37、《迷宮の主》
迷宮から出て、すぐに小屋を出して休んだ。
翌日は順調に進み、MPに余裕が有ったので《迷宮創造》と《迷宮の主》をお互いに使って習得した。
僕が《魂の回廊》を有効にしたら? と聞いたが姉さんは、
「断る!」
と言ってきた。
……絶対何か隠している!!!
まぁ、どう考えても僕を驚かす算段とかだろう……。
僕の身の安全を必要以上に重視する姉さんが、僕に渡す必要が無いと判断しているスキルだろうから問題無い事は確実だ。
肝心のスキル習得だが、僕の方の取得は多少手間取ったが何とかなったので無事終了した。
僕達が得たスキルである《迷宮創造》と《迷宮の主》は、その名の通りに迷宮を作成して支配するスキルだった。
MPに超余裕がある姉さんがいくつか試した結果、《迷宮創造》では迷宮の作成と破棄、迷宮内の構造材質や発生する魔物の大まかな種族傾向等が決められる。
大まかな傾向か……それであの微妙な敵の階層が出来て居た訳か……。
《迷宮の主》は迷宮内にマスタールームを作成したり、その部屋へのマスター用扉を条件に合わせて遠隔地へ作ることが出来る。
更に発生した魔物を《迷宮の主》の能力である《迷宮の虜》で支配して使役したり、迷宮内への宝箱の設置(罠や冒険者に対する餌)やその中に入れる為のポーション類の自動生成等が出来る。
ちなみに迷宮の入口はこの世界に存在するが、迷宮自体は世界の狭間といえる場所にあるそうだ。
この世界と他の世界の間にある魔素の海側に迫り出し、この世界に張り付くように存在するらしい。
《迷宮創造》で迷宮を作成した際に強制的に理解させられる事として、迷宮は成長に魔法物質を取り込んでいく。
これ自体は知っていたが、それ以外に魔物の発生・アイテム生成等に使うらしい。
この特性により迷宮がある場所には魔法物質が薄くなり、周囲には魔物が住みにくくなる為に安全になるのと同時に魔法の効果も相当低下する。通常の三割程度との事だ。
これを知って思った事は、僕達の村周辺に迷宮が有るかもしれない、という事だった。
あそこはあまりにも魔物が少なかったから、それが関係しているのかもしれない。
次に、迷宮内では多少はマシになるが魔法効果は五割~八割程度、長い時間迷宮が存在すると五割で安定するようだ。
この特性によって、相対的に直接攻撃系の魔物が脅威となる。
「ルークは作りたい迷宮の方針とかはある?」
姉さんが僕にそう問いかけて来るが、正直僕達がわざわざ迷宮を作る必要性が分からない。
そう姉さんに言ったら、
「迷宮と言っても、人間にとって危険な場所を作る以外に色々使い道がありそうよ」
そう言って説明してくれた。
この情報は、あの老魔術師の部屋にあった本から得た情報も加味されているらしい。
出て来るのが遅いと思ったら、役に立ちそうなものを回収していたようだ。
まず使い道の一つに、僕達の生まれ育った村に設置するとの事だった。
あそこは殆ど魔物が居ない、比較的安全な地域ではあった。
その理由は魔法物質が少ない地方であった為であり、その理由が隠された迷宮の存在であるなら、別の迷宮を作る事で魔法物質の供給量を削げるはずとの事。
今は安全でも、もし迷宮が見つかった場合に絶対に安全とは限らない。
対処の為に、手は打っておくべきだそうだ。
村の安全の為にも、作っておいて損は無いだろうとの事。
それに加えて《迷宮の主》の能力で扉を作れば、遠くからでもすぐに村へ帰れるらしい。
問題は、このタイプの迷宮は固定迷宮と呼ばれる物で、遠隔地用扉も固定する形で設置が必要なのだ。
移動する僕達のような冒険者では、有効に使うのは難しいだろう。
そこでもう一つのタイプの迷宮、移動迷宮が役に立つかもしれないとの事だ。
こちらは大きさ三m以上の様々な形や材質の扉が移動するものらしい。
過去に発見された物では、直径十m程の竜巻を纏いながら空をゆっくりと移動するタイプ、波打ち際を陸から五m程度を保ちながら満ち引きに合わせて移動するタイプ、世界各地に突然転移しながらランダムに現れるもの等があったとの事。
この移動迷宮タイプでは遠隔地用扉を常時設置出来ない。
場所が移動する為なのか毎回位置確認を行ってから簡易転移門を作成して移動、戻る時は前回簡易転移門を作成した場所に戻れるとの事。ただし、簡易転移門は自分専用らしい。
因みに、世界に多いのは圧倒的に固定迷宮との事。
理由として、移動迷宮型が移動する場合は世界の壁に開けている穴の位置自体を移動させている。
その為、迷宮の成長で必要な魔法物質をかなり消費しているので成長が遅いらしい。
僕達の様にスキルがあるから迷宮を作ろうなんて事は普通無く、迷宮を作る為にスキルを習得する事が普通なので、大抵は成長が見込める固定迷宮を作る。
スキル習得に必要な年数は天才的な者で四十年程度と言われているらしい事を、一応追加情報として出しておこう。
姉さんの見解での移動迷宮が役に立つ点は二つ、移動迷宮の中に転移型迷宮が存在する。
前述のランダム転移している物がこのタイプなのだが、普通に主の任意で移動する事ができるようだ。
今回の迷宮が、まさにこのタイプそのものだと言う。
簡易転移門ではマスターのみしか転移できないが、簡易転移門から転移した地点に迷宮ごと戻る事ができる。
しかも、まだ詳しくは判らないが、直接迷宮を呼べるタイプすら存在している可能性が高いとの事。
迷宮の主は入口から入る時点でマスタールームへの直通扉を選択式に選べるらしいので、迷宮自体に入る必要無くマスタールームへ行く事ができる。
すなわち、移動させた迷宮に皆でマスタールームへ入れば野宿する必要が無くなるのだ。
もう一つの利点は、固定迷宮の遠隔地用扉を移動型のマスタールームへ設置する事で、僕達の故郷の村へ直接帰る方法を確立するとの事。
移動迷宮の移動は、扉自体は動くが迷宮自体は動かずに接続場所が変わると言う認識らしい。
すなわち遠隔地用扉の設置条件には抵触しないはずとの予想だ。
どんな原理かはサッパリ理解できないが、やってみて大丈夫なら御の字と言う程度でいいと思うので、チャレンジはしてみよう。
因みに移動前に確認した情報として、目の前に迷宮が有るので念の為に姉さんが確認した所、主を失っている迷宮の支配権を得る事は出来るらしい。
しかし、条件は《迷宮の主》の熟練度による支配権の奪取らしい。
ここまで育った迷宮を得るのは相当な熟練度が必要らしいので、現状は全く歯が立たないとの事。
◇ ◇ ◇
その後は順調に進み、迷宮脱出から五日が経った。
姉さんが確認してくれた所、お嬢様の方も僕に対して特別な感情を持ってくれているとの事。
こんな事を人に頼ってしまう軟弱さは男としてどうなんだと感じる所はあるが、僕達の居た村程度で恋仲になるのとは意味が全く違う相手なのだ。
失礼な事は出来ないし、もし僕の勘違いだとかだと取り返しがつかなくなる。
慎重に行かざるを得ない。
それとなく僕の事もお嬢様に伝えてあるらしいので、後はお嬢様に僕が直接この後の三年間というチャンスを貰いたいと伝えるだけだ。
因みに、以前はお嬢様と話をする度に険しい顔を向けて来たラナさんは態度が軟化している。
あの態度には理由があったらしい。
お嬢様が僕にあからさまな好意を向けていた為、立場の違いを悩んでお嬢様が駆け落ち等してしまった場合は、六爵家が非常に不味い事になる。
跡を継げるのが領主様の従妹と言う事になり、実質その旦那が継ぐために現家臣には一大事になる。
ラナさんやルルさんは親の代から仕えているので、自分達がついて居ながら駆け落ちなどされたら親に合わせる顔が無くなってしまう。
当然、僕に対して警戒するのは当たり前だったのだ……。
今回の件で僕が三年間に相応しい立場となる事を条件にした事で、駆け落ちの心配が無くなったので態度を改めてくれたようだ。
最悪、姉さんと二人でも【竜殺し】計画を進める覚悟はあるが、ゲルボドに確認した所、
「俺は元の世界に戻る手段を探せるなら、幾らでも一緒に居るシャ――――!」
との事。
どうやら、姉さんがその手伝いを以前からする事になって居たらしい。
……やはり姉さんも元の世界に帰る手段を探している……?
いずれはその事を話し合う日が来るのかもしれない……その覚悟はしておこう……。




