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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第一章
20/111

19、姉さん無双

 僕や姉さんが《女神の加護》とやらを持っているらしいが、この項目自体に対してもう一度《識別》を使う事で更に情報が見られた。


 《女神の加護》:女神に選ばれた存在にのみ現れる加護。女神に与えられた特殊なスキルを使いこなす事が可能になる。


ちなみに《亜種》の方には、直接女神に与えられてはいないものの、《女神の加護》と同様の効果を得ると書かれていた。

……この文章、どういう基準で表記されているのかが気になる。


 火炎竜巻の魔法を見せた姉さんは他にも幾つか魔法を使っており、お嬢様はとても興奮した様子で姉さんと話していた。

そんな中、最初からやや離れた場所でこちらをうかがっていた冒険者らしき一団が何やら仲間内で話しているのが見えた。

内容自体は流石に離れている為に《聴覚強化》でも聞こえなかったが、その態度や表情からはあまりいい感じを受けない。

僕が近くに居るルヴェールさんに確認した所、正規の領主軍だけではどうしても街全てを管理しきれない為、実力を認められた冒険者が六爵家のお抱えとして扱われるらしい。

六爵領内ではある程度優遇される立場にあり、この街の冒険者が目指す目的の一つでもある。


 先ほどの一団は現在お抱えとなって居る三十二人の中の一パーティーであり、六人でパーティーを組んでいるらしいのだが、ここ最近あまり良くない噂が聞こえる様になって来たらしい。

領主のお抱えである事を振りかざし、色々と街で目に余る振る舞いが多くなってきている為に苦情が出ており、注意をされる為に本日呼ばれていたらしい。

そんな彼らが姉さんの魔法を見て危機感を覚えて居るのではないかと言うのがルヴェールさんの予想だ。

お抱えとなる基準はその時のメンバーの強さに左右される事が多いとの事。

姉さんが加えられると全体のレベルが上がって自分達が次回の選考に受からない事を危惧するのは当然かもしれない。


 冒険者達は領主軍の兵士と何か話を始めたのだが、しきりに姉さん達の方へ指を指しながらわめいている。

どうやら姉さんの魔法程度大した事は無い、俺達の方が総合的な経験が違う、前衛とのコンビネーションも考えていない大道芸だと言いながら姉さんを批判しているらしい。

自分が起点となる火炎竜巻と同じタイプの魔法をメインに見せていた為だろう。

壁役が居ない魔法使い等いくら火力があろうと役に立たないというのだ。

自分達の未来がかかっているとはいえ、必死すぎる……。

そんな彼らに冷たい視線を送っていた姉さんがとんでもない事を言い出した。


「口だけは達者な連中が居るのですね。あのような者達を使うのは考えた方がよろしいかと思います」


流石にそこまで言われた冒険者達は引っ込みがつく訳も無く、姉さんに暴言を吐きまくるが姉さんは全く気にもしていない様子だ。

僕には胃が痛くなりそうな状態です…………。


 冒険者として引っ込みがつく訳も無いので当然実力勝負での決着という話になってしまった。


「姉さん、流石にこの状態は不味いよ……」


そう言う僕に、


「大丈夫よ、あんな奴らに私は負けないわ。自信過剰ではなく、しっかり根拠があっての事だから心配しなくていいわ」


と言った。

ちなみに、何故姉さんがここまで好戦的なのかと言えば、クレリアさんが商品を納めている商店等でもこいつ等の被害がかなりあるらしく、目障りだからこの機会に排除する気なのだとか。

あまり表面には出していないが結構怒っているらしい。


 僕も一緒に戦う事を条件に加えて貰えるよう領主様に言おうとしたら「邪魔」の一言で姉さんに断られた。

こうなったらもう見ているしかない。

いざとなったら姉さんの命だけは守れるようにいつでも飛び込める心構えをしておく。


「それでは、領主様及び冒険者ギルド公認の試合を行う。この試合での基本として、故意に殺害する事は禁止されている。双方、正々堂々戦い、悔いの無い戦いをするように」


ギルド公認である為にガラエスさんが両者にお決まりの注意を促す。

同性であり、それ程歳も離れていないのにあれほどの実力を持つ姉さんをすでに尊敬しているらしいお嬢様は、とても心配そうにしながらも期待に満ちた眼差しを姉さんに向けている。

ルヴェールさんとガラエスさんが審判として両者の側面へ移動して準備が整ったようだ。

武器を構えて姉さんを睨みつける冒険者達に対し、武器も持たずにのんびり立っている姉さんが対照的だった。


 領主様の号令でついに戦いが始まった。

魔法物質の変化が見える僕の目には姉さんの動きがわかった。

僕が使う《エアシールド》の倍はある大きさの真空の盾が恐ろしい速さで七枚現れる。

どうも《ショーカット》での発動にも差があるらしく、僕の場合では発動自体は瞬間発動だがコンマ何秒程度の魔法自体の展開時間がある。

姉さんの場合、発動した直後に魔法が展開済みで出現している感じだ。

加えて《ショートカット》を選ぶ速度が段違いらしく、ほとんど同時と言える速度で選んでいる。


 話を戻すが、ここからはこの件が終わってから姉さんに聞いた説明を交えていく事にする。

《エアシールド》の展開直後に自己強化系魔法である《フルブースト》を発動した。

力を強化する火魔法《ファイアブースト》、敏捷度を強化する風魔法《ウィンドブースト》、身体強度を強化する土魔法《アースブースト》、魔法威力と冷静かつ的確な判断力を強化する《ウォーターブースト》、それらを全て同時に発動するのが《フルブースト》だ。

全ての効果があるなら《フルブースト》以外無意味に感じるかもしれないがそんなに簡単な話ではない。

《フルブースト》は必要な全ての属性持ちで各強化魔法を習得済みが使用条件、コストは丸々四魔法分かかるくせに効果は周囲の魔法物質の消耗に依存する為に四分の一となる。

本来は極短時間で決着がつくような戦いでしか役に立たない魔法のはずなのだ。

しかし姉さんには肉体に常時流しているらしい常在魔素が存在する。

ちなみに、魔法物質=魔素という姉さんの説明を昔から信じていたが実際は少し違うらしい。

魔法物質は世界に空気と同様に存在する気体の様な物なのに対し、魔素はもっと液体の様に密集した物との事。

この魔素を燃料に《フルブースト》をすると通常より圧倒的な能力上昇と効果時間になる。

しかも、効果時間に至っては常時燃料を放り込めるために効果時間に制限が無いらしい……。


 七枚の《エアシールド》、《フルブースト》で《ショートカット》が八個全て使用……?

あれ? 攻撃魔法は?

そう思った瞬間に姉さんが自身から見て右前方へダッシュする。

恐ろしいスピードだ!

敵は三枚の前衛と魔法使い二枚、弓を持つ遠隔職一枚の構成だったが右の前衛の攻撃を《エアシールド》を消費する事無く回避し、そのまま後衛の横まで一気に距離を詰める。

その段階でようやく詠唱時間が短い、詠唱中断が目的だった妨害用の魔法を完成させて魔法使いが姉さんへ放つ。

魔法使い二名で放った魔法に二枚の《エアシールド》が微かに消耗する程度で全く問題無い。

魔法発動後に慌てて姉さんから離れようとする魔法使いの腕を捕って一気に振り回す。

仲間が近すぎて弓が撃てなかった弓持ちへ魔法使いを投げ飛ばした。

投げた瞬間にはすでに次の行動へ移っており、もう一人の魔法使いへ一気に近寄って持っている杖を蹴った。


「ギャァァァァ!!」


蹴られた魔法使いから絶叫が起こる。

どう見ても指が数本変な方向へ向いている。

そんな叫びを完全に無視して姉さんが自分で蹴った杖を追いかけて拾う。

一気に反転して一人目の魔法使いがぶつかってもたついている弓使いに接近してその腹部を右足の爪先で一気にえぐる。


「ぐふぉ…………! ……ゲハ……ゴフォ…………」


息が出来ないのかのたうち回りながら転がる。

近くに転がっている一人目の魔法使いの腕を踏み潰して前衛三人に向き直り、一気に横へダッシュ。

対応に遅れた両手斧を持った戦士の左肘の内側、防具で守る事が難しい位置へ持っていた杖を投げる。

杖がぶつかった瞬間に恐ろしい程嫌な音が響き渡り、左腕が有り得ない方向へ曲がった。


 そこからは二人の戦士が果敢に攻め立てるがカスリもしない上、カウンターで痛めつけられてボロボロにされた。

戦闘時間にして三分もかからずに冒険者達は復讐しようとすら思えないトラウマを植え付けられて退場となった。

正直に言おう。

怒った姉さんがこんなに怖いとは……。

心に刻んでおこう!!


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