78、領主様との相談
まずは姉さんに王女様の件とヴァルツァー五爵の件を伝えた。
「それは対策をとらないと不味いわね」
と、姉さんからの返答。
王女様に関しては公言すべき事案では無い為パーティー内でのみ情報を共有し、他には漏らさない方向で行くしかない。
どうせ狙われるのは僕、そして……もしかしたら姉さんも? 位しか襲われる可能性が無いからだ。
普通に移動してくるなら十km先の段階から察知できるので問題は無く、転移に関しては油断しないでおく事と対抗策を用意しておく他に方法は無い。
ヴァルツァー五爵に関しては大々的に、かつ相手に知られ無い様に動く必要があるだろう。
理想としては王都にしばらく使用できる屋敷を用意して貰い、使用人も含めて全員で避難した方が良いだろう。
そして、エルナリアの屋敷には僕達と王国軍の方に詰めて貰い、襲撃してきた場合は撃破する方向で検討していく。
「そうね。闇雲に王国軍が動くよりも、領主館にある程度の人数を割いて貰った方が良いと思うわ。私達だけで待ち伏せても良いけど、人数が少ない事が向こうにバレるのは警戒されて逃げられる可能性が高くなるからお勧めはできないわね」
と言う姉さんの同意も得られたので、今日の午後にこちらの要望を伝えに行く際の方針に組み込んでおこう。
基本的な方針は決まったので、当事者である領主様……エルナリア六爵の所へ報告と相談をする為に午後の早めの時間に訪問した。
午後である理由は、姉さんの話だと午前中は大抵忙しいという事に対する配慮だ。
そして、今回の件は僕と姉さんの二人で動く事にしていた。
領主様の所と王城を何度か移動するために……正直な所、ゲルボド辺りが飽きそうなのが主な理由だ。
一応、お嬢様の護衛という名目で置いて来てるんだけどね。
◇ ◇ ◇
領主館に着いて取り次ぎをお願いすると、領主様は屋敷でお仕事をしていたのですぐに面会を受けて貰えた。
執事の方に案内されると、
「ようこそ、二人とも。何か至急の用件があるとか。二人揃って……と言う事は、結構な大事かね?」
領主様は開口一番にそう言った。
「そうですね。あまり良い状況とは言えません」
姉さんがそう言うと、領主様も真剣な表情で続きを促してきた。
僕は、まずヴァルツァー五爵についての王城で聞いた内容を説明した。
「そこまで用意周到に逃げる準備をされていたのではどうしようもないな。そうなると、考えられる行動は二つ……国外へ逃げるか……ここへ報復に来るか、かな?」
僕達に同意を求める形で言葉を区切ったので、
「はい。どちらにしても恨みを買っているのは確かです……逆恨みとしか言いようがありませんが。それで、こちらに来るにしても国外へ逃げたにしても、安全だと判断が出来るまではこのお屋敷から避難して頂きたくて相談に来ました」
そう、僕が返事をした。
領主様が少し考え込むような雰囲気を見せたので、僕と姉さんはしばらく待つ。
「避難する……と言っても、少しの間逃げ出してどうにかなる問題ではないと思うのだが、解決策はあるのかね?」
「まずは領主様の考えを確認してから決める方針なので先に説明に来たのですが、しばらく王都へ避難して頂こうと思います。必要な物は国の方である程度融通して頂けるようなので、こちらのお屋敷の代わりに使える物を用意して頂いて全員移動が望ましいですね。そして、こちらへは僕達と王都軍の方を派遣して貰ってしばらく様子を見る方向でどうでしょうか?」
僕の答えにハッとした表情を浮かべ、
「それは、迷宮経由で全員移動させるつもりなのかね?」
そう聞いてきた。
僕は元々そのつもりだったのだが、領主様にすれば秘匿すべき事項だと考えていたらしいので考慮してなかった様だ。
「この状況を有効に使う為にはそれが一番だと思います。あくまでこの後に王城で相談した結果になりますが、王都にこのお屋敷の代わりを用意して貰い、現在ミルロード卿の所に置いてある扉をそちらへ移します。その上で全員に移動して貰い、こちらへは僕達と王国軍の方が待機して襲撃を待ちます」
僕がそう告げると、
「本来、今回の件は私とヴァルツァー五爵との問題。一応は領主という私の立場からすると、これ以上君達に迷惑をかける訳にはいかないと言う返答をしなくてはならないだろうな。今更な気はするが、それが貴族としての常識というものらしいからな。もし力を借りるならば、それ相応の報酬が必要となるだろう。しかし今の君達に対して十分な報酬となると……という事になる」
そう、領主様に言われた。
どうも貴族としての矜持だ何だと騒ぐ方が少なからずいる為、国王様にすら知れ渡ってしまった今回の件は多くの貴族様が口を出してくる可能性がある。
冒険者風情に弱みを見せる様な無様な行いをするとは何たる事か……と、とにかく口を挟んで来る輩が多いのだよ。
そう、少し呆れた顔をしながら領主様が説明してくれた。
そこに、それまで黙っていた姉さんが口を開き、
「領主様の言い分は分かりました。それに対するこちらの言い分を伝えさせて頂きます」
そこで一旦区切り、領主様が頷いたのを確認してから続けた。
「報酬……と言う意味では、ある意味で私達は既に頂いております。公に出来る事ではありませんが、五年間のお嬢様に対する婚姻の保留……【竜殺し】になるなどという話しを信じ、そこまで譲歩して頂いているのですから。もっともそれを外部に伝える訳にはいかないので、私達に関しては領主様に断られたのにも関わらず、師匠を守るという名目で強引に参加させて貰った……と言う事にしましょう」
「確かにそれならば問題にはならぬな。エル殿とクレリアが師弟関係である事を明言し、それを前面に出してしまえば口を出せる者はおるまい」
姉さんの発言に領主様が答えたが、姉さんからは更に続きもある様だ。
「まぁ、建前としてはそう言う事で。実際の所、領主様に死なれるのは色々困ります。お嬢様が悲しむ上、ルークとの関係を認めてくれる相手が居なくなります。まず、お嬢様の後継人となる方では話が通じないでしょうからね」
姉さんがそう言うと、
「ハハハッ。流石はエル殿だ。痛い所を容赦も躊躇も無く突いてくる。確かに二人の結婚を見届けるまでは責任を持って生きねばならんな」
そう言いながら、いつまでも笑っていた……。
有り難い事ではあるのだが……知らぬ仲では無い領主様とはいえ、貴族様相手にマイペースで話をする姉さんに愕然としてしまった。
僕には絶対に無理だ!
領主様との相談は進み、王都での準備が出来次第扉を移動させて移動する事で合意。
その際に、使用人の方達には外部が見えない小型の乗り物を用意して移動させる方向になった。
経路や方法を知らせないままで行く事が出来るので、情報拡散のリスクが若干だが減るからだそうだ。
移動の際にはマスター用の転移扉を通る為、その大きさに合わせた人力車の様な物を作ってゴーレムに引かせる予定でいるとの事。
僕が以前、蟻の巣殲滅前に一人で荷物を届けた事があったのだが、その時使った荷車の様に重量を軽減かつ衝撃を吸収する仕様で作成すると姉さんが言っているので任せよう。
領主様の仕事に関しては出来るだけ王都で事務処理をメインに行って貰い、直接行く必要がある物に関しては代役をたてる方向で行う。
基本的に代役の方には姉さんが同行する事にした。
僕だと王女様の関係で、二重の面倒が同時に発生する可能性があるからだ。
もし王都で都合の良いお屋敷が用意出来ないと言われた場合は、ミルロード邸にしばらく厄介になるので伝えておいて欲しいと言われた。
ミルロード卿なら嫌と言うとは思えないので問題はないだろう。
こちらのお屋敷には姉さんが色々仕掛けをする事を許可して貰った。
主に防御機構と対侵入者用のトラップだ。
ここに仕掛けるトラップは、基本的にキーワード式の通常時の活動には何の問題も無い物を用意するとの事。
主に拘束用ネットや粘着性の行動阻害弾発射装置等だ。
室内の貴重品は《アイテム》経由で全て避難させ、違和感が無い様に姉さんが《錬金術》を駆使して模造品を作成して飾っておく。
取り敢えず、今決められるのはそんなものかな?
では次に王城での話し合いと行きましょう。
今回の場合、交渉事が下手だ何だと言ってる場合では無いのだ!
領主様の為、そしてお嬢様の為にもここは気張って行きましょう!!




