ネズミ捕り
一階の広間に行くと、まだ秀樹と平島が話をしていた。そこを通り抜けて台所の方へ向かう。すると、孝子に呼び止められた。
「あら、丁度良いところに来たわね。二人ともちょっと良いかしら?」
「なんですか?」
「今ねクッキーを焼いていたの。昨日のことでみんな疲れていると思って焼いてみたの。味見してもらえないかしら?」
「え、本当ですか?食べたいです」
「チョコとプレーンの二種類よ。食べてみて」
鏡花はチョコを、乃木はプレーン味を頂く。
「うわぁ、美味しいです。みなさん喜びますよ」
「ふふ、ありがとう。乃木さんはどうかしら」
「はい。勿論美味しいです。」
「喜んでもらえて嬉しいわ。ところで像は見つかったかしら?」
「はい。玄武の像は菊池さんのお部屋に有りました。この家の謎のヒントは、玄武の像にあると私は思うんです。」
「あら、そうだったの。鏡花ちゃんは探偵みたいね」
「いえいえ、そんな事ないですよ。私たちはこれで失礼しますね。行きましょう、乃木さん」
二人はその場を後にした。
「乃木さん先に部屋へ戻ってくれませんか?」
「え、どうしてです?」
「私はやることがあるので。戻ったら乃木さんの部屋へ伺います。では」鏡花は一方的にそう言い、去って行った。乃木は鏡花の言う通り、部屋に戻った。その途中、広間で平島に呼び止められた。
「乃木くんだったね。少し聞きたいことがあるんだが、ちょっといいか?」
「はい、何でしょうか?」
「では、私はこれで」秀樹はそう言い、書斎の方へ戻って行った。
「君と橋爪さんがここに来た本当の理由は何なんだい?」
「へ?本当の理由ですか?」
「ああ。私も刑事だ。長年人を疑う仕事をしていると、職業柄相手の嘘などがわかってしまうんだよ。招かれたっていうのは嘘なんじゃないか?」
「ええ、その通りです」
「何故昨日は嘘を?あ、別に疑っている訳じゃないんだ。君たちに高山を殺す動機なんてないことは百も承知だから。それに犯人は菊池の可能性が高いから気にしないで話してくれ。ただ、本当の理由が聞きたいだけなんだよ」
「わかりました。少し長くなりますがいいですか?」
「構わないよ」
乃木はここに来た経緯を平島に話した。
「なるほど、そういうことだったんだね。ありがとう、やはり君達は事件とは無関係のようだね。時間取らせて悪かった。もう、行っていいよ」
「はい、失礼します」乃木は自分の部屋に戻った。
一時間程が経ち、ようやく鏡花が来た。
「乃木さん、私です。入ってもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
「失礼しますね」
「橋爪さん、何してたんですか?」
「いえ、大したことではありませんよ。それよりも乃木さんに大事な話があります」
「へ?なんです?」
「今夜、皆さんが寝静まるころになったら私の部屋に来てください」
「な、な、何を言っているんですか!?」
「へ?私はただお話があるので」
「な、なんだ、そういうことですか。話なら今でいいじゃないですか」
「いえ、夜でないとダメです。事件に関わることですから」
「事件に?」
「はい。重要なことですので、失敗はできないのです」
「わかりました」真剣な鏡花の表情を見て、乃木は察した。
夜になり夕食を済ますと、鏡花は乃木と朝日と孝子を誘いトランプをしようと言い出した。一時間程トランプをすると、鏡花と乃木と朝日は自分の部屋に戻り、孝子は台所へ行き明日の朝食の下ごしらえを始めた。夜は深くなり、住人は皆寝静まった。
ゴソゴソ、ゴソゴソ
「こんな時間に何をなされているんですか?」
「はっ!?」
「みなさん、集まってください」複数の足音があつまる。
「な、なんで、ここに」
「お教えします。私が呼んだからです」
「そんな、広間はずっと監視していたし、誰も通らなかったはず」
「ええ、なぜなら夕食後には既にみなさんこの隣の部屋に集まってもらっていましたから」
「なんでそんな事を…」
「あなたを罠にはめるためです。そして、見事に私のかけた罠にはまってくれました。そろそろ、正体を暴きましょう。乃木さん、部屋の電気をつけてもらっていいですか?」
「わかりました」
乃木が電気をつけると、そこには見慣れた姿があった。
「もう一度聞きます、あなたはここで何をしているんですか?」