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【完結】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
最終章 そして、

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521話 明鏡止水、五色の閃光

 涼介が勝機を見出し、仲間を信じて待っていたその頃。

 千夏は極限の戦いの中にいた。


 ガガガガガガッ!!


 拳と剣が火花を散らす。

 千夏は焦っていた。

 目の前の敵、エーデルガッシュが予想以上に手強い。

 『ゴッド・アイ』による未来視と、『オーバーロード』による身体能力強化。

 千夏の拳が届く寸前で躱され、カウンターの刃が飛んでくる。


 焦る程に思うつぼ。


「どけって言ってんでしょーがッ!!襲流脚!」


 千夏が叫びながら回し蹴りを放つ。

 エーデルガッシュはそれを紙一重で回避し、冷徹に告げる。


「退けぬな。……貴様の拳は軽い。焦りと怒りで軸がブレているぞ」

「うるっさい!!」


 千夏は苛立ちを募らせる。

 肌で感じるのだ。

 涼介の生命力が、灯火のように揺らいでいくのを。


(涼介が……押されてる?遥斗なんかに?)


 あの無敵の涼介が。

 千夏の全てである涼介が。


 恐怖が心を支配しかけた。

 早く行かなきゃ。

 早く助けなきゃ。

 思考が乱れ、動きが雑になる。


 その隙を、エーデルガッシュは見逃さない。


「隙あり!ハヤブサの太刀!」

 神速の居合が、千夏の肩を掠める。


「くっ……!」


 千夏はバックステップで距離を取った。

 肩から血が流れる。

 その痛みが、皮肉にも千夏の頭を冷やした。


(……ああ、そっか)


 千夏は、荒い息を吐きながらエーデルガッシュを睨みつけた。

 認めたくなかった。

 自分たち以外は雑魚だと、取るに足らない存在だと思いたかった。

 けれど、現実は違う。


「……認めてあげるよ」


 千夏が、ふぅ、と息を吐いた。


「何?」

 エーデルガッシュが怪訝な顔をする。


「あんたたちは強い。……ただの雑魚じゃない。私たちと対等に渡り合う、正真正銘……化け物だよ」


 千夏の瞳から、怒りの色が消えていく。

 代わりに宿ったのは、静寂。


 今まで、自分たちは奢っていた。

 異世界人である自分たちは特別で、この世界の人々を見下していた。

 だから足元を掬われた。

 こいつらは勇者を追い詰めるほどに強い。


(涼介を助けるには、半端な覚悟じゃダメだ)


 怒りに身を任せて勝てる相手じゃない。

 全霊を持って、この難敵を排除し、涼介に力を届ける。

 そのためなら。


(私は、修羅にでも何にでもなってやる)


 スゥゥゥゥ……。


 千夏が目を閉じ、深く息を吸い込んだ。

 周囲の喧騒が遠のいていく。

 波立つ心が鎮まり、鏡のように澄み渡る。


 明鏡止水。


「……雰囲気が、変わった?」

 エーデルガッシュが警戒を強める。


 千夏の全身から力が抜け、自然体となる。

 だが、その内側で練り上げられる『気』は、爆発的に膨れ上がっていた。


「……すーはー」


 千夏が呼吸をするたびに、周囲の大気が渦を巻く。

 いや、大気ではない。

 この空間に充満する濃厚な魔力、そして神樹ユグドラシルから放射される『イド』の根源的なエネルギー。

 毒にも薬にもなる純粋な力を、千夏は肺腑に取り込んでいく。


「まずい!千夏にそれをやらせるな!大変なことになるぞ!」

 後方で見ていた大輔が叫ぶ。

 彼は知っていた。

 千夏がやろうとしていることの危険性を。

 外部のエネルギーを直接体内に取り込み、生命力へと変換する禁断の奥義。


「広域気功……生命昇華!!」


 千夏が目を見開いた瞬間、その身体から黄金の気が爆発的に放出された。

 それは彼女自身を強化するだけではない。

 周囲一帯を包み込む、生命の奔流。


「……千夏……力が、漲ってくるよ!」


 その余波を受けた美咲が呟く。

 頬の傷が瞬く間に塞がり、奥底にある魔力が充実してくるのがわかる。


 美咲は理解した。

 千夏が最終奥義を発動したことを。

 これで、涼介は全快する。


 だが、相手がそれを見逃すはずがない。


「させるかぁぁぁッ!!」


 エーデルガッシュが叫ぶ。

 彼女もまた、千夏の狙いを悟ったのだ。

 『オーバーロード』全開。

 神速の踏み込みで、気を放っている無防備な千夏へ突撃する。


「邪魔は……させないッ!!」


 美咲が杖を天高く掲げた。

 千夏を守る。

 そして、千夏が涼介を助けるための道を切り開く。

 そのために、美咲は温存していた全ての魔力を解放した。


 ブォン!!


 美咲の周囲に、五色の魔力が交錯し始めた。

 燃え盛る赤、切り裂く緑、轟く黄、揺るぎない茶、包み込む青。

 通常、相反する属性を同時に扱うことは不可能。

 だが、千夏から受け取った無限の魔力と、美咲の天才的な制御力がそれを可能にする。


「森羅万象の五属性よ!我が意に従い融合せよ!結合せよ!」


 美咲の詠唱に合わせて、五つの魔力が螺旋を描き、一つに収束していく。

 空間が耐えきれずに悲鳴を上げ、極彩色の歪みが生まれる。


「な、なんだその魔力は……!?」


 エーデルガッシュが驚愕に目を見開く。

 危険だ。

 あれは、人が扱っていい魔法ではない。


「はああああぁぁぁぁぁ!!」


 美咲が杖を振り下ろす。

 照準は、千夏に斬りかかろうとしていたエーデルガッシュ。


「マナ・バァァァァァァァスト!!!」


 美咲の杖から、極太の閃光が放たれた。

 それは全ての属性であり、同時にどの属性でもない「無」の破壊光。

 物理防御も、魔法障壁も、属性耐性も意味をなさない。

 あらゆる防御スキルを貫通し、対象を根源から消滅させる究極魔法。


「しまっ……!?」


 エーデルガッシュには、避ける時間はなかった。

 迫りくる破滅の光。


「極光輪ッ!!」


 咄嗟にサンクチュアリの防御スキルを広域展開する。

 だが、触れた瞬間に悟った。

 防げない。

 この光は、聖剣の守りすらも飲み込んでいく。


(駄目……か)


 エーデルガッシュが死を覚悟した、その時。


 視界の端から、白い影が飛び込んできた。

 白虎だ。


「エレナ!?」


 白虎はスラスターを全開にし、自らの身体を盾にするようにエーデルガッシュの前に割り込んだのだ。


「マルチビット射出!エネルギー全開放!守るから……絶対にッ!!」


 エレナの決死の声。

 白虎が全エネルギーを防御に使用する。


 直後。

 マナバーストが二人を直撃した。



 世界が五色に染まり、そして白一色に塗りつぶされた。

 音も、光も、全てがかき消される破壊の奔流。


「エレナァァァァァァァァァッ!!」


 エーデルガッシュの絶叫が虚しく響き、大爆発の中に消えていった。

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