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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第二章
38/111

36、救出完了

 姉さんが馬車の中を覗いて確認した。


「みんな終わったわ! 怖かっただろうけど、よく頑張ったね!」


馬車の中から姉さんの声が聞こえた。


「エルおねぇちゃん!」


「お姉様!」


姉さんの存在に気が付いたみんなの声が聞こえ始めた。

馬車の揺れ方や音等から予想して、姉さんに抱き着いて喜びを噛みしめているのだろう。

暫くすると姉さんが出て来た。

次にミラが出てきて、ゲルボドに抱きつく。

その後はメイドコンビが出て、最後にお嬢様が出て来る手伝いをした。


 ようやく外に出る事が出来たお嬢様に、使用人の二人が無事を喜び合いながら涙すら浮かべていた。

その後にゆっくりと近寄った姉さんが、やさしく抱きしめながら頭をゆっくりと撫でながら、


「もう大丈夫よ」


それだけを言った。

その言葉を聞いたお嬢様は一瞬茫然とした表情を見せ、ゆっくりと顔を歪ませながら大粒の涙を浮かべていく。

そして、一気に気が緩んだのだろう。

姉さんの胸で泣き続けた。


 暫くしてようやく落ち着いたのだろう。

姉さんから離れて僕に近寄ってきたお嬢様が、予想外の行動に出た。

下を向くように僕から顔を見えない様にして、そのまま頭を僕の胸につける。

本当に触れるかどうか程度ではあるが、僕の腰辺りに腕を回して軽く抱き着くような体勢を取った。


「ただいま戻りました……。本当に有難う御座いました……」


小さな声でお嬢様が言う。

僕はどうして良いかわからず、


「無事で良かった……」


ただ、そう言うだけで精一杯だった。

彼女とは身分が違いすぎる。

だから目を逸らしていた。

しかし、今完全に思い知らされてしまった。

迷宮を踏破する道中にも感じた、もやもやした感情。

お嬢様の事を考えると寝る事すら中々出来なかった日々。

そう、これが僕の初恋なのだと。

そして、彼女も僕に対して少なからず想ってくれていたのだと。

それでも僕には、彼女を抱きしめてあげる事は出来ない。

住む世界が違うのだ。

これはどうにもならない事だ。

彼女が離れる。

その顔には少し寂しげな表情を残しては居たものの、すぐに優しげな笑顔に戻ってから姉さん達の方へ戻る。


 僕とお嬢様は身分が違う。

この事実はどうしようもないのだと自分に言い聞かせている最中に、姉さんが《通話》で話しかけてきた。


『ヒューヒュー、お熱いね!!』


『僕と彼女ではどうにもならない。それは姉さんも分かっているよね……』


『バッカね~。そこを男の甲斐性でどうにかするのがあんたの役目でしょ?』


『貧しい農村出身の僕に、甲斐性なんてある訳がないじゃない……』


『じゃあ、諦めるの?』


『それ以外にどうしろって言うんだ! 彼女をこのまま連れて逃げろとでも言うの? すぐに捕まって彼女に迷惑がかかるだけじゃないか!!』


『たしかにそんなのは甲斐性とは言えないわね。答えは簡単よ、あんたが爵位を貰えばいいのよ』


……………………ハァ!!!!


『どうやったら爵位なんて貰えるって言うんだよ……』


『そんなの決まっているわ。【竜殺し】になるのよ』


……成程……。

姉さんが言っているのは、確かに僕が爵位を貰うための数少ない手段であろう。

だが出来るのか……?


 世界にはそれなりの数の竜の眷属がいる。

しかし、【竜殺し】の称号を得られるのは、この中でも真のドラゴン種の上位竜以上を倒したパーティーリーダーにのみ与えられる。

これは竜を殺せる程の実力者は、在野の人材とするよりも王国で囲ってしまった方が良いと言う所から発生した物らしい。

あまり戦争の無いこの世界でも、やはり人材が他国へ流れるのは好ましくない。

魔王の復活にそこまで影響される事が無いこの国でも、自衛の為に実力者は必須なのだ。

ちなみに魔王は南の彼方かなたにある魔王の住処と呼ばれる漆黒の穴から必ず出て来るとされている。

この国は北の方にあるので、魔王の復活で被害を受ける事は少ないとの記録が残されているらしい。


肝心のドラゴン種だが、幼竜→下位竜→上位竜と脱皮するごとに進化する。

上位竜がそのまま歳を経ると老竜となり、進化すると魔竜種へと至る。

魔竜種は様々な属性魔法を使いこなし、使用する属性に合わせて様々な姿へと変わっていく。

各属性に特化する個体や、複数属性を持ち魔導竜と呼ばれる魔法特化型になる者もいる。

先程倒したソードドラゴンは風系の能力を使用してきたが、詠唱を使用しないで魔法物質の変換を行う特殊能力に分類される能力だ。

ドラゴン種も各種属性のブレスを吐くが、これはソードドラゴンと同じ様な特殊能力に分類される。

しかし魔竜種が使うのは詠唱を使用する本当の魔法だ。

詠唱には魔法物質をより凝縮させ、効果自体も増幅させる効果がある。

魔竜種の使うそれは、威力や範囲が人間の使う魔法を凌駕する物と言われている。

それ故、魔竜種には絶対に手を出すなとの言い伝えが多数残っているらしい。


【竜殺し】になるには最低でも上位竜を倒す必要があるが、当然そう簡単に行くわけが無い。

しかし姉さんの考えは違った。


『シェリーはこれから最低三年間学校に入っているから、その間は結婚の話は無いわ。そして三年あれば私達なら十分上位竜程度なら狩れる実力を得られると思う』


王都には様々なスキルを持った強い人が居る。

そこで十分なスキルを得られれば、僕達の成長速度を生かして三年でどうにでも出来るとの事だ。


『ゲルボドはそもそも能力がおかしいし、出来ればもう少し協力者を増やして戦力を増強したいけど、このままでも三年あればどうにでもなると私は思うわ』


よし、決めた!

姉さんやゲルボドに手伝って貰えるなら可能性はある!!

……僕は【竜殺し】になる!!!


 そう言えば、先ほど姉さんが言った三年あると言うのはしっかり根拠のある話の様だ。

貴族は子供の頃から、婚約者が決められる事が多い。

家の為に、自由な結婚など無いのだ。

しかし、各領の継承権第一位に対しては、正式な婚約等は学校卒業まで認められていない。

これも初代国王が決めた法なのだそうだが、領主様はお嬢様の幸せの為に勝手に婚約者を決める気は無いそうだ。

そうなると、お嬢様が学校時代に自分で婚約候補を決めない限りは大丈夫という事だ。

お嬢様が僕の結果を三年待ってくれると言うなら挑戦する価値はある!

最も、これが僕の思い違いだったらどうしようと、ちょっと不安になったが姉さんいわく、


「シェリーはルークに前から好意を持っていたから脈はある筈よ。まぁ、残りの旅の間に私の方でも気持ちを確認しておくわ」


そう言ってくれた。

流石姉さん、頼りにしています!


 みんなが無事を喜び合った後、まずは状況を整理する前に場所の移動を行った。

ここは移動型迷宮の中なのだが、主が死んでしまっているのだ。

何が起こるか分からない。

まずは馬車を《アイテム》に入れる。

ここまで引いてくれていた馬達は可哀想ではあるが、瀕死で倒れて居る。

下手に《アースシールド》の範囲に含まれてしまった為、馬車から離れる事も出来ず、水だけは時々ミラが馬車から持ち出して与えていたが、食糧になる物は無かったのだ。

このような状況の馬を外に出すには、相当な力が必要だ。

姉さんが《フルブースト》を使用してどうにかなるか考えている様だが、流石に厳しい気がする。

そんな状況で、


「何を悩んでるシャ――――?」


そう呑気に言いやがる約一名。

ゲルボドが当然の様に《快癒》の魔法を使いました。

……そして馬が元気に立ち上がった……。

下位の回復魔法は傷を治すだけだが、《快癒》の効果は失った血液すら再生する脅威の魔法らしい。

今回の馬達は栄養が足りないので色々と不足していた物があるのだが、動ける程度には回復してしまった様だ。

最も空腹は変わらないので、外へ出ると一気に食事の為、草の生えた場所に走って行った。


 こうして無事お嬢様達を救出し、何とか迷宮探索を終えた。

……僕がお嬢様達と出て来たしばらく後に、ゲルボドと姉さんが出て来た。

中で何をやって居たんだか……気になるが、敢えて放置!

僕の平穏な精神を維持する為に、この二人のやる事に余計に関わっては駄目だ!!

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