18、姉さんの決断
姉さんが出した結論は、
「私も一緒に行くわ」
だった。
流石に無謀だと思う。
僕は姉さんに考え直す様に言ったが無駄だった。
そこで僕は条件を出す。
「僕が納得できるだけの実力があるなら領主様に同行者について相談するよ」
実戦をしていない姉さんではどう考えてもこの条件はクリア出来ないだろう。
…………そう思っていた僕が馬鹿でした…………。
「それじゃここで身につけた実力をお見せするとしますかねぇ」
そう言った姉さんの実力は恐ろしい物でした……。
人目が無い場所が良いとの姉さんの要望で街から少し離れた場所へ移動して魔法を使って貰った。
《ショートカット》を使った《自然魔法》や《変換魔法》を多用するスタイルだとは思っていたけれど、その発動速度と威力が異常でした。
どう考えてもおかしい。
僕が火と風の複合魔法を使った時の恐らく十倍はあろうかと言う火炎の竜巻が巻き起こる。
正確に言うなら、自分を起点に敵に向かって火炎に包まれた竜巻が起き、遠くに行くほど火炎の渦の直径が大きくなっていく。
この長さが二倍、火炎の厚みが五倍もあるのだ。
ハァ…………?
ドウイウコトデスカ……。
「これが錬金術をしっかり学んだ場合との違いって奴よ。まぁ、実際には《魔素の泉》も併用して威力上げているんだけどね!」
今行われた魔法について詳しく教えて貰った結果、僕の考えが大甘だった事が判明した……。
姉さんが使った魔法は僕よりも複雑な工程を行うとの事だ。
先ずは水魔法と土魔法、錬金術を使用して可燃性の液体を作り出す。
これは姉さんの前世で使用されていた物らしく、イメージしながら錬金術を使用したら問題なく『灯油』という液体が現れたらしい。
前世では暖を取るのに良く使っていたのでイメージ出来たとの事。
ここに風魔法と火魔法で火炎竜巻を作ると僕より二倍以上強い威力になる。
更にそこから《魔素の泉》で魔法物質を追加供給させることにより、今使える魔法程度なら約五倍近く威力を上げられるようだ。
その結果、僕の十倍という恐ろしい火力になったらしい。
しかも、
「今はまだ研究が全然出来ていないけど、そのうちもっと効率の良いやり方も研究するわ」
これでもまだ満足してないようです。
あまりにも恐ろしい破壊力を見せられて愕然としていたが、この火力は逆に問題がある事に気が付いた。
僕が二種類の属性で《変換魔法》を使う場合に適正スキルの物で大体二~三回が限度だ。
《魔素の泉》は肉体に負荷は掛かるもののMP消費は無いらしい、しかし四種類もの属性を使った場合のコストでは数が撃てないだろう。
いくら威力があっても数が撃てないのでは冒険者として意味が無い。
その点を姉さんに言ったが恐ろしい答えが返ってきた。
「今のルークのMPは二百には少し足りない位でしょ? 私はもうすぐ六千って所だからまさしく桁が違うMPって奴なのよ」
だそうだ。
もう笑うしかなかった。
僕が最初にステータスを見た時でMPは百も無かったのに、姉さんは千五百を超えていたらしい。
何故そんなに違いが出るのかと聞いたら、どうやら精神値がMPに直接関係あるらしいのだがこれが女神様のお墨付きの強さらしく、異世界からこの世界へ渡る条件だったらしいから必然的に高いようだ。
そこから色々と恐ろしい事実を教えられた。
姉さんのHPは普通に僕より低い。
しかし、姉さんの肉体は魔法物質で強化されているために肉体自体の防御力が高いらしい。
「前世で魔素の過剰供給で肉体崩壊起こしたのが死因だから、同じ過ちだけはしたくなくて子供の頃から徐々に魔素を肉体に流し続けたら異常に防御力が高くなったのよね。勿論魔法防御は更に高いわよ」
私だけ何もしてなかった訳じゃないのよ。
そう付け加えられてしまった。
通常だと属性が無い魔法物質が肉体に大量に存在しているだけだが、自己強化の魔法を使用するとそれらが使用されて異常な程の効果があるとも言っていたが、今の所あまり試していないらしい。
結論としては、
「甘く見ていて御免なさい、姉さん……」
「まぁ、理解できればそれでいいわ」
そういう結論で落ち着いてしまいました……。
翌日、ライルさん達に領主様からの個人的な依頼があり、春になったら護衛任務の為に王都へ行く事になりそうだと伝えた。
カルナさんはこのままパーティーに残るように勧めてくれていたので残念そうな感じではあったが、問題なく皆から了承された。
次にギルドへ向かい、依頼を受ける際の内容に姉さんの参加を希望する旨を伝えた。
やはり領主様と魔法具での会話が可能なのだろう、内容を伝えた数分後には一度部屋から出て戻ってきたガラエスさんから答えが返ってきた。
「危険を伴う旅になる為、最低限納得がいく実力を示して貰いたいとの事だよ」
予想していた答えだったので、事前に聞いていた姉さんの予定に合わせて翌日の夕方に領主館へ行く事にした。
◇ ◇ ◇
予定通りの時間にギルドへ姉さんと共に到着し、前回同様馬車での移動となった。
当然の疑問としてルヴェールさんから姉さんへ質問が投げかけられる。
「エルさん。今までこなした依頼内容を確認させて頂きましたが、基本的に採取系の依頼しか受けていない様なのですが今回の依頼に必須である戦闘関係は大丈夫なのですか?」
姉さんがルヴェールさんを見ていた眼差しを僕へ向けた。
客観的な意見として僕に答えろという事だろう。
「同様の疑問を持って僕が確かめました。ハッキリ言いますが、今の僕より強いです」
その答えには流石に驚きを隠せなかったようだ。
「ルークさんも恐ろしいスピードで実力をつけた様ですが、エルさんは更に上だとは思いませんでした……」
「まぁ、実際に領主様の前で実力を見せる事になるでしょうから楽しみにしていてください」
姉さんはそう余裕を見せながら答えた。
領主様の御屋敷へ着いて僕達は前回と同じ応接間へ案内された。
姉さんは結構余裕そうな態度で紅茶を飲みながらルヴェールさんと話しているが、僕はやはり落ち着かない。
それでも前回よりはまだマシかなと考えながら居ると、前回同様に白い髪の執事さんが扉を開け、後ろから領主様、お嬢様、メイド服姿の少女が二人、部屋へ入ってきた。
「ルーク殿、それに姉上殿もわざわざ出向いて貰い感謝する。姉上殿にまずは挨拶させて貰おう。私はこの六爵領の領主、ウィグレナス=ヴァリ=エルナリア、そして隣に居るのが娘のシェリー、後ろに控えているのが今回の件で娘に同行するメイド達でラナとルルだ」
お嬢様は優雅に一礼し、後ろに控えたメイドさん達も綺麗な動作でお辞儀をしていた。
「はじめまして、ルークの姉のエルと申します。この度は私の為にこのような機会を設けて頂き有難うございます。皆様の期待に報いられる様に頑張りたいと思います」
姉さんが堂々と答える。
挨拶が済むと早速実力をお見せしますと姉さんから切り出し、目に見える形の方が分かり易いだろうとの配慮で、前回僕が見たのと同じ魔法を使う予定で燃える物が無い場所へと移動した。
「では、まずは《変換魔法》の使い手としての実力をお見せしますね」
そう言って例の火炎竜巻を発生させる。
僕以外の全員が驚きの声を上げる中、白髪の執事さんが領主様へとても小さな声で囁いたのを《聴覚強化》のお陰で聞いてしまった。
「ルーク様がお持ちの《女神の加護(亜種)》というのは、本来エル様が持っていた《女神の加護》に付随した形で入手したものではないかと予想します。効果が同じ様ですし何らかの因果関係はあると思われます」
その言葉に驚き、つい執事さんを見るとスキル欄に、スキル:識別…………聖眼獲得率80%とあった。
即実行。
うまく獲得した《識別》を姉さんに対して発動。
人間:女 レベル18
冒険者登録:有
特殊情報:《女神の加護》《???》《???》
となっていた。
ちなみに僕は
人間:男 レベル15
冒険者登録:有
特殊情報:《女神の加護(亜種)》《???》
……この《???》は熟練度の低さで見えないのかな? それともこの世界では説明がつかない情報って事なのかも。
予想としては僕と姉さんの共通なもので《ウィンドウ》、そして姉さんに《魔素の扉》が入るのだろう。
こんなスキルがあったとは……。
他にも色々知られてそうで怖いがまぁ考えないでおこうか。
っていうか、レベルがある!
《裏ウィンドウ》には表示が無かったのだが、普通に存在するようです。
そして結構頑張ってきた自信があったのに姉さんよりレベルが低い!
ちょっとガッカリデス。