として同行する! 決して君の好きにはさせないからな!」


「やったー! 仲良しだね、よろしく勇者さん!」


ひまりはそう言うと、守護者の背に勇者を招き入れました。


ひまりは、勇者が何かのアイテムを探していると聞けば、守護者の力で地中を掘り返し、森を丸ごとひっくり返してそのアイテムを探し出そうとします。


「勇者さん、これ探してたんでしょ? はい、プレゼント!」

「……そ、そこまでしなくても……というか、森の生態系が!!」


ひまりの「カラ元気」と「理不尽な救済」が、勇者の使命感をどんどん歪な方向へと塗り替えていきます。


「勇者さん、次は何して遊ぶの? 修行? お宝探し? どっちも面白そう! 私も混ぜて〜!」


ひまりは守護者の背でぴょんぴょん跳ねながら、勇者に付きまとうことに決めました。勇者は「監視だ、あくまで監視だからな!」と顔を真っ赤にして言い返しますが、その腰元には、ひまりが「お花が咲いてて可愛いから」と無理やりデコレーションした、紫色の蔦が巻き付いた聖剣が揺れています。


ひまりにとって、勇者が行く先々で待ち構える強大なモンスターや過酷なトラップは、すべて「大掛かりなアトラクション」です。


「わっ、あそこに大きなドラゴンがいる! ねぇ勇者さん、あの子と鬼ごっこしようよ! 私、捕まえるの得意だよっ!」


ひまりがそう言うと、守護者は空を覆うほどの巨大な翼を広げて急降下し、ドラゴンを地中に咲いた巨大な「捕獲用の花弁」でパクッと飲み込んでしまいました。数分後、花弁が開くと、ドラゴンはすっかりおとなしくなり、首に紫色の花のレイをかけて、ひまりの周りをパタパタと従順に飛び回っています。


「やったー! 仲良しになれたね、勇者さん! ……あ、あれ? 勇者さん、どうしたの? そんなに呆然としちゃって。もしかして、私に先を越されて悔しいのかな? 大丈夫、次は勇者さんが一番かっこいいところ見せてね!」


ひまりはニコニコと勇者の背中をポンポンと叩きます。彼女の手助け(という名の蹂躙)はあまりに過激で理不尽ですが、その瞳には何の邪心もなく、ただ純粋な「仲間との遊び」という感情しかありません。


勇者は、倒したはずの敵がひまりの手によって「花園の住人」に作り変えられ、行列がどんどん長くなっていく様子を眺めながら、深い溜息をつきます。


「……もう、どうとでもしてくれ……」


「あはは! 勇者さん、元気出して! お腹のおチビちゃんも、勇者さんの冒険が見たくてワクワクしてるみたいだよ!」


ひまりは自分のお腹をさすりながら、楽しげに歌を口ずさみます。彼女のポジティブな歌声が響くたび、周囲の死の世界は刻一刻と、ひまり好みの「カラフルで、ちょっと毒のある楽園」へと塗り替えられていきます。

この珍道中は、勇者が目指す次のスポット「伝説の武器が眠るという呪いの神殿」へ到着します。


「ここからは手出ししないでくれ」


「わかったよ、勇者さん! ここは勇者さんのカッコいいとこ、じっくり見せてもらうね!」


ひまりは守護者の背からちょこんと降り、両手を口元に添えて応援モードに入りました。

神殿の奥深く、伝説の武器『破滅の星屑』が鎮座する祭壇。そこを護るのは、神代の時代から続く「影の守護者」たちです。


勇者は緊張の面持ちで剣を構え、果敢に挑みます。

「はあっ! ……くっ、なんて硬いんだ!」

さすがに神殿の守護者は手強く、勇者の攻撃は弾かれ、逆に彼は鋭い反撃を腹部に受けて吹き飛ばされてしまいました。


「うわっ、危ないっ!」


勇者が壁に叩きつけられ、止めを刺されそうになった瞬間。

ひまりは笑みを浮かべたまま、空中で指をパチンと鳴らしました。すると、ひまりのお腹が淡い紫色の光を放ち、胎児の成長が進んだことを示すかのように、守護者の蔦がまるで光の速さで駆け抜けました。


「勇者さん、ダメだよ! そんなに無茶しちゃあ!」


蔦は勇者の体を優しく受け止めると、そのまま影の守護者たちの足を絡め取り、天井へ吊り上げてしまいました。


「……ッ! なんだよ、手出しするなと言ったのに……!」

「だって、勇者さんがいなくなったら、私のお喋り相手がいなくなっちゃうもん!」


ひまりはペロリと舌を出し、事もなげに言います。その無邪気さが、今の勇者には何よりも恐ろしく、そしてどこか頼もしく感じられました。

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