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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第三章
57/111

54、巣の探索

 巣の中は中々酷い状態だった。

まともに動ける個体が少ない為、進行自体は余裕と言える。

進むに当たって問題になるのは、数がそれなりに居る蟻を放置できない事だ。

まともな行動をして居ないとはいえ、いきなり襲い掛かってくる個体も少なくない。

加えて、最終的に放置できない魔物だ。

全て狩っておいた方が、手間の点でも結局は楽という事になる。

その為、次々と殺しながら進んで行く事になった。

唯一の救いは、死体を《アイテム》に即投入するので後始末が楽な事位かな。


 暴走している個体は突然突進もするのだが、真っ直ぐ進んでこないでフラフラする上、単発なので特に脅威にはならない。

通路が狭いので回避では無く、受け流す事になるのだが……すぐにフラついて体勢を崩す奴が多い。

そんな感じで蟻が色々と弱体化しているので、進行自体は手間取る事があるだけで脅威はない。

むしろこの現状ならば、環境の方に注意した方が良いだろう。


 当然だが巣の中は真っ暗だ。

僕やミラは一応見える事は見える……が、パーティー全体でに考えたらこの状態は結構厳しい。

《暗視》は相手の熱等を見ているらしいので問題なく確認でき、周囲の壁には蟻が強度補強に何らかの補強剤を使用しているらしく、僅かながら熱を発して居る為に《暗視》で認識できる……らしい。

正直、姉さんの前世の記憶を元にしているので完全に理解が出来てはいないが、赤外線が云々と色々書いてあったので……まぁ、そんな感じらしい。

そこで、問題となるのはゲルボドだった。

においと音である程度は戦えるが、確実に被弾は増えるとの事。

灯りを点けない有意性は無いので、現在は魔法によって明るくしている。


 流石にあれだけ大きな蟻が行き来する為の通路なのでそれなりに太い通路が続いているのだが、足元が平らでは無いので人間が戦うには少し厳しいと言えば厳しい。

極端に言えば、下側に若干たるんで膨らんだチューブの中を進んでいる感じだ。


 移動の隊列は一番がゲルボド、二番がミラ、後方からの襲撃に備えて僕が最後で一列に進んでいる。

一人ならば足場にそこまでの影響は無いので、進む際はなんとかなる。

戦闘では二人並ぶとお互いに回避の邪魔になりそうだったので、まずはミラと僕が場所を入れ替わり、ゲルボドが隙を見て敵の裏側に回る事で、挟む様にして戦う方が効率が良さそうなので採用している。


 後、問題になるとしたら呼吸に関してだが、特に違和感は無い。

空気が澄んでいるとは言わないが、淀んだ感じは無い。

これに関しては蟻が何らかの手段を講じているらしい。

過去に見つかった巣でも確認されているらしいが、通路に塗布された補強剤が魔法物質と反応しながら空気の浄化を行うとの事。

この際に発する熱が、おそらく先程の《暗視》で見えたものだろう。

これは役に立つ可能性があるので、塗布する前の物が手に入らないかな……とは思うのだが、何がその素材なのか僕には判らない。

死体自体は確保しているので、解りそうな人に任せて結果が出ないなら終了かな。




 ◇ ◇ ◇




 時々脇道があるが、基本的には二十m位先に何らかの目的の小部屋があるだけで、迷路の様に入り組んではいない。

分かれ道があれば部屋を選んで中を確認し、部屋の中を確認しながら対処していく。

部屋の用途は、餌の集積場所と卵や幼虫の保管場所、そして何か良く解らない素材置き場になっていた。

餌は相当減っているが残ってはいた。

もっとも、巣がこの現状ではまともに食事を摂っているのかは怪しい。

しかし、迷宮から餌を持ち出している個体もまだいた事から、ある程度は刻み込まれた行動を行い続けている個体も存在すると思われる。

そうなると、食事位は生存本能から来る欲求で行っていてもおかしくは無い気がする。


 確認をしてみると、卵は生きてはいたが幼虫はそのほとんどが死んでいた。

世話をする個体が暴走したのだろう。

または、魔法物質濃度の低下による影響で、まだ出来上がって居ない身体では耐えられなかったのかもしれない。

既に身体は溶けている状態で、僅かに硬い部分だけが無残に残っていた。


 卵は死んでいない為に《アイテム》に入れる事が出来ないのだが、これをどうこうするのは面倒すぎるので後回しにする。

ミラに場所を覚えて貰い、後で処理する事にしたが問題は無いだろう。

正直な所、このまま生きて居る状態ならば食用としても使える。

姉さんは虫系の素材を苦手としているが、農村では普通に食べる人が多い。

もっとも、食べられる種類が限定されているので食用とされる事は少ない。

成虫や地上で生活する幼虫などは外骨格や外皮が邪魔であまり食用に向かない。

食べるなら土中や日の当たらない生活をしている幼虫や卵に限られるため、探しても労力に見合った量が確保できない事が食卓に上がらない理由だ。

一般的には蜂の巣を収穫した際に、その中に居る幼虫を食べる事が多い位かな。


 因みに姉さんの知識にある、バッタ等の外皮があまり硬くない種類を佃煮と言う手法で調理してみた事もあったが、こちらの世界の昆虫では食べ物と言えるレベルでは無い物になってしまった。

思い出すのも嫌なので、その話はここまでで……。

とにかく、卵のまま持ち帰れたら食べてみよう。

楽しみが増えました。



 

 ◇ ◇ ◇




 巣の構造は、基本的に螺旋状らしい。

常に右側へと緩やかに曲がっている。

途中に居る蟻は全て殲滅しているのだが、姿が違う蟻が出現しだした。

名称はワーカーアント。

スピアアントと同じ位置に角はあるが、長さは五cm程度。

一番前にある脚はツルハシ状に肥大し、通常の蟻の外骨格より硬質化が進んでいる。

真ん中の脚は先がスコップの様に平たく、これも硬くなっていた。


 これにより、スピアアントが種族名なのか、兵隊蟻としての名称なのかが不明になった。

同じ女王蟻から生まれるのか、それとも複数の種類の蟻が共同で生活しているのかも分からないので結論は出せない。

予想としては、同じ女王から分化して生まれていると思えるのだが……。

本来この大陸に殆ど居ない上、巣の討伐に参加した人が鑑定系スキルを持っていない事も多いだろうし、角が未発達な奴も居る程度の認識しか持たなかったのかもしれない。

それに《識別》持ちが居たとしても、この情報に若干怪しい所が存在する事も困る点ではある。

例えば、初めて僕が《識別》を使った際には、


人間:男 レベル15

冒険者登録:有

特殊情報:《女神の加護(亜種)》《???》


と、見えた。

しかし、それ以降は冒険者登録なんて項目を見た事が無い。

今の僕自身もそうだし、ゲルボド達を見ても無い。

本当に謎の表記だと言える……。


 まぁ、役には立つので気にしても仕方が無い。

違うタイプの蟻が出たら、しっかりと相手の出方を見極める事を心掛ける。

それしかないな。




 ◇ ◇ ◇




 巣に潜ってから既に六時間が経過している。

一旦切り上げる事も考えたが、ここまで来てしまった以上……行ける所まで進むしかない状況になってしまって居る。

女王がどんな状況なのかにもよるが、ほぼ制圧したも同然なので……明日まで放置して悪化する可能性を残すよりも終わらせてしまいたい。

幸い蟻との戦いには殆ど魔法が必要ないので、多少はまともな蟻が居ても何とかなるはずだ……。

そう自分に言い聞かせながら進むと、遂に分かれ道が無い広間に出た。


 その中央には高さ三m、長さ十mにも及ぶ巨大な姿が堂々と鎮座していた。

大きい事は大きいのだが……そのバランスはとても悪く感じる。

通常、蟻には頭部、胸部、腹部の間にくびれが存在する。

この女王蟻にも普通に存在するのだが、頭部の長さは精々五十cm、胸も一m程度しかない。

即ち、残りが全て腹部なのだ。

異常に膨らんだ腹部から申し訳程度に胸が生えており、そこに頭が乗っている。

そんな感じだ。


 さて、この女王様なのだが……動きと反応を見る限り、狂ってはいない。

その理由も予想はついた。

この女王様の頭の下には、大量の蟻の残骸が転がっている。

今も、かつての配下をバリバリと噛み砕きながら食べているのだ。

魔法物質が足りないから……同種族から摂取か。

流石に容赦ない行動ではあるが、種族を維持する為には当然の行為なのだろう。

まぁ、いつまでもそんな事を考えていても仕方が無い。

最後の掃除と行くとしましょうか!

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