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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第三章
54/111

51、探索する蟻

 現在、目の前に居るスピアアントを取り敢えず《識別》しておく。


魔虫族:スピアアント:男 LV30

特殊情報:《女王のしもべ》《独立探索許可》《自我喪失》


……幾つか面倒な情報があるな。

《独立探索許可》……逃げられた訳じゃなく、探索で周囲に放たれている様だ。

巣は抑えているので被害がこれ以上拡大する事は無いだろうが、どれ位放たれているかが問題だ。

30レベルもの魔物が出没するとなったら、被害は相当な物になる可能性がある。

そして、《自我喪失》か……。

理由は分からないが、自我を失って暴れ回って居る様だ。

探索個体なので本来はそこまで凶暴では無かった可能性もあるが、既に巣に帰る本能が残っているかすら怪しい。


 まずは僕にターゲットを移して貰う必要があるが、隙があるのに有効に使わない手は無い。

《ショートカット》から火炎系単体魔法《フレイムニードル》と氷系単体魔法《アイスニードル》を発動させ、放つと同時に僕も突っ込んだ。

《アイスニードル》は、つのを魔法にぶつける様にこちらを向いた後に、衝撃系の能力を発動されて相殺された。

《フレイムニードル》は上手く腹部に当たり、先端の一番熱量の高い部分で外骨格を焼き削りながら、まさしく針の様に一気に貫通して消滅する。

小さいながら穴が開いた部分からは体液が流れ落ちて居るようだ。

一瞬だけそれを確認した後に、僕自身は敵の寸前で《ダブルステップ》により高速で敵の真後ろまで跳ねる。

《シールドバッシュ》により、衝撃を与えてバランスを崩させてみるが失敗。

続けて片手剣にMPを供給しつつ《ピアッシングソード》と言う技を使って剣を突き立て、そこから断裂攻撃を放って即後方へ下がる。


 今の攻撃で、スピアアントは完全にこちらにターゲットを変更したようだ。

《ピアッシングソード》での突きでは外骨格は貫通出来て居ないが、ソードドラゴンの剣による断裂能力は効いたようだ。

左側の真ん中にあったあしが、根元から千切れ飛んでいる。

外骨格の硬さから考えて、剣での攻撃は場所を選んだ方がよさそうかな。




 ◇ ◇ ◇




 スピアアントの動きを警戒しながら、パターンを覚える作業を暫く続けていた。

巣に戻ったら大量に狩る必要がある。

これは、一匹の状態で戦える貴重な機会だ。

ここでしっかり学んでおいて損は無いだろう。

気がかりは襲われた二人と馬についてだが、男性は気が付いて馬を止めており、女性は馬から降りて男性の怪我の手当てを簡易的にだが終えて居る。

馬にも止血の為程度には布を巻きつけて応急処置は終わらせており、僕の方を二人共見て居る。


 最初は逃げるべきなのか、僕の助けに入るべきなのかを迷っていた様だが、僕がわざと敵の攻撃を回避しながら様子を見て居る事に気が付いたらしく、離れた位置で見守って居る様だ。

現在の僕のレベルは魔獣人との戦いを経て、30に上がって居る。

本来は敵のレベルはそのレベルのパーティー推奨の強さのはずだが、回避主体の戦闘方法による物なのか、それとも勇者様の能力を一部コピーした《簒奪の聖眼》による戦いの幅の広さの恩恵なのか……どちらにしても直接攻撃を主体とした同レベル表記の相手なら、どうにかなり始めている。


 法を使う相手に関しては、まだそれ程戦った機会がない為に何とも言えない。

接敵してしまえば、詠唱する余裕を与えなければいいので何とかなるとは思う。

問題は、最低一回は高確率で魔法を受ける際に、耐えられるかどうかにかかってくるはずだ。


 因みに、同レベルだとしても例の魔獣人には勝てる気はしない……かな。

あれは相当種族的にも強く、その他の強化すら入った特殊な個体だ。

ぶっちゃけると、僕の仲間達と同様に何らかの強化された個体である以上は、同じ土俵に上がって居るので僕達も通常の常識通りにパーティーで挑まなくてはならないのだ。


 さて、この戦闘自体は、もはや終わったも同然になって居る。

僕の回避は、ゲルボドから得た異世界の回避技術も加わって更に磨きがかけられている。

スピアアントのつのは、形と使い方から槍に例えられている様だが、実際には五十cm程しか無い為に、突撃のモーションを覚えれば回避は余裕だった。

タイミングは毎回違い、頭部を下げながら力を溜めてから一歩目から三歩目辺りで突っ込んで来る。

しかし、このモーションからは他の攻撃が派生しない為に回避は余裕であり、逆に攻撃を当てるチャンスとなって居る。

距離さえ取ってあれば抑え込みを受ける事は無い。

これで、一人で確認出来る事は終わったかな。


 打撃武器があればもう少し戦い方は変わるのかも知れないが、姉さんの《格闘術(異世界)》以外は基本的に斬るか突くかである為、斬る方向で考えている。

無制限にソードソラゴンの剣による断裂攻撃が使えるのならば良いのだが……僕の最大MPで何とか五回だ。

姉さんにも試してもらった結果、消費MPは固定値で威力も同様らしい。

結果、巣では他の戦い方をする必要があるのだが、今回の件でどうにかなると確信した。

巣の近くで戦った時はゲルボドの魔法もあったので強引にダメージで倒した感が強いが、こいつの弱点はやはりあしの関節だ。

スピアアントは重い外骨格を持つが、魔法物質による筋力の上昇で巨体を支えられる様になっている。

しかし、その分あしの数が減ると一気に機動力が落ち、二本切断で移動が困難、三本で移動可能とは言えない位の酷い有り様になった。


 現在もにじり寄る様にこちらに近寄るが、すでに全く脅威は感じない。

今回は念の為に近寄らず、剣による断裂攻撃を首にあたる部分を狙って一気に刎ね飛ばした。

その様子を見ていた男性が近寄ってきて、


「有り難うございました! お陰で私も娘も何とか生き延びる事ができました……本当に有り難うございます」


と言い。

女性もその後ろに付いて来て、頭を深々と下げた。


「いえ、間に合って良かったです。怪我の方はどんな感じになっていますか?」


そう言って、僕は男性の怪我と馬の足を見せて貰った。

二人共とても恐縮して居たが、MPはまだ半分程度残っている。

回復魔法を使える状況で放置する事は、僕的には有り得ない。


 男性の腕はかなり深くえぐられて居たが大きな血管は損傷しては居ない様で、徐々に滲み出して来るが吹き出してはいないと言う状況だ。

衝撃系の能力で吹き飛ばされた際に肩が外れてはいたが、折れてはいないようなので運が良かったと言えるかな。

これなら僕の魔法でも何とかなるので、すぐに回復魔法を使う。


 肉体の損傷を治すのは《水魔法》系が有効なので、まずはそちらの魔法をかけた。

抉られた部分は再生し、徐々に古傷の様になって行く。

その他の小さな傷も治り、問題ない状態になった様だ。

その後に《光魔法》による回復魔法を一応かけておく。

この、系統による大きな違いは、《水魔法》は主に肉体の損傷を、《光魔法》は精神と状態の復元を得意としている。

僕が使用した《光魔法》の追加分は、傷痕部分を出来るだけ元の状態に復元し、皮膚を再生させる為に行ったものだ。


 僕の熟練度で使用できる魔法では完全に元通りにはならないが、色は若干違う程度にで皮膚が再形成されており、動かした時の突っ張り感はあまり感じなくなる位には改善されているはずだ。

そして、同様に馬の足も治していく。

これで問題なく移動できるだろう。




 ◇ ◇ ◇




 二人はこれから王都へ行く為に移動しているらしく、街道に時々現れる猛獣や魔物を何とかやり過ごしながら進んで来たらしいが、ここで遂にスピアアントと言う大物に出会ってしまってらしい。

取り敢えずは進行方向が同じなので、この先にある村までは一緒に移動する事になった。

名前は父親がゼットさん、娘さんがリフィアさんと言い、先に王都へ病気の療養の為に移動している奥さんの所に行く所らしい。

住んでいた街では治療が出来無かった為、先に奥さんと下の娘さんを送り出したとの事。

自分達は家や処分出来る家具等を売り払い、何とか今後の生活の足しになるお金を作ってここまでやってきた様だ。


 話をしながら進んでいると、ちょっと困った話になった。

命を助けて貰ったばかりか、怪我まで治して貰って何のお礼もしない訳にはいかないと……折角用意したお金を渡して来たのだ。

勿論、丁重に断った。

しかし、どうしても納得出来ないらしいゼットさんと、それに対して何も言う気は無いリフィアさん相手では中々話は纏まらない。

そこで、僕の代わりに王都でやって欲しい事を頼む事で納得して貰った。 


 やって欲しい事、それは周囲に散らばった可能性があるスピアアントの報告だ。

スピアアントの魔法核が存在する部位であるつのを渡し、王都の軍に道中で襲われた事を伝えて貰う事にした。


 高額で取引されるスピアアントの魔法核を持って来て、わざわざ嘘を言う馬鹿はそうそう居ない筈なので信じて貰えるはずだ。

その際に、僕の個人的な事は伏せて欲しいとお願いした。

あくまで、旅の途中で助けてくれた冒険者とだけ伝えて欲しいと。

つのはその後で売ってくれて構わないと言っておいた。

僕達はこれから大量に手に入るだろうしね……。

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