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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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77、二つの面倒事

 メリルリアナ様の件での追加情報としては……結構面倒な事を仕出かしてくれたらしい。


「迷宮を持つ老魔術師を捕えたのはルーク君達だと思うのだが、その点は間違いないかね?」


国王様がそう言ったので、僕は肯定する。


「その老魔術師はヴァルツァー五爵に絡む事を全て引き出した上で地下の監獄へ入れてあったのだが、メリルリアナが持ち出した宝珠の力で現在は傀儡と化して同行中だ。元々現在は思考力など無い状態だった為、完全に支配されている状態となっている」


と、アレスクルト様からとんでもない情報が……。


 老魔術師は迷宮を持っている。

あの迷宮は自動追尾型では無いはずだが、それが逆に面倒な事になりそうだ。

自動追尾型の移動は自分の視界内とその上下だけ。

それ以外の位置にはほとんど動けない。


 自動追尾型以外の迷宮は自分の居る位置に呼ぶ為の消費MPは高いのだが、その後の移動自体はその迷宮の特色によって千差万別。

迷宮の移動に任せるだけで、既に追いかけられない位置に居る可能性の方が高い。


 唯一の救いは、王家の者にかけられた守護の印を逆に察知する事が出来る魔法具の存在だろうか。

この印は王家の上位継承者のみに生まれた時にかけられる祝福で、身を守る障壁を発すると共に専用の魔法具である程度の距離から位置を特定できる。

その効果範囲は約十kmとの事。


 本来は継承権を持つ者の救出等を目的とした探査用魔法具なのだが、今回は近寄られる前に察知する為に役に立つであろうとの事。

製作には相当な手間がかかる為、現在僕に渡せる数は二個。

出来るだけ早いうちに頑張ってもう少し渡せる様に努力はさせるとの事なので、こればっかりは口を出しても仕方が無いだろう。


 そして、厄介ごとには続きがあった。

以前から進めていた、ヴァルツァー五爵に関する作戦が遂に実行されたらしい。

裏で関連していた貴族や商人の大半は確保、又は粛清に成功したとの事。

ただし、本命である五爵を含めた直属部隊が全員行方を眩ませたらしい。

どうやら事前に相当念入りに脱出手段を用意していたらしく、事前に情報が漏れた形跡は無いのにまんまと逃げられた様だ。


 流石にこれは不味い状況だと言える……。

国外へ逃亡しているのならばその方がマシと言う状況に、僕は流石に沈黙してしまった。

今回の件でヴァルツァー五爵が報復する相手は誰か?

当然、エルナリア六爵が第一候補としか考えられない。

王都にいるお嬢様にもその危険が及ぶ可能性はある。

これは、十分に対策を練らなくてはならないだろう。


 少しだけ考え込んでしまったが流石に王国側の不手際だと認識しているらしく、国王様もアレスクルト様も特に何も言わずに待ってくれていた様だ。


「王国側でも追跡を続けているが、忽然と消えてしまったその二組を探す手段は今の所無いのが現状なのだよ」


僕が顔を上げたのを確認して、国王様がそう言った。


 因みに、一応王女様の狙いが僕では無く、勇者様の元へ行く可能性は? と聞いてみたが……まず無いだろうとの事。

逃走した理由が《勇者狂信者》と言う特殊情報の変化を発見された事が切っ掛けらしく、僕への怨嗟の言葉を吐きながら逃げ出したらしいのだ……。

確かに、僕以外は可能性が薄過ぎる様だ。


 しかも、特定の相手を探し出す魔法具も持ち出されているらしく、王女様は迷う事無く僕を探せるらしい。

《勇者狂信者》は別に見境なく狂って居いる訳では無く、勇者の敵対者に対してだけ狂っているので、勇者様が守っている一般市民に手を出す事は無いとの事。

更には、僕の仲間にすら向こうからは手を出しては来ないようだ。

偽勇者に騙されている哀れな者達を救済するのも自分の務め……そう言う事らしい。


 僕のせいで周りの人に迷惑がかからないのは喜ばしい事だが、名前を騙った訳でも無いのに偽物扱いされて狙われる事には正直納得は出来ない事も事実だ。

その点では恐ろしくテンションが下がって行くのが実感できた……。


 まぁ、王女様の件は僕以外に関係しないのならば、後はヴァルツァー五爵に関してだけ対策が必要になる訳だが、王都に居るお嬢様に関してはそれ程大人数を差し向ける事は出来無い可能性が高い。

姉さんが渡してある、魔素が供給される《アースシールド》用魔法具さえあれば危険は少ないとは思うが……しかし、過信は出来ないので当然心配ではある。


 これは、エルナリア六爵の事も含めて皆と相談かな。

そう、僕の中で方向が決まった所に、


「当然こちらで用意出来る物は準備させるので、遠慮なく言って欲しい」


との国王様からの御言葉。


 王都に避難場所を確保出来れば、そこにエルナリア邸の人間全員で移動も有りか……。

そして、逆にエルナリア邸に王都軍の方を常駐して貰って迎え撃つ……、これも有りだな。

そこら辺も含めて帰ったら相談しよう。


 こうして、権力者から隠れようという当初の目的とは裏腹に、この国の最高権力者にまでお会いしてしまった……。

世の中、上手くは行かない物です。

まぁ、自業自得な点は多数あるのだが!




 ◇ ◇ ◇




 ミルロード邸に戻るとお嬢様に抱っこされたリーナがウトウトしており、見た目が子供版の姉さんである為に全く危機感の無い扱いを受けていた。


 姉さんには色々確認する事があるので、敢えて部屋には入らずに《通話》で会話する。


『姉さん、流石に色々確認しておきたいんだけど、良い?』


僕がそう確認を取ると、


『良いわよ。何でも聞いて頂戴』


との返事が。



 まずはリーナの事を聞いた所、リーナの無敵の耐性の秘密を調べておきたかった事が全ての原因であったとの事。

自分の迷宮内でなら、もしかしたら《迷宮の虜》が効く可能性を考えて《アイテム》から出した所、ちょっとした不注意で情報をコピーされてしまったらしい。

コピーされた状況の説明は僕の追及をことごとくスルーして行き、結局謎のまま終わった。


 情報のコピーはされたものの《迷宮の虜》状態にする事が出来た為にしばらく様子を見ていたらしいのだが、気が付くと今の姿になって居たとの事。


 カオススライムの能力をある程度保有しつつ、姉さんの情報とスキルをコピーした恐ろしい存在として生まれ変わり、種族も粘性人と言う特殊な人としての立場になってしまった事から、今後は娘として育てるとの事……。

いや! 娘としてじゃなくていいと思うのですが!!


 まぁ、そこに拘っても仕方が無いのでスルーしておく。

そして、無敵の理由が判明したとの事なので聞いてみた所、あれは《混沌の結晶》自体の特性との事。


 カオススライムは黒っぽい外側のゼリー状の部分と、混沌とした色合いで動き続ける六色の内部で構成されていた。

これを破壊する為には一定以上の威力を持った攻撃で、内部の色は対応した魔法で全てを打消し、外部ゼリーを物理攻撃で破壊、更に精神系攻撃まで使う事でようやく完全に死に至る。

問題は……これを全てほぼ同時に行う必要があるらしい。

何……その無茶な条件は!


 そのカオススライムの無敵ぶりには理由があり、魔送石と同じ様に空間を隔てた場所からエネルギーを吸収できるとの事。

どの程度のどんなエネルギーが吸収されていたのかは不明らしいが、この能力と超復元能力を有した《混沌の結晶》によってあの状態だったらしい。


 何故吸収していたエネルギーが不明なのかと言うと、現在は魔素を常に供給して居る為に既にそのルートが停止しているとの事。

そして、ここで重要な事が一つ、粘性人の状態では超復元能力は使用できないらしい。


 《混沌の結晶》と言う名前とは裏腹にカオススライム状態では結晶化しておらず、全体に粒子化して分散して居る事で全滅を抑えている。

しかし、粘性人の状態になると結晶化して心臓部になる為に破壊が可能との事。

肉体構造はスライムの特性を残している為に僕達とは違うが、それでも人の分類として数えられる所まで変化しているらしいので……要は、無茶をしたら普通に死ぬ訳だ。


 見ている限り危険も無い様だし、そもそも姉さんの記憶を読み取り、スキルも完全にコピーしているらしいから、知識や能力に関しては申し分ないのだろう。

今後どう扱うつもりなのかは判らないが、僕が口を出さなくても姉さんがしっかりと決めて行くはず。

それならば、僕は王女様とヴァルツァー五爵の件に集中させて貰うとしましょうかね。

色々とやる必要のある事が多くなりそうです……。

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