解決への糸口
乃木は誰かが扉を叩く音で目を覚ました。
「はい…どちら様ですか?」
「本堂です。十分後に食事の支度ができるので呼びに参りました」
「あ、はい。ありがとうございます」
時刻は朝七時。
「いつもだったら、全然寝てる時間だ…まぁ、人の家だし仕方ないか」
乃木が眠い目を擦りながら外に出ると、同じタイミングで、又、同じように目を擦りながら出てきた鏡花と鉢合わせた。
「おはようございますぅ」まだ眠そうだ。
「橋爪さん、起きてます?」
「はい。起きてますよぉ」
「だめだこりゃ。取り敢えず、顔洗いに行きましょう」
「そうですね」
二階の洗面所で顔を洗い、着替えて広間に行く。すると、既に公子がいた。
「公子さん、おはようございます」
「昨日はあんな事があったけど眠れたかしら?」
「少し寝つけませんでした」人が殺されたのにぐっすり眠れたとは言えず、そう答えた。
「鏡花さんは眠れましたか?」
「はい!」鏡花は元気よく答える。
…………乃木は鏡花の天然さに呆気にとられていた。
「それは良かったわ。お客さんなのにこんな事に巻き込んでしまって本当にごめんなさいね」
「いえ、公子さんのせいじゃないですしお気になさらないでください」
そこに秀樹と朝日がやって来た。
「公子、なんで朝からカーテンなんて閉めてるんだ?」
「それが朝からマスコミの人が押しかけてて、お陰で新聞も取りに行けない有様なのよ」
「もう、マスコミに知られてるのか…」
「なぁ、オヤジ。昨日は高山さんのことで手一杯だったけど、脅迫状の件、警察に言わないのか?高山さんを殺したのはそいつかもしれないんだぜ」
「わかってる。こうなっては全て話すしかあるまい」
食事を済まし、くつろいでいると平島警部がやって来た。
「皆さんおはようございます。昨日は眠れましたかな?」
誰も答えようとしない。
「まぁ、いいです。菊池は昨日から容疑を否認しています。こちらとしては、万年筆が物的証拠となるので時間の問題ですがね」
「聡はどうなるんですか?」
「このまま否認を続けるようでしたら起訴する事になりますね。まぁ、明日にはそうなるかと」
「そんな…」
「我々は菊池が犯人だと睨んでますが、何かお気づきになった事でもあれば言ってください。では、失礼します」
「警部さん」鏡花が平島を呼び止めた。
「橋爪さんでしたね?何か気づいた事でも?」
鏡花は昨日みんなの前で話したことをもう一度説明した。
「そうなんですか。しかし、本堂さんの言う通りトイレに行っている間に広間を通ったんじゃないですか?」
「はい。私も昨日はその可能性もあると言いました」
「でしたら、それは決定的な証拠にはならない、そうですよね?」
「はい。しかし、考えて見てください。もし、菊池さんがその行動をしたならば不自然なんです」
「何がですか?」
「だって、そうではないですか。孝子さんがトイレに行ったのは偶然ですよ?もしかしたら、行かなかったかもしれない。孝子さんが席を外すかどうかなんて菊池さんにはわかりませんし、席を外すのをずっと待っていたなんてあり得ないと思います」
「それは、偶然だろう。たまたま、孝子さんがいない時に菊池が通ったんだ」
「偶然なのはそれだけではありません。仮に広間を通り抜けられたとします。しかしながら、高山さんが台所に居たのも偶然なのではないですか?殺害する計画を立てていたならば、偶然が多すぎます。私には失敗する確率の方が高いように感じます」
「だが、菊池の万年筆が現場に落ちていたんだ。それはどう説明する?」
「誰かが、菊池さんに罪を着せるためにわざと置いたのかもしれません」
「なるほどなるほど。面白い推理だが現実の事件はそんなうまく出来ていないんだよ。餅は餅屋と言うだろう。プロに任せなさい」
鏡花は呆れたような顔をしていた。
「警部さん、私も話したいことがあります」
「ほう、なんですかな?」
「少しお待ちください。みんな、後は私に任せて席を外してくれ」秀樹を広間に残し、それぞれ部屋に戻った。
「乃木さん」
「何ですか?部屋、戻らないんですか?」
「まだ、戻れません。確かめなければならないことがあるので。ついて来てもらっていいですか?」
「ええ、わかりました。でも、どこへ行くんです?」
「まだ謎が残っています」
「謎ですか?」
「ええ、昨日調べ損ねた像です」
「あ、忘れていました」
「白虎の像は台所側の扉の先ですね」
台所を通り過ぎ、一本道を進むと行き止まりに何かがあるのが分かった。
「少し暗いですね。乃木さん、携帯で照らしてもらっていいですか?」
「はい」乃木は携帯のライトを当てた。
「白虎ですね。白い体に黒い線が所々入ったデザインになっていますね」
「でも、他の像と一緒で特に変わったところは無さそうですね。そういえば、玄武の像の場所は知ってるんですか?」
「そこは抜かりありません、昨日のうちに公子さんに聞いておきました」
「仕事が早いですね」
「いえいえ、では、玄武の像がある場所に行きましょうか」
「どこにあるんですか?」
「菊池さんの部屋らしいです。菊池さんは今いないので調べるなら今しかないかと」
「なんか申し訳ない気がしますね」
「仕方のないことです。これで何かわかれば、寧ろ菊池さんの助けになるかもしれないんですから」
広間では秀樹が平島警部に脅迫状を見せていた。その横を通り、二階へ行く。
「菊池さんの部屋はここですね。俺の部屋の二つ隣だったんですね。気付かなかった…失礼します」
菊池の部屋は殺風景で、机の上には小説に使うと思われる原稿用紙などが広がっていた。
「あ、乃木さん、有りましたよ玄武の像が」
「本当ですね。これは茶色の亀ですかね?」
「玄武は亀の甲羅に蛇が巻きついたものですが、やはり一番面白いですね」
「わかります。龍に鳥に虎と来て亀ですからね。なんか、文字からも想像しづらいですし」
「確かになにか合ってない気もしますしね」
「俺の中では面白いですけど、一番微妙ですね。その何か合っていないっていうのもわかります」
「合ってない…?」
「ええ、合ってない感じがします。どうかしましたか?」
「なぜ私は気がつかなかったのでしょうか!?」
「え、いきなりどうしたんです?」
「もしかしたら、わかってしまったかもしれません。この家に代々伝わる謎の答えが。それに、これは真犯人を捕まえるのに使えるかもしれませんね」
「まさか、真犯人がわかったんですか!?」
「おおよその予想はついています。後は証拠を手に入れるだけです」




