53、巣の現状
迷宮へ入るとゲルボドとミラが休んでいた。
部屋の片隅には予想通り、山の様に蟻の魔法核である角が積んである。
「ただいま。僕が居ない間に結構倒した様だけど、何か特別なことはあった?」
僕がそう言うと、
「オカエリシャ――――! 特に何も無かったシャ――――!!」
「お帰りなさい、ルークお兄ちゃん。中の蟻は沢山迷宮に入ったり出たりしていますが、外から帰って来る蟻はもう殆ど居ないみたいです」
どうやら外の蟻の死体は誘き寄せる餌らしく、戻って来るとあの周りに溜まるらしいので時々様子を見て倒すらしい。
それにしても……どうやら倒した数はざっと見で軽く三百を超えている様で、ミラのステータスを確認するとレベルが25になっていた……流石にやりすぎだろう!
まぁ、確かに老魔術師の迷宮と変わらない強さの魔物を二人でこれだけ倒せばそうなるのも理解は出来るのだが、良く無事で済んだものだ。
「まだ巣の中の蟻は多そう?」
僕がそう聞くと、
「迷宮に入って来る数は結構居ますが、魔物を狩ってすぐに出て行きますので一気に大量に見る事は無いですね」
「そう言えば、迷宮の魔物の湧きが少し鈍くなってる気がするシャ――――!」
迷宮の魔物の湧きが遅くなっているのか……。
理由は何だろう?
魔物は迷宮が吸収した魔法物質を使用して育成されるらしい。
成長速度が狩られる速度に追いついていない事が一番に考えられる。
他に何か可能性は……思いつかない、かな。
そこで、姉さんの方が迷宮の事を色々試して知っているので念の為に相談してみた。
その答えは、
『ん~。それ、迷宮で外部と巣が遮断されているから、魔法物質濃度が低下してるんじゃない? どうも迷宮の扉は裏側から吸収しないらしいし。後、その状況なら早く女王を倒すか、一時的に迷宮を移動させて魔法物質濃度を上げてあげないと蟻が何をするかわからないかも。横穴位は掘るかもしれないわね、苦しくて』
あ~、その可能性があるのか。
魔物は魔法物質がある程度無いと生きられない。
亜人タイプ等の魔法物質蓄積型ならそれなりに生きられるらしいが、この蟻の様に魔法物質燃焼型は人間の呼吸と同じ様に吸収と消費をしている。
迷宮の魔法濃度は内部で通常の五割まで低下、外部に至っては三割まで低下するらしい。
どうやら五割は生息可能、三割は不可能らしく、迷宮の近くには魔物は近寄れないし出て行けないのだ。
ここに迷宮を置いて二日。
魔法物質の低下は進んでいるはずだ。
『ルークの迷宮レベルが上がっていれば、魔法物質を一気に消費してしまうのも手なんだけどねぇ』
老魔術師が迷宮の構造を変化させた際に魔法物質が低下していた事と同じ事を、もっと派手にやれば一気に下がるらしい。
しかし、無いものねだりは意味が無い。
まずは蟻の行動に変化があるかを確認して、今度は僕達が巣の方へ探索に出る事になった。
◇ ◇ ◇
今は既に夕暮れ時なのだが、僕のMPがほぼ残っているので少し探索する事にした。
いきなり迷宮から巣の奥へ移動すると迷宮から出てきた蟻に挟まれる可能性がある。
そこで、まずは巣の方へ出て、そこからすぐに迷宮内部へ入った。
中には、魔獣を狩って肉団子にしている最中の蟻が五匹程見える。
ゲルボドがまずは呪文詠唱。
ミラは、ほんの少しだけ時間をズラして詠唱を始める。
僕もそれに続いて《魔術師魔法(異世界)》の呪文を使う。
どうやらゲルボドとミラは、ここまでの戦いの過程で蟻と戦うパターンを作っている感じなので、下手に《ショートカット》からの無詠唱魔法で先に攻撃してしまうのは控えておいた方がいいだろう。
同時に、僕の《魔術師魔法(異世界)》の熟練度を上げるのにも役に立つので都合が良い。
ゲルボドによる氷系の範囲魔法が敵を包み、そこにミラの単体魔法、続けて僕の魔法が発動する。
ゲルボドが前へ進み、盾と剣を駆使しながら躱し、受け流し、隙を見つけた時だけ脚の関節部と頭部に攻撃する。
この蟻達は突進を行わないらしく、一番前の脚と頭部の角を上下に振る様な攻撃を行っている。
理由は、ゲルボドからは何というか……微妙な匂いがする。
腰から袋をぶら下げているのだが、これが蟻の頭部にある体液を染み込ませた物らしい。
これが、突進を封じている原因との事だ。
どうやら通常の体液だと敵だと認識されるだけなのだが、頭部のどこかに別の匂いが含まれた物質が存在するらしく、これを持っていると蟻が凶暴化して攻撃パターンが乏しくなるらしい。
威力自体は上がるのだが大振りになり、突進しない為に狭い範囲でお互いに邪魔すらしている。
回避と受け流しのプロであるゲルボドにとっては、絶好のカモと化していた。
ミラは周囲の警戒と弓&魔法で攻撃する事で実に安定した狩りになっている。
確かにこれは、ゲルボドにとっては余裕の戦いだな。
敵の数が多いと、結局はお互いの邪魔をしてしまうので攻撃回数がそれ程変わって居ない。
魔獣人戦等を見ていても、実に素晴らしい集中力を維持して回避し続けていた。
この方法が使えるのならばこの先もある程度楽に戦えるだろう。
さて、僕も自分の仕事を頑張って行きましょうか。
◇ ◇ ◇
五匹の蟻が相手でも、実に余裕がある戦いだった。
僕はここぞとばかりに、ゲルボドから得た系統の魔法を使いまくる。
ゲルボドの使用する魔法は、何故か《ショートカット》に対応して居ない。
熟練度を上げる為には、とにかく詠唱出来る時に使いまくる必要があるのでこれはチャンスだ。
呪文を完成させたらそのまま何回か脚の関節部を切り、また呪文の詠唱を繰り返すが一向にこちらへ注意を向けないのだ。
本当にただの動く的になってくれているので、僕は容赦なく攻撃し続けていると動ける奴が居なくなった。
「こんな感じで戦ってたシャ――――!」
ゲルボドがそう言い、ミラも微笑みながら頷いた。
蟻の死体はそのまま《アイテム》へ収納し、まずは迷宮の奥を確認する。
奥の方にもまだ数匹居たので順次殲滅していくと、蟻以外の魔獣だけしか居なくなった。
一応、奥を確認したが、確かに迷宮の魔獣の数が少ない。
蟻の数を考えたらこの迷宮の魔物を根こそぎ狩られても不思議は無いので、今の所少なくなった理由は確定出来ない。
巣の方へ行ってから、様子を見て結論を出そう。
本格的な探索は明日するとして、一応巣に居る蟻の挙動を知りたいので進んで見る事にした。
少し進んだ段階で数回の遭遇をしたが、結果としては……行動がおかしかった。
まず、基本的にフラフラしているのだ。
真っすぐ進める個体が少ない。
加えて、死んでは居ないが動けない個体も多いのだ。
これは……姉さんの予想が当たってるのかな?
壁を掘っている個体も居るが、本来は集団で掘りながら、交代で掘った部分の破片を片付けながら行う。
一匹でどうこう出来る訳は無い。
取り敢えず、これは少し予定を変更して進んでみた方が良いかな。
「ゲルボド、魔法の使用回数的には余裕はある?」
「シャ――――? 《魔術師魔法》は多少使っているシャ――――! でも、他の魔法は殆ど残っているシャ――――!」
それなら大丈夫かな。
ミラは結構魔法を使って居るが、予想通りならこの先は余りまともな敵が居ない可能性が高い。
弓をメインに戦って貰う方向で行く。
……このまま順調に終わってくれる事を祈ろう……。




