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ルエルが倒れている。
どうしてだ?
分からない。
今、俺は何をしている?
ボーっと突っ立っている。
周りの人々は?
混乱して戸惑っている。
やるべきことは?
それは――。
「救急車を呼べ!」
「救急車なんてあるわけないでしょ!」
そりゃそうだ。
機械なんてものが無いからな。
「助けを呼んでくるから、あんたはルエルを何とかしときなさい!」
そんな無茶な。
――と思っている間にもういなくなっている。
仕方がない。
とりあえずルエルの身体を調べる。
先ほどまで痙攣していたルエルの身体は、既に動かなくなっていた。
いや、胸のあたりはかすかに動いている。
どうやら息はしているようだ。
「ルエルさん、大丈夫ですか⁉ しっかりしてください!!」
身体を軽くゆすりながら声をかけてみるが、返事は無い。
意識を取り戻すまで、どこか安静にできる所へ運ばなければ。
どこか休めそうなところは……。
「貴様、この騒ぎは何だ!!」
うわ、後ろから何ともやばそうな声が――。
「聞こえているのか!!」
「は、はい! 聞こえてます!!」
ひとまず両手を上げて振り返る。
そこには鬼のような形相を浮かべた筋肉ムキムキのおっさんが……。
ん?
「何だ? 何か言いたいことがあるのか?」
すらっとした長い足に、細マッチョとでも呼ばれていそうな引き締まった上半身。
狐目であるにも関わらず、それをもカバーする凛々しい顔つき。
軍隊帽のようなものを被っていることもあり、さらに凛々しさに磨きがかかっている、
そして、俺はこいつのことを知っている。
だが、思い出せない。
「ちょっとちょっと、そこで揉めないでよ!! ルエルの方が先決でしょ」
優香がこいつを連れてきたのか。
さすがだな、元の世界の知人を見つけてくるとは。
「失礼した。君がルエル様を介抱してくれていたのだな」
「ま、まぁ……」
突然現れたイケメンと共に、広場の隅にあるベンチへとルエルを運ぶ。
「近くにあんたがいて助かったわ」
「いや、私がしたことはほんのわずかだ。二人共、手伝ってくれてありがとう。そして君、先程の非礼を詫びよう。すまなかった」
なんだ、この感覚は。
こいつはまるで俺と初対面であるかのように話をしてくる。
おかしい。
俺はこいつを知っているはずだ。
それもごく身近な――。
くそっ、あと少しのところで思い出せない。
「おっと、自己紹介がまだだったな」
気を使ってか、イケメンが帽子を脱いだ。
――瞬間、突然の光に目の前が真っ白になった。
時が経つにつれ、目が光に慣れてくる。
やっとイケメンが目視できたかと思うと、イケメンがつるつるのスキンヘッドになっていた。
思い出した。
イケメン僧侶だ。
名前は確か……。
「私の名前は光院正人。君達と同じ異世界出身で、今はルエル様の屋敷で用心棒として住まわせていただいている」
そう、光院正人。
道理で身近な存在だと思うはずだ。
こいつは、俺達の通っていた学校の風紀委員長だ。
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Memo
・ルエルが何者かによって急襲された。
・駆けつけたルエルの用心棒は光院正人だった。
・光院正人は元の世界では風紀委員長だった。
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