20、六爵領での結末
あの容赦ない戦闘をお嬢様やメイド達に見せてしまったのは失敗だったかもしれないと後悔したが、全くの杞憂だった。
姉さんを恐れるどころか尊敬の眼差しで、是非来春の旅でも私達を守ってくださいと言っていた。
ちなみに、呼び方がお姉さまにランクアップしてもいました。
ギルド職員の二人はかなり唖然としていたが領主様は愉快そうに笑っていた。
まぁ問題はないだろうと諦め交じりに今後の話を多少しておく。
「若干やりすぎてしまった感はありますが、問題はありませんよね?」
「うむ。あれほどの実力とは流石に思っていなかったので嬉しい誤算であった。是非とも旅の際にはエル殿にも同行をお願いしたい」
領主様からも問題無しとの返事があったので安心だ。
報酬的には馬車で二週間~三週間かかる行程なので、往復に最大かかる期間の六週間分報酬を出すとの事。
往復で報酬は出すが、そのままこちらへ戻る必要は無いらしい。
王都に残ったり、そのまま他の街へ移動してもいいのだそうだ。
その後の詳細については、もう少し落ち着いた場所で話そうと言う事で御屋敷へと移動した。
応接室へ戻る際にお嬢様達とは別れ、ガラエスさんは大切な面会があるとの事で退席した。
今ここに居るのは領主様、執事さん、ルヴェールさん、そして僕と姉さんだけだ。
基本的な金額的には姉さんも合意した。
そこから必要な物資の話になった際に姉さんからの提案が出た。
「私達にはあまり人に知られたくない能力が存在します。すでに《識別》で確認されているようですので説明は不要でしょうが《女神の加護》を持つ私達の能力の一つです。この能力を使用するならお嬢様の旅の安全と快適さが増します。この能力を使うのであれば、相応の対価と情報の規制をお願いする事になります」
「具体的にはどの程度安全度が上がるのかな?」
「夜に野営する際の危険度が段違いに下がります。ただし、用意して頂く物も増えますが」
「良いだろう。まずは能力の内容を聞く段階で二割アップ、それが有効であった場合には使用して貰う対価として更に三割上乗せでどうかな? もちろん私や同行する娘達には他言しない条件を徹底させ、契約として破った場合の罰則等もそちらが納得する内容でしっかりと決めるとしよう」
「ルヴェールさんはすでに知っている内容に付随する能力なのですが、他言無用でお願いします。この能力は勇者様の《無限倉庫》の劣化版……いえ、バージョン違いと言える能力です。この能力を使うと目に見えない場所へアイテムを保管できます。勇者様の場合、無制限に数は持てますが大きさに制限があるそうです。私達の場合、アイテム数に制限がありますが勇者様以上の大きさの物が仕舞えます」
「……成程、用意するのはとは小屋の様な物と言う訳か」
「はい。一つの物として認識できる場合には箱の中に収められている物ごと収納できました。大きさ自体は確認しながら決めて行く必要はありますが、現在確認している範囲でも寝るには困らない大きさの物も保管できます」
「食品等の必須物資も十分な量を持てる訳か」
「そうですね、食品は料理した物を暖かいまま保管できます。問題点としては数の制限があるのでそこまで多い種類は持てません。抜け道としては、同数のパンを入れた同じ容器の品という分類でなら九十九個までを同じ品として持つことが出来ます」
「ふむ。人数分を一纏めにしたパンやスープのセットを余裕も考えて六十三個は必須だろうな。万が一を考えると九十九個持っておいてもいい位か」
「メイン以外の品はいくつかの種類を各種セットにしておけば、旅の間に飽きる事無く食事で不自由な思いをせずに済む可能性が高くなります」
姉さんと領主様はそう言った打ち合わせを暫く行い、制作する移動用の小屋や馬車の荷台等についても色々手を加えたいから立ち合いながらでという話になり、詳しくは次回の打ち合わせとなった。
帰りの馬車で僕は姉さんに気になって居た事を聞いた。
いくら肉体強化の魔法が使える様になったとはいえ、どうしてあれほどの肉弾戦が出来たのかと。
答えは簡単だった。
「あれって前世の《魔素の扉》所有者の基本戦術とほぼ変わらない戦い方よ」
前の世界では魔素の供給だけで肉体が《フルブースト》以上の強化が起こったらしいのだが、こちらの世界では魔法物質が普通に存在する為にある程度馴染んでしまっているらしくて魔法で強化しないと同じ状態にはならなかったらしい。
ちなみに姉さんは弓状に形成した魔素での射撃と肉弾戦を得意としていたとの事。
魔法使いのイメージが強すぎて違和感しか無かったが、そっちが本来の戦闘スタイルなので実は万能タイプになってしまったようだ。
《アイテム》の事を言っても良かったのかを聞いた所、執事さんが《識別》を使っているのを見た姉さんは隠す事を辞めたそうだ。
《女神の祝福》は基本的に勇者やその仲間が持つ特殊能力で、極々稀にその他の人に現れ、勇者やその仲間に与えられるスキルの劣化版を保有する事があるらしい。
持っている事がバレているなら、隠すより有効に生かしつつ秘密にさせる方がいいと考えたらしい。
しかも、持ち運びできる小屋を用意させた方が圧倒的に護衛が楽になるので都合がいい。
食事にしても同様だ。
隠す必要が無いのなら色々楽が出来る事も増えるので、事前準備を万端で旅に出ればかなりリスクが減る。
余談だが、《識別》はかなりレアなスキルらしい。
鑑定系のスキルを五~六種類、相当熟練度を上げた場合に覚える可能性が僅かに発生するという程度のものらしく、超大手の商人・王家・大貴族のお抱えでもない限りは持っていない事が殆どで、こんな場所で使用者が居るとは想定外だそうだ。
《鑑定》以外では《特殊能力》がある事を知られる事はほぼ無いので、姉さん的にはかなり予定外の出来事だったとの事。
ちなみにクレリアさんのお師匠様が使用出来たので存在は知っていたようだ。
◇ ◇ ◇
翌日、ライルさん達が泊っている宿に向かうと予想外の言葉が投げかけられた。
「ルーク! 今日から俺達のパーティーが臨時のではあるが領主様お抱えとして仕事を貰える事になったぞ!」
どうやら昨日姉さんが潰したパーティーの代わりらしい。
次の春にある選考会までにしっかりと実績を残せば優遇されるそうだ。
なんにせよ、仕事が無くて時間を持て余している現状では有難すぎる申し出だ。
後でルヴェールさんに確認した所、実力的にはギリギリセーフかアウトの間位の実力であるらしいが、春まで準備等の兼ね合いで僕を確保しておきたかった事に加えて、パーティー自体の人間性は問題ないとのギルド側の判断である。
しっかり実績を積めば次の選考会で合格ラインに到達する事も可能だと言うのが現在の評価らしい。
お抱えの仕事自体はそれ程大変な出来事も無くこなせるものだった。
冬の間は魔物の動きも少なく、緊急で必要になった物を採取する事もない為に、基本は街の治安や問題解決が主体になる。
そこで任される任務となると簡単なお使い等がほとんどだ。
必要な物の用意は姉さんがメインで指示を行っているらしく、僕にもたまにどうするかの相談もあったがほぼ勝手に進めてくれていた。
そのおかげで僕達は雑用がメインではあったが、様々な仕事をこなしながら時間は過ぎて行った。
こうして僕は六爵領での生活に幕を閉じる事になった。




