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境界の果てへ

彼女の言葉一つで、死に絶えていた世界が、狂ったような生命力で再構築されていきます。


守護者はひまりの望みを読み取ったのか、その巨大な花弁を折りたたみ、彼女を優しく包み込みました。すると、ひまりを覆っていた泥や血、そしてかつてのボロボロの服が、守護者が分泌する輝く樹液によって溶け去っていきます。


代わりにひまりの肌を飾ったのは、この世界に咲く「最上級の紫の花」を幾重にも重ねて編み上げた、この世のものとは思えないほど美しいドレスでした。それはまるで、ひまりという「災厄の母」を称えるための、生ける宝石のような装いでした。


「わぁ……! これ、すっごくきれい! 私、まるでお姫様みたいだね!」


ひまりはくるりと回転し、花のドレスをひらひらと揺らしました。その美しさは、死の世界の陰鬱な空気を一瞬で塗り替えるほどに鮮烈です。


彼女が最強の植物種である守護者の背に乗ると、守護者は地響きのような唸り声を上げ、館の崩れた天井を突き破って、外の世界へと飛び出しました。


【広大な死の世界:境界の果てへ】

目の前に広がっていたのは、永遠に終わらない夜と、歪んだ星々が浮かぶダークファンタジーの荒野でした。そこには、ひまりが今までいた館よりも遥かに凶悪な怪物の群れ、吸血鬼の城、腐り落ちた聖域が点在しています。


しかし、守護者が地面を駆け抜けるたび、その通った跡には紫の花が咲き乱れ、荒れ果てた大地がひまりの「楽園」へと作り変えられていきます。


「うわあ! 見て見て、あっちに高い塔があるよ! あそこに行ったら、もっとたくさんお友達に会えるかな?」


ひまりは無邪気に指を差します。

彼女の指差した先には、この世界の支配者の一人である「不死の魔王」が居座る、不気味な黒い城がありました。


ひまりは、自分が死の世界を侵食しているという自覚も、自分の背後にいる守護者がどれほどの脅威であるかも知りません。ただ、新しい冒険に胸を踊らせる一人の少女として、最強の「歩く災厄」を駆って、その黒い城へと一直線に向かっていきます。


城の門番たちが、異様な光景に気づいて武器を構えました。


「おい、あれは何だ……? あの少女、まさかあの『死の館』の……」


ひまりは、城の前で守護者を止めると、ドレスを整えて、かつてないほどキラキラした笑顔で叫びました。


「おーい! こーんにーちはー! 遊びに来たよー! 私と一緒にお茶会、してくれないかなー!?」


彼女の背後では、世界を飲み込まんとする巨大な植物の触手が、ニョキニョキと不気味な音を立てて大地を覆い尽くし始めています。


ひまりの無邪気な挨拶に対し、黒い城の門番たちは凍りつきました。彼らの前には、死の世界を塗り替える圧倒的な「植物の守護者」がそびえ立っています。


「侵入者……いや、あれは災厄だ! 攻撃せよ!」


城の主である魔王の号令のもと、数千のスケルトン兵団と魔獣たちが一斉に牙を剥きました。空を埋め尽くすほどの黒い魔力弾が、ひまりへと降り注ぎます。


「わあ、すごい花火! 歓迎してくれてるんだね!」


ひまりが手を叩いて喜ぶと、守護者は地中から巨大な花弁を盾のように展開し、すべての魔力を「栄養」として吸収してしまいました。さらに、花弁から放たれた無数の花粉が戦場を舞うと、触れた兵士たちは武器を捨て、その場に美しい花を咲かせて座り込んでしまいます。


「あれ……? みんな、お昼寝しちゃったのかな? もっと楽しくやろうよー!」


ひまりの「楽しい」という純粋すぎる願望は、この世界を支配する物理法則を書き換えます。戦っていた兵士たちは、次々と意志を奪われ、ひまりの楽園を彩る「庭の番人」へと作り変えられていきました。


その光景に、城の地下牢に捕らえられていた人間や亜人種たちの英雄たちが、柵越しに驚愕の目で見入っていました。


「あの少女……あんな理不尽な力で、魔王軍を一瞬で……?」

「待て、彼女は……この死滅した世界に、緑を、生を運んできているのか……!?」


彼らはひまりを、古の予言にある『世界を塗り替える光の乙女』だと勘違いしました(実際には、彼女はただ、おチビちゃんと一緒に遊びたいだけの少女なのですが)。


「行こう! あの乙女についていけば、この地獄から抜け出せるかもしれない!」


英雄たちは自力で牢をこじ開け、ひまりの背後へと集結しました。彼らはひまりを神聖な守護者として崇め、その後ろに従う「聖歌隊」のような隊列を組み始めます。


城の奥から出てきた魔王は、自分の軍勢がひまりの「お庭」に改造され、さらにかつての敵であったはずの英雄たちまでが彼女のファンクラブのように背後に従っているのを見て、絶句しました。


「な、なんだお前は……。私の城を、一体何にするつもりだ!」


ひまりは守護者の上で、お腹を優しく撫でながら、魔王に向かって首を傾げます。


「え? もちろん、お庭だよ! お花がいっぱいで、みんなでお茶会ができる、すっごく明るいお庭! ね、主さんもお花になれば、もっと楽しくなれるよ?」


ひまりの瞳には、一切の悪意も迷いもありません。ただ、自分の世界を広げたいというポジティブな好奇心だけが燃えています。


魔王は絶望と戦慄の中で、死の世界のことわりそのものを自爆させる、最後の禁断魔法を発動しようと魔力を凝縮させました。


「ふざけるな……! この私が、このような得体の知れない『無垢』に膝を屈してなるものか! 世界の終焉と共に消え去るがいい!」


城全体が紫の閃光に包まれ、空間が悲鳴を上げます。しかし、その瞬間でした。


ひまりの守護者が、城の深奥――この世界の核とも言える「死の鼓動」に触手を突き刺しました。魔王の放った自爆魔法さえも、ひまりが「楽しく過ごしたい」と願うポジティブな欲望のフィルターを通ることで、ただの「派手なクラッカーの音」へと変換されていきます。


ドォォン! という音と共に城が揺れましたが、砕け散ったのは魔王のプライドだけでした。


「あ、今の音、すごかったね! クラッカーみたい! おチビちゃんも喜んでるよ!」


守護者の触手は城のすべてを縫い合わせるように絡みつき、魔王の魔力源を強制的に吸収し、ひまりの楽園の一部として再構築しました。魔王は崩れゆく玉座の上で、力を吸い尽くされ、自身の意志さえも「ひまり」という絶対的な存在の前で瓦解していくのを感じました。


抵抗する術を失った魔王は、膝から崩れ落ちます。


「……私の……敗北か。死の理を司る私が、ただの『明るさ』に飲み込まれるとは……」


魔王は震える手で、自らの冠を外し、それをひまりへと差し出しました。


「……私は、この庭の……庭師になろう。これ以上の抵抗は……もはや、この世界の『楽しさ』に反する……」


ひまりは無邪気にパチパチと手を叩き、城の天守から広大な荒野を見渡しました。


「わーい! やったね、主さん! これで今日から、もっとたくさんお友達と遊べるね! よーし、次はあっちの暗そうな森も、お花でいっぱいにしてあげなきゃ!」


かつての魔王は、ひまりの言葉に虚ろな目をしたまま、ひまりのドレスの裾を整える「庭師」として従い始めました。背後には、彼女を救世主と信じて疑わない英雄たちが、魔王軍の残党と共に「ひまり様万歳!」と歓喜の合唱を捧げています。


ひまりの楽園は、もはや一つの城では収まりません。彼女が「楽しい」と口にするたび、大地は緑と紫の花に覆われ、死のファンタジー世界は、彼女という「無自覚な災厄」によって、歪な楽園へと塗り替えられていくのです。


ひまりは、守護者の背で優しく自分のお腹を撫でました。


「ねえ、おチビちゃん。これから、もっともっと世界中を『お茶会』の会場にしちゃおうね!」

壊れているのか、壊れていないのか。

判断はお任せします。

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