四神の像
「こんな時間に何をしているんですか?孝子さん」
「あら、みなさんどうされたんですか?集られて」
「孝子さんこんなところで何をしていたんですか?答えてください」
「旦那様、そのような顔で見られないで下さい。私は菊池さんの部屋を掃除しようかと」
「なぜこんな時間にしているんですか?」
「そ、それは掃除をするのを忘れていましたので、ふと思い出し掃除をしてたんです」
「孝子さん、もうやめませんか?」
「鏡花ちゃん、何を言っているの?」
「孝子さん、あなたがこの部屋に来るのはわかっていました」
「ど、どういうことかしら?」
「私があなたをここに来るように誘導したからです。あなたは私のかけた罠にかかってくれました。ネズミ捕りのように」
「鏡花ちゃん、さっきから何を言っているのか私にはわからないわ。掃除をしてただけでしょ?いったいどうしたっていうの?」
「私はあなたのこと信じていましたし、犯人でない事を祈っていました。しかし、事件について調べれば調べるほど、孝子さんが怪しくなってきたんです」
「鏡花ちゃんは私が犯人だと言いたいの?」
「はい。その通りです。高山さんを殺害したのは孝子さん、あなたです」
「なんだって!?」そこにいる誰もが驚いた。
「橋爪さんどういう事ですか?」平島が尋ねる。
「これから、事件について私の推理をお聞かせしたいと思います。まず、脅迫状を送った犯人も孝子さんです。孝子さんは一ヶ月前にこの家に勤めることになりました。その時から、計画は始まっていたのだと思います」
「ちょっと待ってくれ橋爪さん、孝子さんの他にも応募してきた人はいたんだぞ。私が孝子さんを雇わなかったらその時点で計画も何も無いんじゃないか?」
「はい、その通りです。ですが秀樹さん、もしかして他の人は採用を辞退したりしませんでしたか?」
「確かに一人採用したが、その女性は辞退したな。その代わりに孝子さんを雇ったんだ」
「やはりそうでしたか。孝子さんは何としてでも使用人としてこの家に潜り込む必要がありました。孝子さんは採用が決まった女性に何か悪い噂のようなものでも流して、採用を辞退するように仕向けたんです」
「そういえば、断りの電話が来た時にそんな事を言っていたな」
「そして、一ヶ月前からこの家の使用人として働くことになったんです。ここまでで何か間違っていることはありますか?」
「間違ってるも何も私はそんな噂流してないわ。採用されたのは偶然よ」
「そうですか。続けますね。孝子さんがこの家にどうしても入り込まなければいけない理由は、脅迫状に書いてあった『ダイジナモノ』に関係してます。それを盗むために大掛かりな計画を立てたんです」
「それって、代々橘家に伝わる『大切なもの』のことなのか?」
「ええ、秀樹さん、その通りです。続きは下の広間で話してもよろしいでしょうか?」
全員で下の広間に降り、鏡花は推理を続けた。
「その『大切なもの』というのは、秀樹さんの曽祖父の代から始まったと思われます」
「私の曽祖父の代から?」
「はい。その『大切なもの』とは、四神の像に関係していると私は考えています。孝子さんも四神が関係していることは気付いていたんではないでしょうか?ですので、脅迫状と一緒に白紙の紙を送られたんだと思います。鎌をかけるという意味で。しかし、残念ながらこの家の人たちでさえも、『大切なもの』について知りませんでした。そこで、自分で謎を解こうと調べているところを高山さんに見つかったのだと思います」
「それで高山君は殺されたのか?」
「恐らくはそうかと思います。高山さんの遺体は足が料理台の方に向いていて、背中には刃を上向きにした包丁が刺さっていました。普通に考えたら不自然ですが、よく考えたらわかりました。孝子さんは前から高山さんに抱きつくようにして刺したんです。包丁の刃を自分の方に向けて、背中を一突にしました。こうすることで、返り血を浴びる心配はありません」
「待ってくれ。孝子さんのアリバイを証明したのは君自身ではないのか?」
「平島警部、その通りですね。ですが、あの時の私は孝子さんを庇うのに必死になりすぎていて、まんまとアリバイを証言してしまったんです」
「どういうことだね?」
「私は孝子さんを守りたいが一心で、その時は気付きませんでした。しかしよく考えたらあのアリバイは不自然でした」
「どこが不自然なんですか?50ページから60ページ読むには一時間近くかかるって言ってたじゃないですか」
「はい。乃木さんの仰る通りです。ですが、よく考えてみてください。私と乃木さんが広間で孝子さんと話した時も孝子さんは本を読み続けていました。現在進行形で読み続けている本に栞なんてしますか?栞は読み終わって、次にどこから読むかを忘れないようにするためのものです」
「トイレに行った時に閉じたんじゃないんですか?」
「乃木さん、それはないと思います。孝子さんが読んでいた本は、読み始めたばかりの新品の本なのに外に広がっていました。それはつまり、孝子さんが本を置いた時、栞を使わず本を開いたまま置いたってことではないでしょうか?孝子さんは誰かが来るのを待って、そう証言させるつもりだったんです」
「鏡花ちゃん、散々な言いようだけど証拠はあるの?」
「それは橘家に伝わる『大切なもの』のことですか?」
「っ!?」
「その反応を見る限り、そのようですね。わかりました。では、この橘家に隠された謎を解き明かしていきましょう」




