50、隣の村へ
一人だけでの移動は久しぶりだったが、エルナリアの街に居た頃よりも随分と移動速度も持久力も上がった気がする。
滅多に見た事は無いが、ステータスでの筋力値、生命力、敏捷力等が軒並み倍増しているのでそのお陰だろう。
何故あまり見ないのかと言うと……これ、僕と姉さん以外に確認できる人が居ない上、他人のステータスは見られない。
即ち、自分自身の比較にしかほぼ意味が無いのだ。
姉さんのステータスは僕より偏りが酷くて参考にならなかった。
知性値が高く、精神値が異常……。
他は軒並み僕より下だった。
それなのに魔素《フルブースト》を使う事で圧倒的に僕より強化されるので、ステータスの差を気にしても仕方が無いのだ。
因みに、通常の《フルブースト》は本人の能力に対する割合で増加なのだが、魔素を使うと暴力的に上がるのが羨ましすぎる所だ。
戦闘面に関しては、この周辺で出現する程度の魔物の実力では、今の僕にダメージを与える事は既に難しい。
基本的に《危険感知》のお陰で奇襲は受けず、攻撃は全て回避出来てしまう。
片手剣以外の熟練を上げる事すら考えたが、流石に失敗が即危険に繋がる状況でやるべきで無いと自分を戒めた。
少し強くなったからと言って、油断するのは身の破滅を呼ぶ。
隣村までは馬車も通るのでしっかりと判る道が存在し、特に迷う事も無く進めた。
村の見える位置へ着くと、すぐに《アイテム》から馬車の車輪を四つ付けた木で出来た箱状の荷台を出す。
そこに届ける為の荷物を出して行った。
普通なら一人で動かせる重さでは無いのだが、この荷台は姉さんが魔法を付与してある。
箱状の部分は下から反発させる能力で重量を軽減し、車輪部分が自動で進行方向へ回転補助する事で僕自身はそこまで力を必要としない。
王都で姉さんが荷物を運ぶ際に、《アイテム》から直接出すのを見せたくないと言って作った品だ。
タンク用の魔石にMPを供給して、軽く動く事を確認してから目的の家を探すとすぐに見つかった。
目的の家は村の中でも大きな建物だった。
村長では無い筈なので、外部との取引を一手に引き受けているとかそんな所だろう。
目的の家で要件を伝えると、すぐに主と思われる人が出て来た。
「坊主が持ってきてくれたのか! そいつはお疲れさん。荷物の確認をするからちょっとそこで休んでな」
そう言って、玄関の横にある椅子が置いてある場所を示された。
素直に座って待っていると、この家の娘さんだろうか? 僕より少し年下位の娘が水の入ったコップを持って来てくれた。
「おいおい! 一人で持って来れる量じゃないと思って少し怪しんでいたが、あの荷台は凄いな! その若さであんな凄い魔法具を持ってるのか? それとも借り物なのか?」
「本来は僕以外にも仲間が居るんですよ。一緒に隣村までは来ています。ただ、そこでちょっと時間がかかる問題が生じまして……。現在そちらに対応しているので僕だけこちらの依頼を完了させる為に来ました」
家主はしきりに感心しながら荷車の事を褒めていたが、
「そういや、隣村で黒い獣が出たって聞いたが、さっき言ってた問題ってのはそれか?」
「すこし違いますね。黒い獣は倒しました。そこで別の魔物を見つけてしまって……。放って置くと危険なので倒す事にしました。現在は閉じ込めてある状態なのですが、僕が戻ったら倒す予定で居ます」
ちょっと余計な情報を言い過ぎたかな……、と思ったが問題は無いだろう。
黒い獣を倒したと聞いて、家主は僕自体の実力はともかく、パーティーとしての実力は本物だと思ったらしく、
「それだけの実力があるなら、確かにこの位の魔法具だって手に入るって訳か。しかも、複数の仕事を受けて余裕でこなしているってんだから、本物の実力が無けりゃ無理ってもんだな!」
そう言って、僕の背中をバンバンと力いっぱい叩いて大笑いして居た。
中々豪快な性格なようです。
荷物は間違いないと確認が取れ、無事に完了のサインを貰えた。
一晩泊って行くように誘われたが、出来るだけ早くゲルボド達と合流したかったので丁重にお断りして帰路に付いた。
出来るだけ移動して夜は小屋を出す訳だが、メインで使っていた小屋は現在姉さんが使っているらしい。
それ故、多脚小屋を出して寝る事になるのだが、老魔術師の荷物は既に別の箱を用意して移してあるので何も入って居ない。
本来は王都への移動時に用意した小屋は一つだけ貰える事になっており、その他は返す事になって居たが、ミルロード邸で返されても扱いに困る為にそのまま《アイテム》に入って居る。
姉さんがエルナリアの街に行くのでその時に渡す予定なのだが、それまでは好きに使って良いと言うお嬢様の好意で使わせて貰っていると言う訳だ。
これが使える事で、野宿よりも圧倒的に良い条件なのでとても有難い。
明日の移動は出来るだけ早くから動き出したいので、すぐに寝る為にベッドへ潜り込んだ。
◇ ◇ ◇
翌日はまだ暗いうちから起きてすぐに移動を開始した。
食事も、歩きながら食べられる物を選んだ。
暗いのは確かだが、僕には《暗視》の能力があるので苦にはならない。
時々《危険感知》に引っかかる存在も居るが、襲い掛かってくる事無く、警戒したまま離れて行った。
僕は黙々と歩きながら、蟻の巣を退治する方法を考えている。
考えられる方法としては、各個撃破が望ましい。
その為の方法としては、まず蟹採りで使用した網で出来るだけ動きを封じて数を減らし、網で封じられなかった個体を狩って行く方向は考えている。
問題はそれで対処できるのは三~四匹までなので、それを超える数の場合を考え無くてはならない。
しばらく考えていたが、中々良い案は出なかった。
日が昇って行き、十分に朝と言える時間に突然人の声が聞こえてきた。
「イヤッ! 止めて! お願い……お願いよ……」
その声は、比較的若い女性の声に聞こえた。
もっとも、姉さんよりは年上、母さんよりは下位の幅、と言う認識程度が僕の理解できる限界ではあるが。
声のする方へ急いで移動すると、そこには荷物を背中の両側に乗せた馬とその上に乗った女性。
馬の前方には、腕を貫かれて出血した男が意識を失って倒れていた。
声の主は馬の上の女性らしく、落ちない様に馬にしがみついては居るがその表情と態度は恐怖で取り乱している感じを受ける。
馬の足も立てないほどでは無い様だが、左の前足に怪我をしている為に逃げたくても上手く走れないようだ。
そして……その元凶となる魔物……スピアアントが一匹、そこに居た。
これは不味い傾向だ。
考えられるのは二つ、巣に帰ったがゲルボド達に攻撃されるかその前に離脱した個体。
もう一つは、既に範囲の拡大を行う為に偵察の個体が放たれていたか……だろう。
範囲拡大を行う際はもっと大規模の集団で行うらしいので、単体である今回は違うと判断し、即攻撃に移った。
スピアアントの攻撃方法は突撃と噛みつき、前足には遅効性の麻痺毒を分泌する器官が存在するが、これに関してはある程度の時間押さえつけられて居なければ使われる事は無い。
また、使用されても僕の《水魔法》で弱い毒ならば解毒出来るようになって居るので、この毒なら問題は無いはずだ。
角に関しては、名前にも付いているスピアと言う名称とは違い、戦い方はランスの様に突撃する事だけに使用し、突き刺した相手を魔法物質を使用した風系能力で一気に弾き飛ばす。
今倒れている男の人も、恐らく突き刺さった瞬間に弾き飛ばされて気を失っていると思われる。
気を付けるのは突進とバランスを崩した際の抑え込み、そこから派生する噛み付きと麻痺攻撃だ。
一人で強敵と戦うのは久しぶりだな……。
気を引き締めて行こう!




